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毒舌少女のために帰宅部辞めました  作者: 水埜アテルイ
第3章 あなたが輝く物語
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ファッションショー開幕

腕章を外して自由の身となった俺はとりあえずぶらぶらすることにした。

まずはトマトジュースを買わないと始まらない。唯一トマトジュースを販売している自販機に着くとすぐ二本買った。一本はポケットに一本は飲み歩き。最高だな。


「すーいすいくーん」


陽気な声の主は亜紀先輩だった。


「お久しぶりで亜紀先輩。自販機でよく会いますね」

「確かに。てかまーたトマトジュース飲んでんの? ドラキュラにでもなりたいのかな?」

「俺は中二病とかそういう病状になったことはないので安心してください。妹に洗脳させられてこうなっちまったんです。ああおいしい」

「そんなグビグビ飲んでたら病気になっちゃうよ」

「程々にします」

「彗くんはこれから何するの?」

「アリナのファッションショー観に行きます」

「へぇ!? ファッションショー!?」

「そうなんですよ。あのアリナがです。面白いでしょう?」

「あのおとなしいアリナちゃんがねぇ」


俺は前から感じていた違和感をここで確かめることにした。


「中学時代のアリナってどんな感じでした?」

「どうって、優しくてよく微笑む可愛い子かな」

「なるほど」

「天使みたいな?」

「そうそう! エンジェル!」


やはり亜紀先輩は今のアリナを知らない。俺の予想通りアリナが中学3年生のときにもう一人のアリナが生まれた。その1年間に何かが起きたのだ。

亜紀先輩に訊いてもアリナの謎については解けそうにないな。

そして亜紀先輩はまだ一度もアリナと会話を交えていないと確信を持った。


「今からファンションショー行くんですが来ますか?」

「暇だから行くー!」


亜紀先輩と会わせてみよう。

おそらく拓のように警戒するはずだ。毒づくかもしれないし、無視を貫くかもしれない。先輩だから罵詈雑言の嵐にはならないはずだが亜紀先輩は混乱するかもしれない。中身が別物のアリナとご対面するわけだから。


「では行きましょうか。開演も迫っているようですし」

「あいよー」


亜紀先輩とアリナは2年半ぶりに会う。

顔を見てはいると思うが話したことはないはずだ。アリナはどんなリアクションをするだろう。

ファッションショーの会場である2年3組には列が出来ていた。文化祭でも珍しい出し物だから注目が集まったのだろう。それに出演者にアリナがいることが大きい。

 問題児ではあるが男子の間では人気絶頂の日羽アリナ。彼女がファッションショーに出場すると耳に入れたらそりゃ行くだろう。だから列に並んでいる者は僅差で男の方が多い。榊木彗ビジョンには男たちの額に「下心」の2文字が映っている。手にとるように彼らの心理が見えるぞ。

一方、女子は男たちを煙たがっている。この穢らわしい獣たちめと睨んでいる。


「すごい人気だね」

「ですね。アリナが出ますからね」


俺の一言に男子が反応し、睨まれる。とんでもない殺意を感じた。


「ちょちょちょっと彗くん、睨まれてるけど」

「死ぬかもしれませんね。遺書を書き忘れてました」


日頃からアリナに近すぎると非難の的になっていたのがここでピークに達したのかもしれない。なんだろう、ライオンに追っかけ回されるシマウマの気持ちがわかった気がする。

こそこそしながら後列に並び、しばし待った。

まもなくしてドアが開かれ、とうとう開演となった。

ドアをくぐると窓は暗幕で閉ざされており、教室半分が仕切りで隠されいる。そして仕切りから出演者が通る道が我々観客のところまで伸びていて、俺たちはその道をコの字に並べられた椅子に座って囲む形だ。

俺たちには入場の際にアンケート用紙を手渡された。内容は素晴らしいと思った人を3人選ぶ、というもの。ファッションショー終了の五分後には結果を出し、上位3名を発表するそうだ。出演者は20人ほどだそうで他クラスからの参加者もいる。登場すると同時に番号の書かれた板をスタッフが掲げる。それが出演者の番号で、アンケート用紙にはそれを書くのだ。


「雰囲気出てますね」

「だね。あの仕切りの向こうに20人くらいいるって考えるとすごく面白い」

「そ、そうですね」


 何を言っているのか。


『ご来場の皆さん、本日はありがとうございます! まもなく始まります!』


司会の声を合図に音楽が流れ始めた。

ライトが通路を照らしてレッドカーペットが現れる。

俺と亜紀先輩は通路の切れ目に二人で座っている。出演者がこちらに限界まで近づいてくる位置だ。だからアリナは相当驚くだろうな。来ないと言っていた俺が最後の最後で現れるのだから。終わったらブン殴られそうだがまあいい。


一人目が登場した。

なんかもうすごい。でけぇハットを被ってサングラス。紫、黒、白が乱雑に入り混じった幾何学模様の服。素人の俺には体のラインをめっちゃ強調してんなーという感想しかできなかった。そしてハイヒール。一人目からガチすぎだろ。


「想像してたより本格的で驚きました……」

「私も……」


二人目は孔雀の羽模様のようなローブを羽織り、頭に鶏のトサカのようなものを付けたモデルが現れた。もうね、僕にはわかりません。ぶっちゃけうちの仮装喫茶とかわんねぇだろこれ。

三人目は水着姿に羽衣を肩から垂らしたファッション。過激すぎ。いかんでしょ。これこそ俺が取り締まるべき対象だと思う。でも今は腕章を外しているので権力はないのが残念だ。良かったな、ありがとうございます。

冷静に考えてみるとファッションショーというのはこういうものなのかもしれない。俺が素人だからだと思う。普通なのだろう、これは。普通だよな? 亜紀先輩、これ普通ですよね?


