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鍋とボク

Σ( ̄▽ ̄)[わかった、わかったって>


(  ̄▽ ̄)<いらはい、いらはい。少年、少女よ]


[お姉ちゃん、これ>□ヽ(*´∇`*) ( ´_ゝ`)


(* ̄∇ ̄)ノ□<おっ!新作ね。ありがとさん]


[…すぐ読めよな>( ̄□ ̄)


(* ̄∇ ̄*)<言われなくともそのつもりよ]


(* ̄∇ ̄*)?<ってかあんた。なんでそわそわしてんのよ


[いいから早く読めよ。おれは一刻も早く帰りたいんだよ>(#`皿´)


( ̄Д ̄)?<何さ、トイレ?違う?ならカルシウムが足りないとか]


[だ、誰の身長が低いだ。今は関係ないだろ!読めよ、いいから>o(`^´*)


( ̄ο ̄)丿<いや、言ってないし。とりあえず読みますかね]


[読んで読んで>(*´∀`)

 ボクは一番美味しい調理の仕方はお鍋だと思っている。


 それは大人になった今でも変わらないことだ。





 冬に食べる鍋は当然美味しかった。水炊き、土手鍋、ちゃんこ鍋。色んな具材が混ざり合い、色んな味が馴染み合う。


 ポン酢で食べようか、そのまま出汁で食べようか。たくさん迷ったのを思い出す。どきどきゴマだれやカラシなんかを使う変化球をすると家族に止められたり、笑われた。


 そうだ、冬に食べる鍋と言えばおでんも美味しい。ボクは玉子も牛筋も大好きだった。厚揚げや餅巾着、練り物だって美味しく食べれた。そして何よりも忘れてはいけないのは大根だ。


 トロトロ煮込まれた大根は、出汁の旨味を引き出して、同時に出汁の旨味を中に染み込ませる。


 その身は透き通る琥珀の色。香りたつ湯気を見ていると溜め息をつき、唾を飲む。


 カラシをつけて熱々の大根をハホハホ言いながら食べるのだ。最高だった。


「大人になったらもっと旨いぞ」


 お父さんがビールを片手に語りかけたのを思い出す。


 だからボクは言った。


「そんなもの要らないよ。僕が好きなのはこのおでんの大根なんだから」


 すると皆が笑った。その通りだと笑った。


 おじいちゃんが、おばあちゃんが、お父さんが、お母さんが、お兄ちゃんが笑った。


 変な事を言ったつもりは無いのに不思議だった。


 笑われたのは嫌だったけど、そのあと食べた一口はなんだかもっと美味しく感じた。あれは時間がたって味がよりいっそう染み込んだからかな?


