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毒舌少女のために帰宅部辞めました  作者: 水埜アテルイ
第3章 あなたが輝く物語

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唯一無二の君

 彼女は過去を語り終えると目を伏せて深く椅子に座り直した。

 まつげがまだしっとり濡れていて、今にもまた泣き出しそうだ。こういう時、モテる男なら何か優しい甘い言葉を送るのだろうが生憎、俺の脳味噌はその経験も知識も持ち合わせていなかった。だから黙ってアリナの言葉を、目を見て聞いた。一文字も聞き漏らさず。 

 スンスンと鼻を鳴らし、一つ大きなため息を彼女はついた。泣き疲れたようだ。


「俺は、アリナのために何ができる」


 俺の問いから十秒後に彼女は答えた。


「わからない」

「こうなりたい、とかないのか? こうだったらいいなとかさ」


 アリナは右下に視線を固定し考える。俺にはそれが迷いに見えた。もう言いたいことは決まっているのだろう。しかしそれを口に出すことに抵抗があるようだ。

 何に葛藤しているかは俺ごときでは予想もつかない。でも俺は彼女が何をお願いしようが承諾するつもりだ。似たもの同士、変人の仲間として付き合ってやろうと思う。奇跡のような確率で俺たちは出会ったんだから。

 もし赤草先生があの日俺に頼んでいなかったらと思うとぞっとする。そのまま一生関わらず口の悪い女として俺の記憶の片隅にへばりき、時間とともに昇華していくだけだっただろう。そんな悲しいことがあってたまるか。出会わなければよかっただなんて絶対にない。 

 俺たち人間は人と出会うと様々な色に染まる。出会った人の数だけ複雑に変色する。俺もアリナに影響されて、水にインクをこぼしたようにふわっと新たな色が生まれた。そうして今の俺がいる。他の俺なんて考えられない。

 

「本当の私を……お母さんに伝える勇気を貸して」

「協力する。何でも言ってくれ」

「ありがとう……彗」


 初めて毒舌アリナが俺の名前を呼んだ。

 気持ち悪いことを言おう。俺の名前って最高に綺麗な音だったんだな。世界一だと思う。 

 アリナは俺の手を握って机に顔をうつ伏せた。アリナの手は震えていて離せば消えてしまいそうなくらい弱々しかった。体温が融和して気持ちが繋がったような気分になる。この表現は変態的だなと自分を卑下した。 

 でも、このくらい神様も苦笑で済ませてくれるだろう。微笑ましい光景じゃないか。だから帰宅部の俺にも少しくらい青春させてくれ。 

 その日、俺は初めて本当のアリナに触れた。





 翌日、本当にどうでもいいことだが真琴が流歌と付き合った。

 流歌が告白したらしい。そして真琴は受け入れた。近いうちにそうなるとは思っていたが早くて驚いた。


「ごめん彗。俺は彗を置いてくことにした」

「別に同伴してたわけじゃないからどこへでも行ってくれ」


 朝のホームルームが始める前に意気揚々と話しかけてきた。

 かなり嬉しいようで俺にその喜びを共有したいようだ。素直に俺は祝福した。


「良かったな。幸せになれよ」

「やば、それ泣ける」

「お前は俺の娘かよ……」


 流歌も万々歳だろう。念願かなってお付き合いできたのだから嬉しくて嬉しくてたまらないはずだ。

 

「で、彗は?」

「独身貴族に何を言いたいんだ」

「日羽と付き合わないの?」

「それはねえよ。俺にはトマトジュースさえあれば十分だ」

「そういうトマトに興奮する性癖は早めに治した方がいいよ」

「もう取り返しがつかないんだよなぁ。妹を恨むしかないな」

「日羽に親しいやつなんて彗しかいないんだから仲良くしてあげなよ」

「本人が望むならそうしよう」


 今更だけど仲良くするとは実際どういうことなんだろう。 

 真琴と仲がいいのは自明だがアリナとはよくわからない。

 ま、深く考えるまでもないだろう。一緒にいて楽しければいいんだ。



 昼休み、事件が起きた。

 アリナが俺の教室に入ってきた。真琴との食事会中にやってきた彼女に吃驚して俺はウインナーを落とした。確かアリナが教室に入ったのは、白奈と放課後に待ち合わせしたときに俺の掃除を代行してくれたとき以来だ。

 真琴も驚いて箸を落とした。というかお前、俺じゃなくて流歌と飯食えよ。何してんだよ。

 勿論アリナは俺のもとに来た。


「図書室に来て」

「わかった。待ってろ」


 彼女は普通のトーンで呟いた。

 薔薇園ではなく図書室を指定したことに疑問を覚えた。

 早急に飯を平らげて俺は立ち上がった。


「彗、死ぬのか」

「まだまだ死ねんよ」

「楽しかったぜ、今まで。待ってるからな」

「お前、ちょっと俺に似てきてないか?」


 


 図書室に入る前に俺は既視感を覚えた。

 そういえばここで俺はアリナに出会ったんだった。赤草先生に首根っこを掴まれて引っ張られて。あれから随分と日をまたいだ。 

 まさに原点と言える場所だ。ここを彼女が指定したことには何か意味があるのだろうか。薔薇園の方がひと目を気にせずいいと思うのになぜだろう。なぜ、なぜ、なぜ、と頭をこねくり回していたら一向にドアに手をかけられないので思考をシャットアウトしてドアを開けた。 

 アリナは俺と出会ったときに座った席にいた。

 俺は机を挟んでアリナの向かい側に腰を下ろした。最初に口を開いたのはアリナだった。


「私がなぜ本を読むかわかる?」

「面白いからか?」

「そう。本は作者の魂に触れられるから。面白くないわけがない」

「それが、俺に言いたかったことか?」

「間接的だけど。私はこういう体質だから人の本質とか源に興味があるの。私ともう一人の子は本当に水と油のように別なのか。それとも部分集合のように精神を一部共有しているのか。正解はないと思うけどね、本を読んでる時は、はっきりと『私』がここにいて、『私』が作者と対話してるんだって思える。唯一無二の私がここにいるって感じる。一対一で作者の分身と会話してるんだってわかる。だから本を読むの」


 毒舌アリナではなくもう一人の方だと疑ってしまうほど柔らかな声で彼女は話した。


「あんたと会話してる時もそんな感じだった。あんただけが特別ってわけじゃないわ。鶴も白奈も魂で会話できる。でもそれは榊木彗のおかげだから。あなたを信用してる」

「そりゃ嬉しい」

「今日、うちに来てよ」

「あ、へぇ?」


 唐突な衝撃発言に調子が狂う。


「変な想像したら殺すから」


 想像も何も頭が真っ白なので無理です。

 女子高生の部屋に入るとかそれだけで警察に捕まりそうだ。


「お母さんに言いたいから傍にいて。お願い」

「任せろ。サポートする」


 アリナは屈託なく微笑んだ。


 断言する。妹の次に可愛い。

 


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【リメイク版・毒舌少女のために帰宅部辞めました】
わたしの愛した彗星

【書籍化作品】
JKマンガ家の津布楽さんは俺がいないとラブコメが描けない

水埜アテルイ Twitter

https://twitter.com/Aterui_Mizuno
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