夏祭りと思い出
「準備できたー?武士君、来てるわよ」
階下から母の声がする。浴衣姿の自分を姿見に映して最終確認。よし。
「今、降りるー!!」
今日は近所の神社で夏祭りがある。毎年恒例の行事で、武士と出かけるのだ。
「お待たせ」
「ああ」
「いってきます」
「いってらっしゃい」
母に見送られ神社へと向かう。夕方とはいえ暑いものは暑い。浴衣も帯の部分が暑い。隣を歩く武士も浴衣だ。
「暑いね」
「ああ」
汗一つかいてる様に見えないのだが・・・。
「何食べる?私は、綿あめとフランクフルトと・・・」
多分武士は、たこ焼きを始め色々食べるのだろう。意外と屋台飯が好きなのだ。
「誰か会うかな?」
「ああ」
近所の神社だから、中学の時の友達に会えるかもしれない。そんなことを考えて進んでいると、だんだんと人が多くなってきた。
「暑いのに、結構居るね」
「ああ」
一応、花火は上がるが、花火を見たければ別に花火大会がある。ちなみに、ヒロインは好感度一位の攻略対象と、その花火大会に行くはずだ。花火大会は来週。武士は誘われてるのかな?それとも誘った?
「あ、ベビーカステラ発見!買ってくるね」
「ああ」
ベビーカステラは温かい内に食べるに限る。時々、武士の方に袋を傾けつつ食べ続ける。武士も黙々と食べている。
「たこ焼きだ。食べる?」
「ああ」
「全部食べる?」
「いや」
たこ焼きを買って分け合う。いろんなものを少しずつ食べるのって贅沢だと思う。
「あ!雪吹じゃん」
「美奈子!久しぶり」
「久しぶり~。あ、柊も久しぶり」
「ああ」
中学校が同じだった美奈子に会う。どうやら男の子と一緒の様だ。
「もしかして、彼氏?」
「そうなの!高校が一緒でね。誘ったら来てくれたんだ」
軽く会釈をすると、美奈子の彼氏も小さく会釈を返してくれた。うん、好印象。
「雪吹だって、相変わらず柊と一緒じゃん?」
「ただの幼馴染だって」
「分かってる分かってる。じゃあね」
「バイバイ」
美奈子は彼氏と腕を組んで去って行った。
「美奈子、お化粧してたね」
「ああ」
「やっぱり、高校生になると変わるな~」
そういう私は化粧っけが皆無だ。まあ、眉を整える程度の事はするが・・・。そういえば、ヒロインはスッピンであの可愛さだ。羨ましい。しかし、今は・・・。
「さあ、食べまくろうではないか!」
「ああ」
色気より食い気である。
美奈子と別れた後、フランクフルト・綿あめ・焼きトウモロコシを制覇した私と武士は、花火を見るために屋台から離れて、境内の方へ来ていた。
「やっぱり、お祭りの時に食べると格別な気がする」
「ああ」
「まだ、お腹空いてる?」
「いや」
「私もお腹いっぱいだ~」
花火を待ちながら思い出す。毎年の夏祭り。武士が引っ越して来て最初の夏祭りは母親同伴だった。次の年からは「二人でいってらっしゃい」と小遣いを渡された。小学校の5、6年生の頃は、武士と二人で出掛けるのが少し恥ずかしかった。中学校で開き直った。・・・武士は恥ずかしくなかったのかな?
「私と二人で居ると結構、揶揄われるでしょ。『付き合ってる』とか『恋人』とか」
「・・・」
「武士もさ、恥ずかしいとか思ったことあるよね?」
「・・・いや」
「え?」
「別に・・・無い」
「そうなんだ」
それは、幼稚園の時に将来を約束したヒロインを忘れていなかったから?私の存在なんか関係なかったって感じ?
(皮肉だ・・・)
それは少し切ないかもしれない。やっぱり攻略対象とは恋は出来ないんだ。だって、私はヒロインじゃない方の幼馴染だから・・・。
ドーーーーーン
花火が上がった。綺麗だ。綺麗だと思う。思うんだけど・・・。
「来年は、私も恋人と来たいな」
(だって、武士はヒロインのものでしょ?来年は一緒に居ないでしょ?)
「・・・そうか」
「うん」
今年の花火は少し色褪せて感じた。
短めでした。