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毒舌少女のために帰宅部辞めました  作者: 水埜アテルイ
第2章 あなたに囁く少女たちの物語
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飾りつけ


 文化祭が刻々と迫るにつれ校内の活気はうなぎのぼりに高まっていった。俺はあちこち回る要員になっているので、その熱気を全身に浴びて少々疲れが出てきていた。でもこんなところで弱気になっては元も子もない。


 アリナの体調はもう回復したそうで、ここ数日は相変わらず罵倒の日々である。しかし真面目に生徒会の仕事を担っていたので、やると決めたことは最後までやる性格なんだとわかった。

 結局、2日間の記憶がないという真偽は未だに白黒ついていない。言及もしなかったので俺が目を点にしただけで終わったが、今思えばアリナは俺に少しでもいいから気にして欲しかったのかもしれない。

 自惚れていると思われてしまうだろう。けど人に「2日間の記憶がなかった」とわざわざ言うだろうか。しかもあのアリナがだ。干渉して欲しくない性格のあのアリナがわざわざ人が興味をそそるような言い方をしたのだ。

 

 俺はぼんやりとそんなことを考えながら教室の飾り付けをしている。

 我がクラス、2年2組は仮装を主題にしたカフェだ。服装は何でもあり。着物でも鎧でも。常識から外れた物で無い限り自由だ。俺は当日アリナと見回りをするという理由で仮装を回避した。生徒会万々歳だ。仮装など1ミリもする気がなかったからよかったぜ。

 

「彗は何の仮装するんだ?」

 

 高根真琴がそう言った。

 

「本当に残念ながら俺は仮装をしない。別の仕事があってな」

「えー、彗のコスプレ見てみたかった」

「うそこけ。逆にお前がどんな仮装をするか楽しみだ」

「適当にマスク買って済ますつもり」

「それが無難だな」

 

 そんなくだらない話をしていると紙のリングを肩にかけた鶴がやってきた。

 

「彗、コスプレしないの!?」

「残念ながらの残念ながら。校内の治安を守る使命を与えられたんで」

「絶対アリナさん楽しみにしてたと思う」

「ないない」

「楽しみにしてたよ。私と話してたときは笑ってたよ」

「あざ笑いだろうなぁ。2年3組のファッションショーは舐め回すように見てやるがな」

「へぇ。見に行くんだ」

「面白くなりそうだからな」


 実際アリナは相当目立つだろう。その時のあいつの顔を見てみたいものだ。気取るか、恥じらうか、はたまた怒りに顔を歪めるか。見ものである。

 

「彗、悪巧みの顔になってるぞ」

「すまんすまん。整形してくる」

「じゃあもしかしたら文化祭で面白い光景に遭遇できるかもね」

「? どういう意味だ?」


 鶴は意味深な笑みを浮かべて作業に戻っていった。鶴の見た目は控えめなギャルだが頭脳は不動の学年トップ。何を考えてるのかは俺の10歩先くらい先に進んでいる。せめて身の安全に関わることは教えてくれよ。



 放課後になり、早速生徒会へと足を運ぶ。本来帰宅部であるはずの俺がどうしてここまで残らなきゃいけないのかとしばしば思うのだが、ぱっとアリナの存在が浮上して、ため息をつく。

 彼女の更生の為に尽くしているのだ。赤草先生に頼まれ、あの日俺とアリナは図書室で出会った。それからずっと共に行動している。

 アリナに変化はあったかと訊かれれば「わずかに」と答えられるくらいにはアリナも少しはやわらかくなったんじゃないだろうか。鶴とは普通に喋れているそうだし、これから頻度は増えていくだろう。こういうのもなんだがアリナは俺に心を許していると思う。言ったら確実に刺されるから胸にしまっておこう。


「こんちはー」


 鶴とアリナは既に生徒会に来ていた。生徒会長の席順――じゃなくて関潤、並びに文化祭役員の佐伯詩帆、他にもモブキャラ。(あまり関わりがないので名前を思い出せない)

 どうやら俺待ちだったそうなので、生徒会長は俺に座るよう促した。

 関潤生徒会長が立ち上がった。


「文化祭まであと3日。着実に当初のプラン通り形が出来上がってきている。生徒会も人手を補充したおかげでスムーズに計画通りに進んで、時間に余裕をもってやってこれた。無駄にすることなく、本番に向けて残りの時間は最後まで心を込めて文化祭を作り上げよう!」


 会長の言葉がスタートの合図となり、作業が始まった。みんなやる気に満ちていて団結している。これが部活動や委員会に所属する人たちの持つ団結力というものだ。

 帰宅部の俺には懐かしいエネルギッシュな熱だ。毎日授業だけ受けてあとは家でくつろぐのも悪くないし本望だがたまにはこういう――いわゆる「青春」も悪くないと思う。特にアリナにはそれを感じ取って欲しかった。

 作業に移るわけだが会長の言う通り、時間に余裕がある。出し物、企画等はもはや生徒会の介入が必要なレベルを通り越し、各グループごと細部調整の仕上げにかかっている。

 3日前ではあるがミスに気がついた時に修正するためにも早めにみんな行動してるのだ。忙しや忙しや。

 俺とアリナは本来の目的である「生徒会所属の臨時風紀員兼案内係」の確認をすることにした。


「文化祭の内容は大体OKか?」

「ええ」

「詩帆からは基本的に自由にしていいと言われている。サボるという意味ではないぞ。巡回時間とか交代制とか特に要求はない」

「そ」

「基本的に二人で回ることを考えてるんだがそれでいいか?」

「……なんであんたと回んのよ」

「何かあった時、お前が無視しかねないのと不機嫌そうな態度をするのが怖いからだ」

「……まぁ、わかったわ」


 自覚はあるらしい。非常に滑稽だった。


「あ、ちなみにファッションショーの時間は俺に任せてくれ。その間は俺が一人で回ってる」

「そ」


 実にフラットなトーンで返したがアリナは口元を微妙に釣り上げた。俺はそれを見逃さなかった。残念だったな。ファッションショーは見にいく。その間、案内係の腕章は外しておけばいい。じっくり眺めてやる。ぐへ。


「――今、寒気がしたわ」

「体調悪いのか? やっぱヤバイか?」

「いいえ。地下鉄痴漢魔みたいな下劣非道な男が私を見つめていた気がしたのよ」


 はいはい僕ですよ、榊木彗ですよ。

 絶対見に行ってやる。

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【リメイク版・毒舌少女のために帰宅部辞めました】
わたしの愛した彗星

【書籍化作品】
JKマンガ家の津布楽さんは俺がいないとラブコメが描けない

水埜アテルイ Twitter

https://twitter.com/Aterui_Mizuno
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