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毒舌少女のために帰宅部辞めました  作者: 水埜アテルイ
第2章 あなたに囁く少女たちの物語
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誰も知らない2日間


 アリナは2日間学校を休んだ。


 集合写真を見たあの日の翌日、珍しくアリナは学校を休んだ。理由は体調不良らしい。確かに調子が悪そうな顔色で去っていった。

 そして休んだ日の翌日。また彼女は休んだ。理由は同様。電話してみようかとも思ったが、寸前でやめた。不機嫌になるだけだと思ったからだ。

 鶴も心配していた。「何かアリナさんについて知ってる?」と訊かれたが俺には何も答えられなかった。

 しかし推測くらいは出来る。タイミング的にあの集合写真が原因だ。気分が悪くなるものでも写っていたのだろうか。俺には青春してる輝かしい3年生にしか見えなかった。

 

 そしてアリナが学校を来なくなって三日目。とうとう彼女は登校した。

 真琴と話しているときに廊下を歩くアリナの姿が一瞬視界に入った。

 俺は呼び覚まされたように立ち上がった。


「すまん、トイレ行ってくる」

「トイレに行くような顔つきではないぞ……」

「南スーダン行ってくる」

「勝手に行ってくれ……」


 呆れた表情で真琴はそう返した。休み時間は残り3分程度だが今すぐにでも話しかけたい衝動に駆られて教室を出る。

 廊下に出て横断歩道で車に注意する小学生みたいにきょろきょろと首を動かす。ちょうどアリナは教室に入るところだった。


「アリナ! ちょっと待て!」


 アリナの体半分が教室に消えたときに彼女は止まって一歩下がってくれた。


「なに?」


 そこらに転がる石ころのように無表情のアリナ。元気そうには見えないがこれがノーマルアリナで毒舌アリナだ。


「体調は大丈夫なのか。二日間も学校休んでたろ? 風邪か?」

「ええ。問題ないわ。あんたを見て気分が悪くなったけど」

「そりゃよかった。鶴も心配してたぞ。『何かあったんじゃないかって』。本当に大丈夫なのか?」

「体調に関しては」

「体調以外で問題があったような口ぶりだな」

「そうね」

「何があった?」

「この二日間、記憶がないのよ」


 鐘が鳴った。

 休み時間終了の鐘が俺たちの会話を断ち切る。

 二日間の記憶が――ない? それについて俺は尋ねようとした。が、鐘を合図に彼女は教室に入っていった。まるで凍結された時間が鐘で動き出したかのように。

 

 二日間の記憶がない。


 その言葉の余韻が脳で波打っている。どういうことだ。何があったんだ?

 担当科目の教師が俺に話しかけるまで俺は廊下に立ち尽くした。




 昼休み。


 戦場と化した売店をぼーっと眺めながらアリナの言葉を思い返す。

 記憶がないなんて現象は起こりえるのだろうか。しかも二日間。そんな現象を体感したらきっと俺はタイムリープしたと思い込んでしまう。

 そんなSFはこの世にまだ確立していない技術なので妄想でとどめられる。しかしながら彼女は嘘をつかない。本当に起こりえたのだろう。

 腰をくねくねと動かしてパンを奪いあう生徒たちを眺めていると肩をとんとんと叩かれた。

 俺の側に白奈が立っていた。俺はいっきに心拍数が上がった。


「ど、どうした」

「久しぶりに、は、話すね」


 そうだ。久しぶりだ。

 白奈が俺のことを「好きだった」と言って以来、まともに目すら合わせられなかった。

 

「アリナさんのことなんだけど、彗、何か知ってる?」

 

 アリナが二日間休んだことについてだ。


「体調不良とだけは聞いたが」

「でも違うと思うんだよね。休む前日にアリナさんを放課後見かけた人がいたんだけどね。すごく不安そうな表情をしてたんだって。アリナさんじゃないみたいだったって。彗、何かしたの?」

「何もしてない何もしてない! 寧ろ俺が酷い仕打ちを受けている」

「本当に? 二人とも仲がいいから調子に乗ってひどいこと言ったんじゃないの?」

「俺とあいつは仲がいいことになっているのか……とにかく俺は何もしとらん! ひどいことを言っているのはあっちの方だぞ。基本的に人間扱いされない」

「ならいいけどアリナさんのことちゃんと見てあげなよ。アリナさん、意外と繊細だから」

「そうなのか? なぜそう思う?」

「女の勘、っていうやつ?」

「赤草先生みたいなこと言うなよ……」


 記憶がない、ということに関しては伏せたが白奈にも体調不良以外の『何か』で休んだと勘づいている。それが記憶喪失だとは思いもしないだろうが。

 

「で、またパン買いに来たの?」

「イエス。だけどこの有様だ。近づきようがないからただ傍観してる。死肉を屠るゾンビみたいで恐ろしい」

「彗、争い嫌いそうだもんね」

「そうだ。争いなんか嫌いだ。ちなみに尊敬する人はキング牧師だ」

「ふぅん? 彗らしいね」


 そう言って白奈は去っていった。ひらひらとスカートを揺らせながら俺のよく知る白奈は小走りで遠ざかっていった。

 俺にとって波木白奈は何者なのだろうか。

 女友達というのがしっくりくる。それ以上でもそれ以下でもない。


 白奈にとって俺とは――。


 いつかわかる日が来るのだろうか。


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【リメイク版・毒舌少女のために帰宅部辞めました】
わたしの愛した彗星

【書籍化作品】
JKマンガ家の津布楽さんは俺がいないとラブコメが描けない

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