9/10
玉砕
「なんで…?」
淑子は、うっすらと涙を浮かべながら、敬介に聞く。
敬介は、わずかに考えてから、淑子に理由を簡単に言った。
「俺は、まだこいつに勝ってないからな」
そう言いながらも、敬介は愛美を指さす。
「え、私?」
愛美がきょとんとした顔をして言う。
「そうさ、俺がいまだに勝つことができていない相手、金内愛美に勝ってからこそ、俺は君と付き合いたい」
「それって、あなたなりのケジメってところかしらね」
愛美が言い返す。
「そう取ってもらってもかまわない。だから、それまでは、この件は留保ということでいいかな」
敬介が淑子に尋ねる。
「うん、私、ずっと待ってる」
淑子は敬介にそう答えた。
そして、振りかえらずに帰っていった。
「……それでよかったの?」
愛美が敬介に不服そうに聞いた。
「いいんだよ、俺がちゃんと惚れた相手には、ちゃんと相手してもらいたいからな」
「そりゃ、けっこうなこったで」
愛美が言ったが、敬介は意に介するふうではなかった。
「何はともあれ、行くか」
「ええ」
二人はそれから連れだって、いつもの広場へと向かった。




