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博物館と将来の夢

 茶道部では、夏休みに合宿の代わりに校外活動を行う。国立の博物館へ行くのだ。国立の博物館なら常設展で茶道具が見られるからだという。確かに、小さい博物館や美術館で、常に茶道具を飾ってくれている所は少ない気がする。


 雪吹は博物館の最寄り駅で先輩たちを待っていた。改札の内側で待っているのだが、外の空気が入ってきて暑い事この上ない。駅の中にある店をもう少し見回りながら涼もうか・・・。


「早いね、雪吹くん」


 やって来たのは勇気先輩と友子部長だった。勇気先輩は涼しそうなポロシャツにジーンズ。友子部長は・・・着物だ!浴衣ではない。着物だ!


「友子部長・・・暑そうですね」

「慣れればそれほどでも・・・()だし、大丈夫」


 確かに、着物も帯も絽の様だが・・・。


「お待たせしましたー!あ、友子部長は着物だ。かわいい」


 京香先輩は今時の女子高生!といった格好だ。よく似合っている。


「ありがとう京香ちゃん。では、行きましょう」


 四人は改札を出て博物館へと向かった。


 博物館ではヨーロッパの云々という特別展も開催されていたが、茶道具は無さそうなので常設展のチケットを購入する。


「じゃあ姉さん、後はヨロシク」

「はーい」


 勇気先輩は一人でスタスタ行ってしまった。


「勇気は誰かと合わせて見るのが苦手なのよ」

「あ、分かります。自分のペースってありますもんね」

「そうよね。だから自由行動にしたいのだけど、京香ちゃんたら、ソファでスマホ始めちゃうから」

「だって、見ててもよく分からないから・・・」

「だから、今年は私の解説付きよ。歴史のお勉強しましょうね」

「はーい」

「雪吹ちゃんはどうする?」

「私も解説付きでお願いします」


 友子部長の解説は、茶道具のみならず、仏像・書・絵画・刀剣など多岐にわたった。


「友子部長、学芸員さんみたいですね」

「本当?嬉しいわ。実は、学芸員を目指しているのよ」

「そうなんですか!?じゃあ、大学もそっち系に?」

「ええ。史学科とか・・・いろいろ見てるわ。もちろん、お茶は続けるつもりよ」


 友子部長は将来の夢、しっかりと持ってるんだ。それに比べて、私はヒロインとか攻略対象に気を取られて、真面目に考えてないな。


「雪吹ちゃんは、まだ一年生だもの。考える時間はたっぷりあるわ」

「はい・・・」

「京香ちゃんは、そろそろお勉強頑張らないとね」

「う~。分かってます」

「京香先輩は将来の夢ってあるんですか?」

「特に無いけど、大学は行きたいなって思ってるよ。サークルとか楽しそうだし!」

「確かに・・・キャンパスライフって楽しそうですよね」

「そうそう」


 一通り見終わって、ミュージアムショップに辿り着く。友子部長は、以前に開催された茶道具展の図録を買おうか迷っているようだ。


「図録って重いですよね」

「重さは良いの。ただ、家の本棚と相談しているの」

「ああ・・・分かります」

「姉さん、迷ってるなら買えば?京香ちゃんがもう空腹で倒れそうだし・・・」

「そうね!一期一会だもの。買うわ」


 博物館を後にして、お昼を食べることになった。そこでは、勇気先輩の将来の話になった。


「僕は法律系に進みたいと思っているんだ」

「法律系って言うと、弁護士さんとか?」

「まだ、そこまで決めてはいないけど、法律って面白そうかなって」

「う~。難しそうです」

「京香先輩は学部とか決めてるんですか?」

「全然!」


 将来、将来か・・・。前世では大学に行った記憶がないから、高校生の時に死んだのかな?前世の私は何を目指していたのかな?


「雪吹くんは、将来どうするの?」

「私もまだ考えてません。でも、茶道は続けたいです」


 母がきっかけで始めた茶道だけど、今は自分の意志で続けている。私が茶道を辞めることはないだろう。


「僕も茶道は続けたいな」

「是非、続けてください。『茶道男子増えろ!』が母の口癖です」

「それは、続けないとね」


 勇気先輩が笑った。その笑顔に少しドキッとした自分が居た。


 昼食後は解散となった。友子部長と勇気先輩は、今日はお休みだけど明日も塾だと言っていた。というか、今日が塾だったら友子部長は着物のまま行ったのだろうか・・・。行くだろうな。


 雪吹は自室のベッドの上に寝転んだ。クーラーの風が涼しい。まどろみながら考える。


(将来・・・将来か・・・)


 小学生のころ、文集には何を書いただろうか。前世の記憶があった自分は、当たりさわりのない事を書いた気がする。本気の夢ではなかった。


(もし・・・)


 友子部長や勇気先輩が受かった大学を目指すのはどうだろう?また、一緒に茶道が出来たら楽しいはずだ。


(勇気先輩・・・)


 今日、勇気先輩の笑顔に心がおどった。もしかして、自分は勇気先輩を好ましく思っているのだろうか。


(武士は・・・)


 武士は将来どうするのか。ヒロインと結ばれて同じ大学とか通うのだろうか。


 ・・・なんで自分は武士の事を考えているのだろうか。


(武士は攻略対象だから!恋愛対象外!!だから・・・)


 だから勇気先輩にドキッとしたのだろうか?

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