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毒舌少女のために帰宅部辞めました  作者: 水埜アテルイ
第3章 あなたが輝く物語
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【番外編】 小さな宇宙の銀河


 私の兄、榊木彗は変人です。


 兄が中学三年生の頃、つまり私が中学一年生の時に兄がちょっと変わってるということに気づいた。(ちょっとどころじゃない)

 兄が小学校を卒業して以来ひさしぶりに学校生活を送る兄を目撃した時の感想がそれだった、


「宇銀ちゃんのお兄さんって、あの人?」


 友達が指差す方向には体育の授業中の三年生がいた。さらに細かく指の方向に目を向けると兄がいた。

 身長180センチ。短髪。

 兄は木の棒を持ってブンブン振り回し剣道の真似事をして兄の友達と遊んでいた。私は恥ずかしくてあえて肯定しなかった。


 またある日のこと。

 図書室に本が入荷されたという話を聞いて私は目を輝かせて行った。本は身近だけど中学生には高い商品なので、タダで読める図書室が私は好きだ。

 図書室は中学三年生がいる階にあるので少し行きづらい。二歳の差はとても大きいのだ。だから友達と行った。


「もしかして宇銀のお兄ちゃん?」


 私と友達の行く手の先には酔っ払ったおじさんみたいに歩く兄がいた。


「兄ちゃん何やってんの」

「お、宇銀か。ちょっとどけてくれ。影を踏めない」


 窓から差し込む光を避けて廊下を歩いているらしい。私は呆れてそのまま通り過ぎた。





「あああー!!!」


 私はひとりでに昼休みの教室で唸った。


「どうしたの!?」


 心配してくれて話しかけられるのは嬉しいけど内容が内容だからなぁと私はいつも閉口する。

 

『うちの兄がバカすぎてどうしようもないんですぅ!!』


 なんて言えない。意味わかんないし。

 はあーー。

 まさか兄が、ガラッと変わっているとは思わなかった。何があったのかは知らない。そもそも変わってない? 私の見方が変わったから? 家では普通なんだけどなあぁ。

 毎度のように「あの人、宇銀の兄ちゃん?」と訊かれるのがもう面倒で面倒で。私としても「実は……兄です」としか言えない。

 なんだろう。

 嫌いなのかな。



 そんなもやもやを一変させたのは本当になんでもない日だった。

 私が下校して家に帰る途中に偶然路中にしゃがむ兄の姿を見つけた。でも声をかける気にはならなかった。ぶっちゃけ学校で兄とは――いや、制服姿の兄とは関わりたくなかった。軽蔑とも違うけどなんか嫌だった。日本語は難しいや。

 そのまま通り過ぎようとした。どうせ蟻でも観察しているんでしょと私は見下すような目で見ていたと思う。


 兄の足元には死んだスズメがいた。

 

 兄は悲しそうな目をしてそのスズメを葉っぱに包む。


「兄ちゃん。よもぎ餅でも食べてんの?」


 私はあえてとぼけることにした。ダイレクトにスズメのことを訊くのは言葉では表現できないけれど避けたかった。どうしてだろうと今でも思う。

 兄に深く入り込んではダメだから表面上は。

 そんなことを思っていたんじゃないかな。ただの直感。だから冗談を言った。

 兄はこう答えた。


「スズメが――死んでたんだ」


 知ってる。


「なんでだろうな」

 

 兄はスズメに問いかけるようにそう言った。


「なんで誰も土に埋めてやらないんだろうな」


 私はきっとその言葉を忘れやしない。

 兄はそのあと道路の片隅の土を掘り返してスズメを埋めた。終始兄は無表情で淡々としていた。冷淡とかそういうのではなく、敬意に近いものだった。

 私は立ち尽くして後ろで見ていた。

 大きい兄の背中は優しさに包まれていると感じた。いつも学校でふざける能無しの兄ではなく、人間味のある、命を大切にする心豊かさで溢れる兄がそこにいた。


 自分が情けないと思った。

 勝手なイメージで兄を評価している自分が愚かでならない。見下していたんだ。

 ここで兄に謝っても兄はキョトンとするだけだ。でも弁解したい。謝りたい。

 そんな私にできることは本当に限られてて、小さい。だから少しづつ返していこうと思う。


「兄ちゃん、おごるよ」

「なんでやねん」

「いいからいいから。あ、そこの自販機でジュース買ってあげる」

「宇銀がそんなことを言うなんて……一体学校で何があったんだ」

「なんもないっ! ほらこれ飲んで!」

「うおっ、投げるな投げるな。え、何故にトマトジュースなのだ?」

「トマトジュースは健康にいいし、長生きのコツなの」

「マジか。あざす。いただきます」


 命を大切にする兄にはぴったりのジュースだと思った。





「でも塩分過多で早死にしそうだな」


 あぁ。兄らしい回答だ。






 恋愛がらみの噂を全く聞かないから本当は兄はホモなんじゃないかと思っていた。

 暇つぶしに友達にそのことを話すと目を輝かした。


「それ、高まるッ!」

 

 友達は嬉しがっているようだった。その反応が謎だったので私は首を傾げたけど後に腐女子という人だということがわかった。世界にはいろんな人がいるなあ。


 兄が中学を去って2年。

 中学三年生になって私は最近兄に近しい女の子がいることを知った。

 日羽アリナ。

 その人はとても癖のある人で物凄くSで物凄く毒舌で物凄く美人らしい。いろんな要素が混じってるなぁと私は興味がわいて、兄の通う高校に兄と一緒に行った。

 本当に久しぶりに一緒に登校した。


 アリナさんは本当に美人だった。

 茂みに隠れて校門に向かう二人を見て私は驚いた。


(モデルなのかな!? すっごー!)


 ついつい独り言を漏らしてしまう。それほど美形だったから。本当に美人! 兄ちゃんが霞む!

 二人はそのまま校門へと向かった。私は!? 兄ちゃん私を置いてけぼり!?

 スマホがぶるぶる振動した。兄ちゃんからの着信だ。素直に出るのは物足りないと思った私は着信を切って茂みから飛び出た。

 弾丸タックル!







 また月日が流れ。

 兄ちゃんが文化祭でアリナさんと行動を共にするらしい。本人は付き合ってないと否定するけど私は気になってしょうがなかった。本当にアリナさんが美人だったから「どうして兄ちゃんと!?」と頭の中でもやもやが消えない。

 文化祭で高校の下見を兼ねて二人の恋愛事情を見破ってやーろおっと。

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【リメイク版・毒舌少女のために帰宅部辞めました】
わたしの愛した彗星

【書籍化作品】
JKマンガ家の津布楽さんは俺がいないとラブコメが描けない

水埜アテルイ Twitter

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