鮭のごとく回帰
スイカの汁でべとべとになったカードには、
『ワルツ文具堂』
と、あった。
「おお、来た、来た」
仙太郎の声は扇風機に震えていた。浩平が来るまで、あー、と扇風機相手に五十音順第一の音を放ちつづけていたのだ。
「これはいったいどういう仕組みなんですか?」
「仕組み?」
「どっきりカメラなんでしょう?」
「まだ若いのにずいぶん古いものを知ってるねえ。今どきどっきりカメラなんて言わないよ」
「これ。スイカのなかから出てきたんです」
「べとべとだね」仙太郎は言った。「いったい何をお願いしたんだい?」
「お願い?」
「宝探しなんだから、宝物に何を選んだのかってことだよ」
「冷凍庫のアイスです。ガリガリ君」
「コーラ味?」
「はい」
「きみとはいい酒が飲めそうだ。いや、実際、飲ませないけど」
仙太郎は扇風機の後ろのスイッチを押し込み、風が浩平にもゆくようにした。「つかぬことをきくけど、ここに来るまでにどんなところでカード立てを見つけたんだい?」
浩平は説明した。
仙太郎はうなずきながらきいていたが、説明が終わると、
「墨ドル銀貨のカード立てはね、お願いしたものが大きければ大きいほど、冒険もたくさんできるんだ。冷凍庫のアイスを欲しがったくらいで、ここまで冒険は出来ない。もっと大きなものを宝物に設定したんじゃないかい?」
といいながら、仙太郎はシャボン玉セットを入れていたボール紙の箱を取り出して、なかを開けた。
カード立てが一つ。『市長室』。
「また、めんどくさそうなところが出たね」ため息をついている浩平を尻目に仙太郎が言う。「まあ、二十歳前なんだから、何事にも挑みかかってみるべきだよ。挑みかかった分だけ、きみの株は上がるんだからね。文房具屋、ウソつかない」




