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ワルツ文具堂飄奇譚  作者: 実茂 譲
墨ドル銀貨のカード立て
42/52

鮭のごとく回帰

 スイカの汁でべとべとになったカードには、

『ワルツ文具堂』

 と、あった。

「おお、来た、来た」

 仙太郎の声は扇風機に震えていた。浩平が来るまで、あー、と扇風機相手に五十音順第一の音を放ちつづけていたのだ。

「これはいったいどういう仕組みなんですか?」

「仕組み?」

「どっきりカメラなんでしょう?」

「まだ若いのにずいぶん古いものを知ってるねえ。今どきどっきりカメラなんて言わないよ」

「これ。スイカのなかから出てきたんです」

「べとべとだね」仙太郎は言った。「いったい何をお願いしたんだい?」

「お願い?」

「宝探しなんだから、宝物に何を選んだのかってことだよ」

「冷凍庫のアイスです。ガリガリ君」

「コーラ味?」

「はい」

「きみとはいい酒が飲めそうだ。いや、実際、飲ませないけど」

 仙太郎は扇風機の後ろのスイッチを押し込み、風が浩平にもゆくようにした。「つかぬことをきくけど、ここに来るまでにどんなところでカード立てを見つけたんだい?」

 浩平は説明した。

 仙太郎はうなずきながらきいていたが、説明が終わると、

「墨ドル銀貨のカード立てはね、お願いしたものが大きければ大きいほど、冒険もたくさんできるんだ。冷凍庫のアイスを欲しがったくらいで、ここまで冒険は出来ない。もっと大きなものを宝物に設定したんじゃないかい?」

 といいながら、仙太郎はシャボン玉セットを入れていたボール紙の箱を取り出して、なかを開けた。

 カード立てが一つ。『市長室』。

「また、めんどくさそうなところが出たね」ため息をついている浩平を尻目に仙太郎が言う。「まあ、二十歳前なんだから、何事にも挑みかかってみるべきだよ。挑みかかった分だけ、きみの株は上がるんだからね。文房具屋、ウソつかない」

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