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いきなりクライマックス
「宙返りするから、舌噛まないでね!」
と、神崎澄花に言われ、仙太郎は酸欠金魚のごとく口をパクパクさせる。
世界が逆転し、地が空へ、空が地へ。舞打千軒の空に浮かぶ空中要塞『ブラック・ツェッペリン』から発射される鳩豆マシンガンのうねりのような掃射がスライドする飛行艇『トスカッチオ』の軌道をなぞるように執拗に追ってくる。
「このまま突っ込むわよ!」
通信装置からきこえてくる澄花の声に仙太郎は耳を疑う。
どうやら、巨大飛行船を三つつなげた空中要塞へ単機乗り込むつもりなのだ。
「あの、すいません。僕、宿題が――」
宿題という言葉に煌く日常のありがたさを感じる日が来るとは思ったことがなかったが、それも三馬鹿ゆえなのか。
今の仙太郎には飛行艇の手に汗握るドッグファイトも恨めしい。
どうしてこんなインディー・ジョーンズもどきの大波乱を味わうハメになったのか?
それは一本の詰め替え用ボトルインクから始まったのだ。




