四九二〇万円節約した悪党
意識を取り戻したとき、最初に目に入ったのはチェック模様。
それがベッドの天蓋らしいと気づく。
体の自由がきかない。伸びた四肢は鎖のようなものでつながれているようだったが、それ以前に体が痺れて、言うことをきかない。
マスクはつけられたまま。ただ、道具は部屋の隅の小さなテーブルの上にごちゃっと置かれている。
声をかけられ、七美はぎくりと体を震わせた。
「あの技術屋のガキは――」
と、野太く、ねっとりした声。
「――赤外線センサーのランダム装置に五千万もするとほざいた。だが、おれが知っている金持ちの変態の方法なら八十万でこのとおり。お前を捕まえて見せたぞ」
てらてらしたスモーキング・ガウン姿の黒田武光がくすくす笑っていた。
「〈アナスタシア・ロマノヴァ〉を持っていると嘘をつきましたね?」
七美がたずねた。
「目的はわたしですか?」
黒田氏は背を向けて、壁の金庫のダイヤルをまわしながら、
「なかなかカンがいい」
扉を開け、なかに手を突っ込んだ。
振り向いたとき、手には小さなリヴォルヴァーが握られていた。
「正しくは、お前がこれまでに盗んだものに興味がある」
部屋の反対側のミニ・バーのスツールに腰かけ、デキャンタから琥珀色の酒をグラスに注ぎ、一口飲む。そのあいだも銃口は七美に向けられていた。
「悪党からしか盗まない。それも高価な文具ばかりを狙って盗む。正直、文具の良し悪しなど分からんが、それが高く売れるなら、ぜひとも欲しい。これまでレインボーが集めた宝の数々。それをいただく。実に効率がいいだろ? 盗んだものの在り処を教えれば、警察には突き出さない。悪い話じゃないはずだ」
「あなたは一つ忘れています」七美は真っ黒く開いた銃口をにらみ返しながら言う。「わたしが盗む文具はどれも持ったものが不幸になる文具だってことを」
「その手の怪談なら聞き飽きた。さあ、宝の隠し場所を吐くのか、吐かないのか」
「……殺されたって言いません」
黒田氏はグラスをあおって、銃をカウンターに置くと、指を鳴らした。
「おれはカネが好きなんだ」分かってほしい、と前置きして黒田氏が言う。「札でも宝石でも土地でも文房具でもいい。カネになるものが手元にあると頭がおかしくなるくらい嬉しい。そういうときのおれは――」
そこで、言葉を止め、次の言葉を考え、結局、首をふった。
「あいつ」ザラザラした声がした。「八十万でお前を捕まえる方法を考えたやつ。そいつはまったく小さな娘が好きでな。おれには理解できん。だが、試してみろって言われたっけ?」
黒田がネクタイを緩め始めた。