「えろい」


あぁ、俺の考えを代弁してくれる亜紀先輩、すごいっす。

四人目、五人目、とその後も奇抜なファションやグッとくるものも来た。俺はいいと思った人の番号をメモしておいた。

観ていて思うのだがこの衣装はどこで調達して来ているんだろうか。この学校は金持ちが集まる高校なのか? あとでアリナに訊いてみよう。

そして十六人目。

アリナが登場した。

登場と同時に観客がどよめく。


美しい。


艶やかで燃えるように赤いドレス。足元のフリルは満開の薔薇を彷彿とさせるほどきめ細かく、そよ風に当てられているように揺れている。

 くびれを強調した曲線美。開かれた胸は反則だと思いますよ。ウェーブがかけられた髪がライトで宝石のように輝き、アリナの顔を美しく照らす。「綺麗綺麗!」と連呼する鶴の声がうるさいのを除けば、この空間はアリナの掌握下に入った。そのくらい圧倒的な美がある。

これは勝ちだな、と思い、俺は1位のところに16と書いた。すまん、17以降の人たち。アリナの勝ちだ。

アリナが俺たちのところに近づいてくるにつれ亜紀先輩は「うわぁ宝石みたい!」と声を押し殺しながら俺の脇腹をドスドス殴る。お、折れてまうで。

で、限界まで近づいたであろうところで俺は「よう」と小さく声をかけた。来てやったぜ、とね。

アリナは反応して俺を一瞥する。微笑んでいた表情を一瞬デフォルトの殺意フェイスに切り替え、また戻る。そのとき俺は死ぬ、と悟った。

アリナが振り返ろうとした時、亜紀先輩はきゃーきゃー言いながら眼前にいるのに手を振る。アリナはそれを見て固まった。

異変が起きる。

目をパチクリさせて、亜紀先輩を凝視する。首をかしげる。

変だ。

歩き出さない。

十七番の人も帰って来ないアリナを見て、足を止めている。

そして突然アリナは口を開いた。


「亜紀先輩!? 会いたかったです! 超嬉しい!」


アリナはショー関係なく笑顔でいっぱいになった。

あまりに場違いなリアクション。おかしい。声色も表情も仕草もいつものアリナじゃない。こんなのただの美少女だ。

 周りの観客もどよめいている。あの毒舌の女王が元気いっぱいに喜びを露わにしているのだ。超常現象でも起こっているかのように皆眉を釣り上げる。


「えっ、どこ?」


アリナはそう呟いた。

周囲を見渡して自分の状況を確認しようとぐるぐる頭を動かす。

これは、人格が入れ替わった? そうとしか思えない。彼女はこんな行動をしない。不安そうに胸に手を添えて、泣きそうな表情を浮かべるなんてまずあり得ない。

結局、十七番の子に「アリナさん、こっちこっち!」と手招きされてアリナはそそくさと小走りで消えていった。


「どうしちゃったんだろうアリナちゃん」

「どうしたんでしょうね」


まずいな。

アリナから記憶が共有できない話をされているので彼女の状況が手に取るようにわかる。観たことない映画を途中から再生したようなものだ。今のアリナにはここがどこで、何をしているか把握できていない。迷惑をかけているかもしれないと不安に思っているに違いない。

もしかしたら自分の年齢すらも疑っているのかもしれない。自分がもう高校をとっくに卒業してどこかのショーに出演していると勘違いするかもしれない。その時間感覚すら理解できないのかは俺には未知数だが可能性としてありうる。

いてもたってもいられなくなる。

だが俺がいったところで何かできるのか?

待てよ、すると今のアリナの前の記憶は保健室と繋がっていることになるのか? 保健室からショーにタイムスリップしたような気分になっているのかもしれない。そうすると俺が行ったら何かの整理はつくだろうか。


「あっ」


思い出した。

アリナが先日2日間学校を休んだことについてわかった。

亜紀先輩がトリガーだ。

あの日、倉庫で見せた写真には亜紀先輩が写っていた。それを観た途端アリナは気分が悪くなり、そして学校を休んだ。

2日間の記憶がないと彼女は言った。

そういうことか。記憶がないというのはそういうことか。

だったら俺が登場すると混乱させてしまうかもしれない。いや、どうなんだろうか。でも彼女は俺を覚えているはずだ。顔見知りがいた方が安心するか? きっと仕切りの向こうであたふたしているはずだ。どうするべきだろう。ああ、クソ。


「いやあアリナちゃん綺麗だったなぁ」


同意はするけども! ちくしょう、俺のこの胸のもやもやを亜紀先輩に共有したい。助けてくれ。


で、俺は目を点にする。


エントリーナンバー十九番。


赤 草 先 生 登 場


ファーー! なんで赤草先生が!?

ていうか赤草先生! なんでナースの格好してるんですか! ここはコスプレ会場じゃないですよ! でもコスプレっぽいことみんなしてますけど、それはファッションというより、うーむ、やっぱ違うと思いますよ。

似合ってるけど! めっちゃ似合ってるけどもね、先生!



俺は1位に書いてあった16を消して19に書き換えた。

アリナ、お前は2番だ。


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