 冬に食べた鍋は美味かった。


 勿論、当然、当たり前のことだけど、冬以外に食べる鍋も美味しかった。


 お祝いでお母さんが奮発したと言って作ってくれたすき焼き。玉子と絡めて食べるとご飯を何杯でもいけると思った。


 熱さに負けるなって夏の日に作ってくれたキムチ鍋、辛いけど美味しかった。皆で汗をかきながら夢中で食べた。


 時々余り物で作るカレー鍋。その日、その時々で中身の変わる具材は、宝箱を開ける気持ちだった。外れなんてないのだけれど。


 全部、美味しかった。


 締めで作った雑炊やうどんの味も忘れない。リゾット風に仕上げてもらうこともあったし、ラーメンもあった。これらだって忘れない。


 そう、ずっと、ずっと、忘れないのだ。子供の頃から皆で食べたあの鍋の味を。





 あれから時間は過ぎた。おじいちゃん、おばあちゃんが居なくなった。


 もっと過ぎるとお兄ちゃんが家を出ていった。


 もっと、もっと、過ぎると今度はボクが家を出た。少しだけ遠くに行くことになった。


 一人暮らしを始めて、慣れない場所、慣れない仕事をしてヘロヘロになった。


 正直、疲れた。


 ご飯は食べてるけど、何でだろう…力が出ない。


 その代わり…涙は出てきた。


 こんな時はどうしよう。


 …よし。今度の休みには鍋をしよう。


 そうと決まれば何がいいかな。何を作ろうかな。レシピは知ってる。スーパーに行けば大抵の材料は揃う。


 凄く楽しみになってきた。


 そして休みがきた。


 結局、おでんにした。


 翌日から仕込んでいただけあって大根はトロトロ煮込まれた。あの頃と同じくらい美味しそうだ。


 カラシとビールを用意した。準備は万端だ。


「いただきます」


 手を合わせ、箸をとり、一口食べた。


 丸一日煮込まれ、味の染み込んだ大根はボクの口の中で溶けるように無くなった。その瞬間、美味しさが口一杯に広がった。


 竹輪も美味しかった。


「あれ…」


 こんにゃくも美味しかった。


「何でだろう…」


 奮発したがんもどきも美味しかった。


「美味しくないや」


 不思議と涙を溢したボクはビールを飲み干してすぐに寝た。


 勿体ないからそれからしばらくはおでんが続いた。


 何でだろう、満足出来なかった。


 何でだろう 、美味しかったのに美味しくなかった。


 何でだろう。


 おでんを一人で食べたあの夜、あんなにも家族の顔を思い出したのは。


 何でだろう。


 あの夜は本当に涙の止め方がわからなかったのは。


 こうしてボクは鍋を作るのをやめた。





 ボクが鍋を作らなくなって、ボクが鍋を食べたのを見たことないから、ボクが鍋を嫌いだと思われたらしい。


 ボクのお嫁さんになってくれる人がそう言っていた。


 そんなことはないよ。ボクは鍋が一番好きなんだ。


「なら、どうして食べないの?」


「食べないんじゃないよ。美味しい鍋が食べたいだけなんだ」


 ボクがそう言うとその人は笑った。


「だったら今度、私が美味しい鍋を作ってあげる」


 自信満々にそう言った。


 ボクは楽しみにしてるよ、とだけ返した。





 お嫁さんになってくれる人が、本物のお嫁さんになって、奥さんになって、お母さんになった。


「じゃあ約束を守る日がきたね」


 子供が固形物を食べられるようになったとき、お母さんであるボクの奥さんがそう言った。


 約束?


 ボクが不思議そうな顔をしていると、忘れたの?信じられない、と怒られた。


 奥さんはぷんぷんしながらテーブルに鍋を置いた。


「あっ」

「思い出した?」


 牛肉を焼き、砂糖をまぶす。醤油をたらし焼けたら玉子に絡ませる。


 すき焼きだ。


「お義母さんから聞いたの。お祝いで食べるのはこの鍋しかないって」

「お祝い?」

「子供が固形物を食べられるようになった記念。それと…」

「まだあるの?」

「私がようやく約束を守れた記念」


 待たせてごめんね、そう奥さんは困ったように笑った。


 涙が出そうだった。


「さ、食べよう?」

「うん、いただきます」


 甘辛く焼かれた牛肉と玉子は絶品だった。


 とても、とても美味しかった。


 丸一日煮込んだ大根よりも、水炊きの出汁が染み込んだ雑炊よりも美味しかった。


「ほら、みてボクちゃん。パパが美味し過ぎて泣いちゃってるよ」


 子供をあやしながら奥さんが笑っていた。


 気がつかなかった。


 いつの間にかボクは涙を流していた。


 この美味しい鍋の味に。


 この美味しい鍋の味を一緒になって食べてくれる家族に。


「美味しい?」


 奥さんが聞いた。


「うん。僕が大好きだった鍋の味だ」


 鼻を啜りながら笑い返した。





 子供が大きくなるまでに両親の元へ一年に一度は帰って鍋をつついた。


 子供が大きくなってからも奥さんと鍋をつついた。


 今では子供の子供と時々だけど鍋をつついている。


 ボクは多分、世界で一番美味しい鍋を食べ続けることが出来たのだと思う。






(*`Д´)ノ<あんたたちっ。今日は店じまいよ!とっとと片付けないっ]


[たりめぇだ。こちとらランドセルからいっぱなしでぇ>o(`^´*)


(`□´)<あ、母さん。私。うん、今日はそっちに行くから鍋食べたい。うん、そう…OK。しゃあ]


[あっ、ずる。俺にも電話貸せ>!Σ( ̄□ ̄;)


(`□´)<店のシャッター下ろすまでの間にすませな]


[任せろ。…あ、母さん?今日はすき焼…え?マジで!>o(`^´*)


[こちとら準備万端でぃ>(`ヘ´)


(*`Д´)ノ<では、諸君。我らの合言葉とはっ]


[うまい鍋を食うっ>o(`^´*)


(`□´)ノ<よろしいっ。では、解散っ]


[理解。じゃあな>o(`^´*)


[面白かった?>(*´∀`)?


(*`Д´)ノ<食べたなったっ>(`ロ´)


[………?>(*´∇`*)

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