プレート
夢の中で、どう振る舞うか?それもまたひとつの生き方と言えるのではないだろうか。「僕」は夢の中に迷い込み、途方に暮れるのではなく、建設的な行動に出るのであった。
これは夢だ。
僕はスーツなのにスイス製の腕時計がない。鞄も携帯も財布もない。
今は大きな企画の責任者で、休みでも携帯は常に持っているのに。
さてどうするか?と見回すと、TDRのような入り口が見えたので向かうことにした。
これが夢だとしても目覚め方がわからない以上、何かをやったほうが賢く建設的だ。
僕は入り口の女性に話しかけた。
「すみません、ここはどこですか?」
「天国ですよ。入場ご希望ですか?」
と満面の笑顔。
「いえ、財布を持ち合わせてないので…」
「書類さえ書けば入場無料です」
と怖いくらいの笑顔で言われた。
暇つぶしも兼ねて履歴書や特技の用紙、質問に答える用紙など10枚ほど記入して渡した。
「少々お待ちください」
…
「お待たせしました。このプレートは必ず首におかけください」
とカードくらいの大きさの金属板を首にぶら下げてくれた。
「あと冊子は園内の説明になっております」
と不気味な満面の笑顔で言った。
何か怖くなったので、僕は冊子を持ち、入り口から『天国』へ入った。
人がまばらな大きな綺麗な公園といった感じだ。
歩きながら小冊子を開き、施設説明のページを見ていくと、色の説明ページに当たった。
「何?赤は『女を馬鹿にしている』、青は『男を馬鹿にしている』…はあ?何コレ?」
と思った。
しばらく行くと豪華な噴水が見えた。その前で男女が激しく喧嘩をしていて、
まだ離れているのに怒鳴り声が聞こえる。さらに近づいて、僕は気づいてしまった。
男は、上司の上林部長で、女は、元彼女の麻衣だった。
2人は面識がないはずだが、どこで知り合ったのか?
どっちも苦手だから会いたくないな…
でも今にも殴り合いになりそうな雰囲気なので、仕方なく仲裁に入ろうと近づいた。
「お前…小娘の分際で何だ?」
上林さん…無駄に横柄で高圧的な態度…小物にしか見えないよ?
「オッサン…女を何だと思ってるの?加齢臭エロおやじのくせに!」
麻衣…強気なイケイケな性格…全然変わってないね。まるで狂犬だよ?
よく見ると、2人はそれぞれ首からプレートをぶら下げている。
上林さんは「赤」、麻衣は「青」
僕は近づいて、
「まあまあまあ、喧嘩はやめましょうよ!」
と満面の作り笑顔で話しかけた。
2人が同時に振り向き僕を見た。
すぐに視線が僕のプレートにいった途端、表情が「激怒」に変わった。
あれ?
そこでさっき見た色の説明を思い出した。
「黄色は、自分以外の人間を馬鹿にして、ゴミクズだと思っている」
赤、青、黄とは信号か!という感じがしますが、登場人物に当てはめるのにちょうど良いと思いました。
また隠れたキーワードを用意しております。それは登場頻度が高い「笑顔」です。「僕」は満面の笑顔を作って、部長と元カノに話しかけますが、『天国』の入口で受付嬢に満面の笑顔を向けられて「不気味」「怖い」と負の印象を感じているという構造です。
1000文字小説を続けているわけですが、それと並行してマトリョーシカのように「入れ子構造」を好んで使うことが多いと思っております。必ずしも「入っている」ように仕組むわけではないのですけれど、言葉あそびのように楽しめるのです。所詮は自己満足ですけれども。
さて、この『プレート』ですが、実は20年以上前に、初めて書いた小説です。
当時は、短歌に傾倒していたために、1000文字で書いているわけはなく、3000文字以上の「長編」でした(笑)
それに手を入れて1000文字に書き直したわけです。
つまり…いよいよネタ切れになってきているという底の浅さ!
1月分はこの『プレート』で良いとして、2月からいったいどうすればよいでしょう?