MJ
「見ろ! マイケル・ジャクソンだ!」
そう、マイケル・ジャクソンだ。
「アホか? おまえら」権藤警部はぐすんと涙ぐんだ。「マイケルは死んだんだ」
「いや、マイケルですよ、警部。でなきゃ、何もないところにあんな強力な灯りが点きますか? そんなことするのはあそこにマイケルがいるからですよ!」
「あっ、ムーンウォークしてる!」
「マイケルが復活したぞ!」
「マイケルが蘇った!」
警官たちはまず仙太郎のもとへ殺到した。文房具屋ならいつでも需要を満たすほどのサイン用色紙を持っていると思ったからだ。
そして、事実、仙太郎はリュックにサイン用色紙を持っていた。
こうして、権藤警部以下警備の警官たちは白い中折れ帽と白いスーツのスーパースター目がけて一直線に突っ走っていった。
行かなかったのは宮島警部補くらいのものだった。
この真面目な若い警部補は細いフレームの眼鏡をかけたエリートだったが、その割には根性があった。
それにこれが警官たちを警備配置から引っぺがすために用意されたレインボーの罠だということを考えつく正常な頭もある。
警部補は雪崩打って野球場へ走る上司と部下を何とか堰き止めようと両手を振り上げた。
そして、そのまま制服巡査の奔流に飲み込まれた。
そして、踏み割られたインテリ眼鏡だけがそこに残った。
そして、黒田邸には誰もいなくなった……。
もちろん、カルテット馬鹿――美少女探偵一ノ瀬早紀と愉快な仲間たちがこのチャンスを利用したのは言うまでもない。
「片っ端から職質しようぜ!」
「そんでもってしょっ引くんだ!」
「とびっきりの手首を見つけたら、こいつをはめてやろうぜ!」
仙太郎は人差し指に手錠を引っかけ、ぐるぐるまわした。




