体育の時間に昔話を聞いてみた
「あい、更衣室に行こう」
私はまゆちゃんと一緒に更衣室に移動する。
いつもだと息抜きで嬉しい体育なんだけども、今日は外で陸上なのでうんざりしてる。
「何で…外?」
「さあ?」
「ねぇ。あい。お隣の彼氏を泣かせたんだって」
何か…話が大きくなってる。泣かせたは事実。彼氏は…未定?うん、未定だ。
「一部は事実で一部は事実じゃない」
「何が事実じゃないかは分かるけど」
「とにかく、親衛隊がなんてこと!!ってなってるよ」
「そう。だったら、仲良しクラブ止めて、告ればいいだけじゃない?馬鹿なの?」
「まぁ、気持ちは十分分かるけど…で、実際はどうなの?」
「そんなの…分かんないって。だって…ずっとまあくんがぴったりと側にいるのが普通なんだもの」
「そっか。いない普通がないわけね。確かに比較のしようがないか」
「うん。まあくんはその事を知ってて、今のまあくんをしてる」
私が答えたら…皆が固まっている。
「まあくん…報われない」
「っていうか、あいがすることは何でも受け入れる訳じゃないのね」
「今回の喧嘩の原因が…宿題だなんて…小学生か?」
「精神的な所はその位かもよ。あの二人」
言いたい放題に皆にいじられてる気がする。
でも…でもね。私ってそんなにいけないことをしたの?
確かに宿題をやらなかった私が悪い。
で、見せてくれないって言ったまあくんに八つ当たりをしたもの悪い。
そろそろ謝りたいけど…さっきの親衛隊の態度を考えてしまって…困ってしまった。
どうやって謝ろう…。
「あい、謝りたいの?」
「うん、まずはメールでね。宿題も終わったし」
「そうだね。友達だって、彼氏だって謝らないと」
「だから…彼氏じゃない」
「はいはい、彼氏未満の幼馴染君ね」
-ごめんなさい-とシンプルな本文だけのメールを送る。
これだけで多分まあくんは分かってくれる。
私は携帯の電源を切って、校庭に向かって外に出た。
「今日の体育はハードルな。一回は計測しろよ。暑いから、日陰を用意した」
体育の先生はビニールシートを使って簡単なひさしを作ってくれてあった。
「先生…体育の先生だなんて…もったいない」
「そうか?でも先生は体育の先生になるのが夢だったからな。こんなに暑いとハードルなんてアホらしいな。止めた。ひさしの中でストレッチでいいか?」
「流石、哲先生。話が分かる」
「バカか?お前達。筋力をバランスよくつかわないと、転びやすくなったりするんだぞ。出来る範囲でできるから故障もしない。ストレッチをしてからエクセサイズをすれば体重も減りやすい。ほらっ、頑張れ」
「てっちゃん先生が言うと説得力あるよね。何かやってたの?」
「器械体操。高校はやってないぞ」
てっちゃん先生って器械体操やってたんだ。なんか意外。
「てっちゃん先生って、家庭科の先生が彼女なの?」
「はぁ?俺…結婚してるけど?奥さんは今育児休暇中」
てっちゃん先生って…今いくつなの?体育の先生なのにでき婚したの?
年頃の娘達はいきなり明かされる話にびっくりしながらも気になってしまう。
「先生、教えてよ」
「あのなぁ。こういうことは…学校じゃ教えてくれないんだぞ?」
先生が教師を否定してどうするんだろう?
でも…てっちゃん先生のお家は知ってる。先生と奥さんもある意味で有名人だ。
「先生…奥さんといつも一緒だもんね」
「あい…お前は近所だものな。今は離れたけどな」
「そうなの?あい…教えなさい」
皆が私に詰め寄る。勝手に人のプライバシーを明かしてもいいのかな?
てっちゃん先生を見るとにこやかにほほ笑んでいるから話してもいいみたいだ。
「てっちゃん先生と奥さんはここの卒業生で、家庭科の恵美先生も奥さんの同級生でしょ?」
「そういうこと。恵美先輩も結婚してるしね。うちは俺が高校を出てすぐ籍を入れたんだ。それに俺婿養子だし」
「婿殿なの?大変じゃない?」
「俺達…幼馴染だから。あいと彼と一緒でな」
「じゃあ、あいもそうなるの?」
「それは違うだろ?俺はその人生を選択して、あいはこれから…だもんな」
私は頷くだけ。てっちゃん達の事はランドセルを背負っていたが良く見ていた。
「奥さん…今回4人目だっけ?赤ちゃん」
「そう。これで家族でリレーのオーダーが出来るからお終いだってさ」
先生の奥さんのリレーが組めるって発想が面白くって私達は笑った。
「先生達の学生時代って今と変わらないの?」
「そんなに変わらないさ。携帯もあったし、メールもあったからな」
その後、のんびりストレッチしながら、先生の高校時代の話を聞いたのだった。
まさか…文化祭の過去最高売り上げを出した企画を作ったのがてっちゃん先生達だったなんて。
今度恵美ちゃん先生に聞いてみようかな。今年は終わったけど、来年の参考にはなりそう。