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顔合わせと顔見知り

 夏休みに入ってすぐに文化祭に向けての顔合わせをすることになった。というのも、三年生の二人は大学受験に向けた塾、武士は剣道部の練習・試合・合宿、ヒロインも部活の練習と合宿で八月に入ると全員が忙しいという事が分かったからだ。そういえば、京香先輩も補習がある。あれ?暇なの私だけ・・・。


 武士と一緒に茶道部へ向かうと、先輩方が待っていた。ヒロインはまだの様だ。


「柊君、いらっしゃい。この度は本当にありがとう」

「・・・いいえ」

「雪吹ちゃんも、柊君を誘ってくれてありがとう」

「そんな・・・」


 友子部長から改めてお礼を言われると恥ずかしい。「男子が来てくれて嬉しいよ」とは勇気先輩からのお言葉だ。ちなみに、「茶道男子増えろ!」は母の口癖だ。


「桜井さんは少し遅れるって連絡があったから、先に始めましょうか」

「はい」


 友子部長が何枚かの写真を取り出した。


「これが去年の文化祭の様子よ。私たちは平点前。お客さんには机を用意するの」

「この部屋でやるんですね」

「ええ。部屋の三分の一で平点前、残りが机ね。コの字型に並べて15人くらい入れるかしら」

「お客さんは結構来るんですか?」

「保護者の方が多く見えるわね」

「では、点て出しを?」

「ええ。柊君に手伝って貰いたいのは点て出しなの」


 点て出しとは、茶を客の前で点てずに、水屋で、つまり裏で点てて運び出すことだ。大人数の時は点て出しになる。平点前の茶を全員に振舞っていたら回転が悪い。


「茶道部員は順番に亭主、半東、水屋をやります。柊君と桜井さんには水屋仕事をお願いします」

「裏でお茶を点てたり、お客様に運んだりするってことですよね?」

「ええ。水屋の方が忙しいと思うけど・・・」

「大丈夫です。武士はウチでも水屋の手伝いをしたことありますから。ね、武士」

「ああ」

「経験者が手伝ってくれて本当に助かるわ」


 一通り話し終えると桜井さんがやって来た。


「桜井さん、いらっしゃい」

「椿山さん、こんにちは」

「入って。先輩方、桜井さんが来てくれました」

「一年生の桜井愛華です。よろしくお願いします」

「改めて、部長の笹本友子です」

「二年生の桐山京香だよ」

「三年生の笹本勇気です」


 顔を上げたヒロインを見た勇気先輩が「あっ」と言った。


「君が桜井さんだったのか」

「あの、その節はお世話になりました」

「あら?勇気、知り合い?」

「姉さんは先に学校に行くから知らないんだね。同じ最寄り駅だよ。朝、よく会うんだ」

「そうだったの」

「彼女、前にパスケースを落としてね」

「拾っていただいて、本当にありがとうございました」


 なんとヒロインと勇気先輩は顔見知りだったのか。


「改めてよろしくね。桜井さん」

「はい!」

「では、桜井さんにも説明するわね」


 武士に話したのと同じように、ヒロインに説明した。


「桜井さんには、お運びをメインにお願いしようかと思ってるわ」

「・・・私、お手伝いに名乗りを上げてなんですが、運び方とかまったく分かりません」

「文化祭が近くなったら練習しましょう。そうね、これを使って運ぶのよ」


 友子部長が取り出したのは古帛紗だった。


「綺麗な布・・・」

「古帛紗って言うのよ。これに茶碗を乗せて運ぶの」

「難しそうですね」

「難しいって思わなくなるくらい練習しましょうね」

 

 友子部長のスパルタの片鱗が見え隠れした。


 顔合わせも終わったので解散することになった。友子部長と勇気先輩は塾の時間まで図書室へ、京香先輩は補習の一環である課題の提出に行くとかで、私と武士、ヒロインの三人で帰ることになった。


「椿山さんも武士君も小さい頃から茶道のお稽古してるんだね」

「うん。偶然身近にあったからね」

「すごいなぁ。茶道が出来て、成績も良くて」

「成績は桜井さんも負けてないじゃない。ねえ、武士」

「ああ」

「まだまだだよ。この間も副会長に嫌味を言われたし・・・」


 月一回のミーティング以外でも副会長と会っているんだね。ゲームは私の知らない所で進んでいるんだ!


「副会長って嫌な感じ!友子部長にも嫌味言ってたし。成績コンプレックスかって」

「あはは。確かに厳しいけどね・・・」


 厳しいけど?その後は?そこを聞きたい!


「三年生の先輩って忙しそうだよね」

「そうだね。大学受験があるからね。塾とか大変そう」

「会長や副会長もそうなのかな?」

「さあ・・・」


 攻略対象が塾に受験に忙しくしている姿が浮かばない。


「桜井さんは会長や副会長と親しいの?」

「え、全然!椿山さんこそ、笹本先輩たちと仲が良いよね」

「そうだね。茶道部は人数が少なくてアットホームだから」

「・・・茶道部に入っても良かったな」

「合唱部、厳しいの?」

「違うの!合唱部はとっても楽しいよ。でも、茶道部も楽しそうだなって。活動日が被ってるから、兼部は出来ないし」

「そっか」

「だから、文化祭の手伝いが出来て本当に嬉しいんだ」


 笑顔全開のヒロイン・・・可愛い。


「じゃあ、私はこっちだから」

「またね」

「さようなら」


 ヒロインは帰って行った。


「良い子だね」

「ああ」


 結局、武士はヒロインと話さなかった。武士とヒロインのイベントも、私の知らない所で進んでいるのだろうか?私にはあずかり知らない事である。


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