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秘密のお茶会in図書室

「あい、エプロンを修復用に替えておいてね」

「はーい、先に返却しておきますね」

私は司書の先生から本を受け取って本を元の場所に戻していく。

図書室は午後の授業が始まる事を知らせる予鈴がなってからいつもの静寂さを取り戻した。

地域の人に開放しているので、昼休みの時間に多少ざわつくことは眼をつむるようにしている。

放課後は、レポートとかの課題をする人も多いのでざわつかないように気をつける。

小さな子連れのお母さんは大抵昼休み後から放課後前位まで来ることが多い。

その為にキッズスペースにブランケットを敷いて、乳児を連れた方でも安心して来れるようにしている。

今は、たまに先生が読み聞かせをすることも知られるようになって、午後の時間も人が訪れるようになった。



私はエプロンを取り替えて、書庫の奥の修繕スペースに進んだ。

図書室の奥なので、あまりクーラーが聞いていないので、私は少しだけ窓を開けた。

少しだけ入れ換わる空気が心地よい。

私は作業台に座って、修繕する本の箇所を調べて補強したりしていく。

比較的新設高なので、本も然程古いものはないのだが、一般開放をしているので、そこは最新の注意をしないと

いけない。

それに…たまに図書館の本を置いていってしまう人がいるので、そういう時は図書館に本を返しに行く。

修繕する本の多くは児童書。学校帰りに寄ってくれる小学生が多いんだけども、ここは高校の図書室なので

あまり児童書を置いていない。そのためどうしても修繕する頻度が高くなってしまう。

置いてある本も地域の小学校に置いていない本を置く様にしている。

小学生には貸し出しはしていなくて、図書室で読むだけに限定している。

そうしないと…本が小学校に行ってしまうからだ。今の体制にしても1カ月に5冊は小学校の先生が届けてくれる。

その位はしょうがないんだろうと思うけれども…やっぱり面倒くさい。



「あい、児童書の修理が終わったらお茶にしましょう」

カウンターから先生の声がする。

確かに今日は修繕の本が多いわけじゃないからもうすぐ終わる。

「はーい、もうすぐ行きます」

私は最後の一冊を修理してからカウンターに戻るのだった。



「お疲れ様。ごめん…今寝ているから静かにね」

先生がキッズスペースを指差す。そこにはかわいい双子の女の子。

「真美お姉ちゃん…いらっしゃい」

「あい、校内でしょ?」

「ごめんなさい。真美先生。大きくなったね」

「やっと3カ月。来年復職できるように書類を出しに来たんだ。諒君奥さん借りちゃった」

私は先生からマグカップに入った紅茶を貰った。

クーラーのかかっている部屋で飲む紅茶は好きだ。

「いいんですよ。真美さん。りおも楽しいものな」

「うん。子供の表情ってたくさんあって、デジカメでたくさん撮っちゃった」

りおさんというのは、田中さんの奥さんのようだ。

「先生はあいからわずここで一日暮らしているんですか?」

「もちろん。他の先生が教室が勤務先なら私はここね」



「あい…哲から聞いたけど…喧嘩したんだって」

「なんでそんなに早いの?」

「哲は泣いてダッシュするまあくん見たみたいよ。何がどうしたの?」

「…八つ当たり。宿題やらなかったの私が悪いの。まあ君に見せてって言われて断られたから大嫌いって言っちゃったの」

「やっぱりね。そんなところだと思ったよ。謝ったの?」

「メールは出したよ。まあくんとは会ってない」

「まあくんの方も、落ち着いたみたいよ。去年…窓から飛び降りようとした過去があるからね」

「でも…2回から飛び降りたって…止めておこう。またやりそうじゃない?」

「そうね。でも今年は1階だからやらせておけば?」

「それって…その答えでいいの?」

「いいの。バカなことを全力でできるのは学生の間。大人になってもやっているのは痛い人」

真美先生はきっぱりと言う。私達の前では毅然としたお姉さん。4人の子供のお母さんとは思えない。



「復職って、双子ちゃんは?」

「未認可お祖母ちゃん保育園に通うのよ。上が幼稚園に入るしね」

「そうなんだ。そう言えば…てっちゃんの実家に行ってる?」

「行きたいんだけどね…お義母さんがこっちに来てるから」

てっちゃんの実家はお兄ちゃん夫婦と同居している。

この夫婦もそこそこ問題が起こるみたくて…たまに喧嘩をしている声が聞こえる。

「私達は幸せだから。いいのよ。気にしてくれてありがとね。あい」

真美先生は、私の頭を撫でてくれた。



「この髪は…まあくんね。あいじゃこんなこと出来ないものね」

「何だ…ばれちゃった」

「そりゃ。あなた達の事も私は知ってるのよ?私達は、高2の冬休みから哲が私の家で暮らし始めたから」

「それって…本当は」

「そうね。でも今のあの状態にあの頃から始まったのよ。いろんな意味で毒な人だから義理の姉は」

真美先生はそう言うとちょっとだけ遠い目をしている。

「たまに見ますけど…頭悪そうですね」

「そこのところはコメントしないわよ。あの人たちの厄介事は私達の家には持ち込まない事にしているの」

相当仲が悪そうだ。あまり好き嫌いを出さない真美先生がここまで言うんだから問題なのだろう。

「あの人は…ねぇ…りお?」

「そうですね。諒?」

「もう…見たくない。思い出させるなよ…二人とも」

田中さん夫婦も嫌がる位な人って事は…余程のトラブルメーカーなんだろう。



「ところで、あいはまあくんの事…好き?」

「これが恋なのかは分からない」

「そっか。だから…あんな態度な訳だね。でも本当は分かっているでしょう?」

「そうかな?」

「結局、あいはまあくんと一緒にいるんだもの。もしかしたら…恋を飛ばしちゃったかもね」

「恋じゃないの?」

「うん。愛だと思う。だって、まあくんなら何をされても許せるんだとしたらね。無償の愛でしょう?」

私の中にあるモヤモヤが晴れていくのを感じる。そうか。皆が好きというのとは少し違ったんだ。

「これって…まあくんに言った方がいいの?」

私は不安になって真美先生に聞く。

「そうね。言う必要はないと思うわ。感覚的にはまあくんも分かっているはずよ。そのままでいいの」

「そのままで?」

「うん。まあくんに気持ちを言ってみな?私達みたくすぐに結婚するって言うから」

「…それは親達が言ってます。早く孫が欲しいって」

「それは私達夫婦のせいよね。ごめんね。でも親が見てくれるから、早く子育てを終わらせたかったんだ」



「あい、もう少ししたら私達引っ越すから」

「えっ?どこに?」

「お祖母ちゃんの家を改築するの。婚約してからアルバイトを続けてお金が少し溜まったのと、親の援助でね」

「そうなんだ。アルバイトってどこでやってたの?」

「私たちは放課後に歩美の家の事務所のお手伝い。お使いに行ったり、お役所に行ったり…ね」

「田中さんは…アルバイトしたんですか?」

「僕も…親が自営だったから手伝ってちょっと多めにお小遣い貰ってた。りおも手伝ってくれたしね」

「そっ、そうだね。諒…そろそろ帰らないと…今日は」

「そうだったね。先生、後片付けは頼みますよ。また…そのうち伺います。またね、あいちゃん」

「あいも、次は授業でなさいね」

「はーい。ごちそうさまでした」

「次の授業は?」

「恵美ちゃん先生の家庭科」

「だったら…恵美ちゃんに電話するからって伝えておいて」

「はーい。それじゃあ失礼します」

私は荷物を片づけてから図書室を後にした。

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