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毒舌少女のために帰宅部辞めました  作者: 水埜アテルイ
第2章 あなたに囁く少女たちの物語

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寒空の僕ら

 日を増すごとに紅葉が美しくなっている。落ち葉が舞い始める季節になり、寒さが苦手な俺にとって朝の登校は地獄の行軍だ。

 なぜ『行軍』かというと俺以外の人間もそうだからだ。死者のように歩く社会人たちと一緒に俺も冷たいコンクリートを踏みしめる。うららかに照りつける太陽光がまるで俺たちを溶かそうと躍起になっているようにすら感じる。なんて地獄なんだ。

 通り過ぎるバスの中を見れば、吊革を掴み顔を伏せて寝る人がすし詰めになっている。まるで囚人だ。待ち受ける監獄という恐怖の塊と深い後悔を胸に抱いているかのように。


「帰りてぇ……」


 俺の全てを込めた言葉がこれだ。

 おそらく朝0700から0830の間に、日本中で合計3000万回くらい人々は胸の内で吐露しているだろう。既に俺だけでも100回分貢献している。


「最悪」


 俺の心境を表現したかのような声色で、『最悪』とソプラノが響いた。ゾンビのように下を向いていた俺は顔を上げる。


「朝からあんたを見るとか死にたいわ。高速道路で踊りなさいよ」

「ああ、アリナか」


 そんなジョークを飛ばせる力がもうあるとかやべえな。俺なんて歩くことすら辛いのに。朝は大嫌いだ。ちなみに妹の宇銀は朝が嫌いではない。むしろ輝かしい笑顔で軽快に一歩を踏みしめ家を出る。少女アニメのオープニングシーンみたいに。

 一方、兄の俺は人を食いに彷徨うゾンビである。


「私のことは言わないように」

「わかってる」


 彼女はちゃんと自分が何者か解っている。自分が『日羽アリナ』という姓名を授かった本人ではないということ。自分はホンモノじゃないこと。自分を日羽アリナとして偽っていること。

 俺と図書室で出会うずっと前から彼女は自覚していた。自分を更生する、いや、自分を消すと宣言した男を目の当たりにして、彼女はどう思ったのだろう。

 素直とは言えないが、彼女は俺のプロジェクトに付き合ってくれている。それは積極的な死のようなものだ。一体、彼女は何を考えている?


 校舎に入るまで俺とアリナは並んで歩いた。


「アリナ、お前は何を考えてるんだ?」

「どうしたらあんたを南極に送れるか」

「ペンギンと仲良くなれるな」

「違うわ。ペンギンの餌になるのよ」


 豚の餌の次はペンギンかよ。

 ドヤ顔をやめなさい。何も誇らしくないぞ。


「じゃ、今日も薔薇園で」

「そ」


 




 昼休み戦争の後、真琴との食事会。

 奇跡的に勝ち取った売店のパンを頬張り、俺はウキウキだった。


「めっちゃ美味そうに食ってるね」

「当たり前だ。需要が高い割に少ないのだからな。運動部員は俺の敵だ」

「運動部員を目の敵にしすぎだろ……俺だってバド部だ」

「お、そういや、結局バド部とテニス部の抗争は終結したのか? 話し合いが始まるッ!までしか俺は聞いてなかったから結末がわからん」

「あぁ、そういや前にあったね。日羽乱入事件」

「で、どうなった?」

「大丈夫。話し合って現状維持になった。和解したよ」

「ほー。そりゃよかった。アリナも後味悪くならないだろうな。言ってやろう」

「なあ、俺からも訊いていいか?」

「なんだ?」

「日羽と彗はコソコソ何してるんだ?」

「非営利活動だ」

「ボランティア、的な?」

「そうだ。変人同士、先生に集められたのさ」


 それっぽいことを言ってみる。多少の解釈違いはあるかもしれんがおおよそ当たってる表現のはずだ。


「今度は彗と日羽が何か良からぬことを企ててるんじゃないかって噂されてるぞ」

「なんだそりゃ。テロなんか起こすつもりねえぞ」

「やめてくれよ。日羽ならあり得るから」

「あいつなら都道府県の一つくらい海に沈めそうだな」


 アリナ超人説を語らい終わると俺はまた新聞部に頼まれたミッション遂行のために動いた。

 クラスメイトに憧れの職や校内の流行等を訊いて回った。もちろん差し支えない範囲で回答してもらった。ずけずけと訊いてくる俺を不審に思っただろうがそんなことに抵抗感を感じていたらいつまで経っても集計されない。新聞部員の熱心に活動している姿を見て彼らも必死なんだなぁと思った。せっかく頼まれているのだから責任を持たなくてはならない。

