おそらく祖父道雄もそう感じた
「ふーむ」
仙太郎は舞千新聞を広げて、ワルツ文具堂のいつもの位置に座っている。
「今度の今度こそ、怪盗レインボーは〈アナスタシア・ロマノヴァ〉を盗んだわけか」
盗まれたのはとあるアンティーク商。どうも盗品の売買もしていたらしい。
「十年越しだ。しかし――」と、仙太郎。「どうしてこういわくつきの文具は悪いやつの手に渡るのかねえ。そもそも真面目に商売してちゃ、巡り合うこともないか――ん?」
新聞紙を閉じて、目を上げると、桐島姉妹がいた。
「あ、あの」七美がおっかなびっくり話しかける。「今日は、その――」
「あたし向きのかっこいい万年筆を見繕ってもらいにきました」
同じ姉妹とは思えない活動的な妹の詠が代わりに伝える。
「万年筆なら、もう桐島が――じゃなくて、お姉さんがたくさん持ってると思うけど」
「お姉ちゃん貸してくれないの。ケチだから」
「ケ、けケケ、ケチだなんて、その、あの――」
「こら、お姉さん困らせちゃ駄目だよ」
「わかってるって、お姉ちゃん。お古じゃなくて新品を使って欲しいんだもんね」
七美はこくこくうなずく。
「まあ、僕としても、常連さんが増えるのは大歓迎だよ。じゃあ、スタンダードなところでパイロットのカクノなんてどうかな?」
「えー、子どもっぽ過ぎるなー。もっと、こうカチッとした万年筆らしいのがいい」
「じゃあ、デスクペンって感じでもないか。なら、これは――」
仙太郎はあれやこれやいろいろな万年筆を見せる。
それを七美はこっそり微笑んで見守る。
最初はそう気張らず、肩の力を抜いたような自然体のペンに慣れる。そのうち、もっと滑らかな、裏に染みないなど、いろいろ要求が出る。そのうち、これはというペンにぶつかり、今度は紙に凝り始める。
そうやって文房具が好きになる。
妹だけでなく仙太郎まで一緒になって万年筆選びに夢中になっている。
それを見て、七美は一番大切なものが妹に受け継がれた気がして、うれしくなった。
万年筆〈アナスタシア・ロマノヴァ〉〈了〉




