ちぇすとー!
スイカ畑、それも収穫が終わったスイカ畑はひどく虚しい。
第三産業道路と県道八号線の十字路は二十メートル四方のスイカ畑を四つの正方形に切っていた。どう考えても、へんな形だったが、土地の使用に関する法律か何かがあるのだろうと思い、スイカ畑を歩いてみた。他人様のスイカ畑ではあったが、そこに残っているのは枯れた蔓草が二、三本でスイカは当然収穫されているので、一つもない。
「もし、カード立てが土に埋まってたら、お手上げだな」
だが、もっとお手上げの事態がやってきた。無人のスイカ畑でぶつぶつつぶやきながら、墨ドル銀貨のカード立てを探しているところに間宮恭子がやってきたのだ。
「相良くん?」
間宮恭子は自転車を止めた。
「あ、間宮さん」浩平はひどくバツが悪そうに言った。「こんちは」
「何してるの?」
ワルツ文具堂の店主に変なものを買わされて、宝さがしごっこをしてる、とは言えなかった。それじゃ馬鹿みたいじゃないか。それで、浩平は、
「畑の様子を見てるんだ」
と、こたえた。
「ここ、相良くんのうちの畑なの? ぜんぜん知らなかった」
「いや、うちの畑じゃないんだ」
言えば言うほどドツボにはまっていると思いながら、言葉が止まらなかった。
「じゃあ、自分の畑でもない畑を見てるの?」
「うん」浩平はしょんぼりしてこたえた。
「どうして?」
「土地マニアなんだ、おれ」
間宮恭子は不可解な出来事に遭遇して、小首を傾げたが、その様子がとても可愛かった。間宮恭子は毎日どのくらい勉強してるんだろう? 間宮恭子はいつもクラス一位で、浩平は二位か三位だった。今の努力でもいっぱいいっぱいなのに、さらに上を行く彼女はもう努力ではなく、特別な才能があるのではないか? その才能というのは世の中のくだらないものに興味を持って時間を無駄にしたりしない。たとえば、墨ドル銀貨のカード立てとか、スイカのないスイカ畑とか。
間宮恭子が去っていくと、その後ろ姿を見つめ、そして、帰り支度をするべく、土塊を蹴飛ばした。
すると、畑の隅にいかにもまずそうなスイカが転がっていた。色が褪めてて、なかまでまっしろ、食うところのなさそうなスイカだ。そして、そばにはお誂え向きの木の棒がある。
浩平は思い切り叫んで、目隠し無しのスイカ割を敢行した。
スイカはもろく、そんなに強く叩いたわけでもないのに、八つに分かれて、ボロボロと果肉をこぼした。
「げっ!」
浩平はうめいた。
というのも、なんとスイカのなかから、墨ドル銀貨のカード立てが出てきたのだ。




