一章―――猛炎
いろいろ忙しいのですよ…。
鳴り響くケータイ。
宛名は非通知
一応出てみると一言目は
「まったく貴方ともあろう人が何をしていらっしゃりやがるのですか?」
「ウイッス…。」
案の定ルーシーさんだった…。
「ミス・スコールはいまだお眠りですからお咎めはありませんが私は貴方の事を見ていますからね?」
「はい…。流石は天明眼の使い手なだけはある…。」
「そんなことを言っているのではありません。どうせ気を抜いていたのでしょう?」
「まぁ…。」
「いつもあなたは最後の最後で気を抜いてくだらないミスをする…。だからあなたはいつまでも半人前と…」
「あ、あの?追わなくていいんですか?」
「…追ってください…。位置は新都の南11地区第55コンテナです。」
「ありがとう。」
「で、ですか…」
俺はケータイを閉じた。
これ以上の会話は文字通り蛇足だろう。
体の燃焼は終わりベストコンディションである。
しかし、彼の燃焼は終わらない。
炎の衣を羽織る。
首に巻きついた炎がまるで翼のように大きく開く。
地を蹴り彼は高く高く飛び上がった。
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ビルの上を火の玉が駆け巡る。
最短の位置を感覚で思い描きながら疾走る。
ビルは整備されているとはいえ高さは少しづつ異なる
10mの壁を彼は軽々と飛び越え
大通りさえもビルとビルの間を炎とともに飛び越える
何カ所か火災報知機が反応したかもしれないがまぁ、それはご愛嬌だ
彼はいまだ疾走っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
男たちは勝ったと思っていた。
正直高校生に追われたときは驚いたが銃まで出したのだ。
きっと、驚きで手も足も出してきはしないだろう。
それにしても何度見てもイイ女だ。
胸元と腰のくびれのライン、そして腰に伸びるヒップの脚線
妹でこれなのだ。
姉はもっと美しいに違いない。
正直手放すのがもったいなく感じる。
手元において玩具にしてしまいたい衝動に駆られる。
それはほかの男も同じらしく気まずい雰囲気が流れる。
―――――――一回ぐらいいいんじゃねぇのか?
この一言を言ったのは誰だっただろうか
「それはまずいだろ」
「で、でも、一度くらいならばれねぇって…。」
汚い会話。
彼女…井駒優佳は怯えていた。
中学まで女子校だった彼女にとって今の高校のクラスの男子でさえ恐怖の対象なのだから
いつも彼女が読む本の中ではかっこいい王子様が必ずヒロインのことを助けに来てくれる。
だがこの世界に王子様はそうそういないだろう
しかも、助けに来てくれるのはわたしの姉の由美子のような全能で強く、美しい気高いの女性の前だけなのだ…。
だから私は救われない。
いつも二番
いつからか勝つことに執着しなくなってしまった私にはこんな最後がお似合いだ。
せめて、せめて、一度でも私に好きな人が出来ればきっと私はめげないのに…と悪態をつきつつ彼女は全てをあきらめた
そんな彼女の耳に爆音が届くのは数秒後の事であった。
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吉野はコンテナの前にいた。
先ほどの銃撃から30分もたってはいない。
間に合っているといいのだが…。
彼は覚悟を決めコンテナの扉に手をかざす。
彼の触れている金属部分が爆発する。
爆音を上げ猛炎の王子様はやってきた。
酷評お願いいたします。