 マスコミみたいだと思ったが彼らはもっと過密なスケジュールの中、おそれずに訊くのだろう。そう考えると我々が目にする情報は非常に苦労して入手されたものなんだなと考えが改まる。ただしクソな内容はどこまでもクソだ。







「なんなの」


 不機嫌そうに、現に不機嫌だがアリナは言葉に棘をつけて言った。

 アリナが教室にいなかったので薔薇園に行ったら案の定いつも通り読書をしていた。もう把握はしていないが多分、また花が増えている。ここを庭園にするつもりなのか、こいつは。

 

「あれから成果はあるか?」

「ないわ」

「誰かに訊いたか?」

「誰も」

「おいおい新聞部が泣くぞ」

「別にいいんじゃないの」


 これはいけない。

 アリナが率先的に新聞部援助を申し込んだわけではないのでアリナが手伝わない道理が通るように思えるがそれでは信じてくれた新聞部が気の毒だし、申し訳ない。それに彼女は拒否しなかった。明確な意思表示をしていないのにただ黙っているのは幼稚園児でもできる。


「アリナ、それでは無責任だ」

「そう?」

「あぁ。これはお前のためでもあるし、新聞部が俺たちを信用してくれているんだぞ。彼らを裏切ることは俺は絶対したくない」

「そ」

「おい、アリナ聞いてるのか?」


 あまりにもアリナの態度が非道かったので、俺はついカッとなって意地悪なことを言ってしまった。


「お前は、『アリナ』をどうしたいんだ」


 今まで活字を追っていた彼女が雷でも落ちたかのように目を大きく開いて俺を直視した。

 言ってからとても後悔した。なんてことを言ってしまったんだと激しく自分を責めた。

 今の言葉は最低すぎる。


『眼前の男が自分を敵視して、そして自分の存在を否定した』


 そう思われたに違いない。

 しかし彼女はすっと目を伏せてまた活字を追い始めた。まるで何も無かったかのように。

 俺は何も言えず、数秒の沈黙が薔薇園に降りた。いつも静かな薔薇園だがこの沈黙はとても重くて質感のある苦しい沈黙だった。

 そして彼女はバッグを漁りはじめ、沢山の紙が挟まれたバインダーを取り出した。


「ハサミある?」


 俺は職員が使っていたであろう棚からハサミを取り出して、手渡した。

 アリナはバインダーに挟まれたA4の紙を横に切って半分にした。それを俺の近くに置いた。


「配りなさい。配る相手は任せるわ」


 手渡されたその紙は新聞部が求めている情報がアンケート方式に書かれたものだった。紙の節約としてA4を上下に二分割しているのがアリナらしくなくてなんだか可笑しかった。

 手書きではなくワープロで書かれており、可愛げのある文章だったのでギャップがすごかった。


「なに笑ってんの。殺すわよ」

「いや、なんか面白くて」

「それ。任せたわよ」

「ああ。ごめんな、アリナ」

「そ」


 俺はアリナが作った用紙をまじまじと見た。本当に上出来だった。

 そのアンケート用紙を手に、俺は親指を立ててGOODの意をアリナに表した。アリナは俺に親指ではなく中指をピンと立てて返事をした。ま、それでいい。それでこそ俺が知る日羽アリナだ。

 アンケートを配り終わったらアリナに何か買ってやろう。お詫びもこめて食い物にしよう。だが俺はアリナが好きな食い物を知らない。やはり甘い物か? 


「アリナ、好きな食べ物はなんだ?」

「それアンケート?」

「個人的な質問だ」

「そ。マシュマロで」

「マシュマロ好きなのか。へぇ、まあ珍しいというか、わかった。じゃあ配ってくる」


 薔薇園を出て数十枚はある用紙を何気なくペラペラめくっていると一枚だけ既に書き込まれている紙があった。

 歩きながら俺はその紙を読んだ。名前やクラス等を書き込む覧はないので誰が書いたのかは判らない。


 憧れの職業 : 小説家

 

 校内の流行 : 知るかアホ


 俺は爆笑しそうになった。なんだよ、知るかアホって。新聞部が見たらショックを受けちまうぞ。

 名前のない回答者が誰かは知らないことにしよう。夢は口に出すものじゃないからな。

 俺はその夢を密かに応援してやることを決めた。


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わたしの愛した彗星

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JKマンガ家の津布楽さんは俺がいないとラブコメが描けない

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