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夏の空

作者: 枝豆



 ---人間というものは不器用であるからにして、


時々自分の心がどこにあるのか分からなくなる。


 だから、美しいものを見たり、一心に何かを信じたりして


      心を震わすのだ。---




 大学の広い講義室。


クーラーがここぞと言うばかりに働く教室で

僕は女の子を泣かせてしまっていた。


 真夏の窓越しに見る、浮雲ひとつない快晴は僕にはちょっぴり眩しかった。


彼女は僕のせいで泣いている。

 そう思う。


  希望的観測だ。

 彼女は自分のために...。




「佐藤君、話があるの。」


  僕はその申し出に心当たりを感じたから、快く応じた。

   講義終了手前だったから教室は浮ついていて

     僕もその開放的な気分に乗っていたからかもしれない。


   彼女とは友人として長く付き合ってきたつもりだ。

 もちろん、お互い名前で呼ぶような間柄ではなかったのだけれど。

  

 「あのね、ボイスレコーダー。

   私聴いたの。

   

  それについて言いたいことがあるの。」


 そう、神妙な面持ちで続けた。


一つ目は、自分の言葉で、面と面で向かって話すほうが僕のためになるということ。


二つ目は、私には付き合っている人がいること。


三つ目は、私は嘘をついていないということ。


 

  彼女は二つ目から耐えきれなかったように泣き始めてしまった。

 

 涙は見せたくないらしく、泣くときは「ごめんね。」と言って

  誰もいない教室の隅を向いていた。


 黒板近くの壇上では未だに教授と意見を交わす熱心な子がいて、

   もしかして話しにくいのかも。

     そんな風に思い、帰路についてから話そうと提案したけれど、

    彼女は頑なにそれを拒否した。


  相変わらず外では、7年越しの愛を叫ぶ蝉が「我だ、我ぞよ。」と鳴いている。

   夏の想いはクーラーで飛ばされてしまったらしい。



  僕の態度は泣いている彼女とは裏腹に飄々として、

   些事を処理する仕分けロボットのように目の前の風景を見ていたと思う。


    今にして彼女を思うと、見守ってあげたくなるような気持だったと断言できる。

     付き合うとか、彼氏彼女の関係になることは必要ないと独断していた。



  ただ、酔っぱらった僕がボイスレコーダーに吹き込んだことは、

   どうも違う僕のようだった。

   

 半年前に告白できなかったことや、昔の恋人に嘘をつかれたこととか。

  ずいぶんと赤裸々に語った記憶はある。

   だが、一献傾けた後の僕は止まらなかったようで---



   --昔の恋人の話を


  ごく普通の真面目な女の子だったと思う。

   

    すごく些細なすれ違いで喧嘩をして、女の子は最後、決め台詞のように

  「私は愛されたいの。」


     そう言った。

    

     もちろん、真面目な僕は愛さなきゃって。

      愛を伝えるようにした。


   意識して1週間ほど経つと、女の子は唐突に怒り出した。

    挙句の果てに「私、そんなこと、言ってないわ!」



     しばらく何が悪かったのか考えるけど、さっぱりで。

      一つ妙に納得出来たのは

     

   「女性なんて、男の誠意を踏みにじるようにできているんだ。」

     そんな風に語る塾の先生だった----




違う僕が語ったことを、今の僕に話した彼女は逃げるように教室から出ていった。

    

    彼女が出ていく反対側に僕も歩みを進めていく。

     

     もちろん、帰路につくのだ。

    


    外は、相も変わらずピーカン晴れで、じっとりと噴き出す汗は僕を夢現にした。


        あの子は雨より晴れが好きだよなー。

      真夏の空は雨を降らせるつもりはないようだ。




     



  彼女との関係は半年経っても、互いを牽制するように続いている。


    面倒事が起きるたびに、空は澄み渡り、美しい夕焼けを見せる。

   そんな空に、いつも決まって「意地悪なやつ!」と投げ返す。

   

     そのいつも以上に美しい景色は僕の心に深く刺さり、

        

        得も忘れられぬ情をはらりと残していくのである。










   

     







  


拙い話ですが、気に入っていただけたら幸いです。

今後もお話上げていくつもりですので、またよろしくお願いします。

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