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イン・ザ・病室?


 ボーとしている優子の脳みそに聞こえてきたのは母親の声だった。

「優子、良かった。気がついたのね」

「お母さん?」

 ベッドの中で視線だけを母親に向ける。私、いつの間に眠っちゃったんだろう?あれ?私、何してたっけ?状況に全くついていかない頭に次々と新たな情報が入ってくる。

「驚いたわよ。病院から電話があって」

 病院?なんで?

「ああ、起きなくていい。寝てなさい」

 肩を押され、せっかく上げた上半身をまたベッドへ沈めると、淡い水色の掛け布団とシーツが目に入った。あれ?私の部屋じゃない?同じような色のものはもっているけど・・・・・こんなのだったっけ?同じ色だけど違う寝具。

「もう、大丈夫?頭はクラクラしない?」

 頭?母親は優子の手を両手で握り締め、

「貧血で倒れるにしても、もっと場所を選びなさい」

 ドラマのワンシーンよろしく優子に語りかけた。貧血?いや、そもそも貧血で倒れるときって場所選べるの?むちゃくちゃなことを言ってるなー、脳みその処理速度は鈍足だった。ここまで来ても優子は自分のいる場所がわかっていない。

「電車の来ているホームでなんて・・・・・」

 後半は声が掠れて聞き取れなかった。声が掠れた原因は一目瞭然。顔を背けたがその声が泣いていることを語っている。お母さん?声を掛けようとしたときだった。

「気がついた?優子ちゃん」

 ドアの前に黒い人影。黒いスーツをだらしなく着こなし、手入れもせずに伸ばしたい放題の髪を緩く無造作に束ねた髪型。一見すればただの無頓着に見える出で立ちだがファッションですと言い張られればそうとも思えるそんな恰好をした見ず知らずの男。

黒衣くろえさん」

 男の名前だろうか。母親はドアの前にいる男に駆け寄った。お母さんの知り合い?それにしてはえらく若いような。私と同じ年ぐらい?あれ?でもなんか見覚えあるような、ないような・・・・・・・・?母と男の会話が所々だが優子のところにまで聞こえてきた。

 泣きながら頭を下げる母に片手を振って応える男。そして、不自然な単語を言い残して母親は部屋を出て行ってしまった。

『先生を呼んでくる』

 先生?私もう学生じゃないんですけど・・・・卒業してもう何年だ?数えたくないな思いっきり年を感じる。

「優子ちゃん」

 くだらないことを考えているうちに男はベッドの傍までやって来ていた。妙な緊張感で優子は男を正視できない。初対面の男性といきなり二人きりにされたのだから当然ではあるのだが・・・・・・・・でも、向こうは名前を『ちゃん付け』で呼んでいる。

 見ず知らずの人ではないのか?会ったことあったっけ?・・・・・・やっぱりお母さんの知り合いかな?

「あの~、どちら」

「気分はどう?俺の恋人さん」

 尋ねようとした途端に強制終了。恋人!

 そんなもんいたっけ?私のこの二十九年の人生のなかに・・・・いや、いない。振り返る必要もなく、いない。悲しいほどの速断。

「そんな顔をしないでよ、あんたが俺でもいいって言ったんでしょうが」

 男はベッドの傍にあるパイプ椅子に座り、

「覚えてない?俺のこと?」

 少し軽そうなチャラ男な作りの顔が余裕の笑みを形作る。どこかで会った?ある、と言えばあるような・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「地下鉄での自殺未遂も?」

 自殺?未遂?


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