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野分の調べ  作者: キー
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13/15

013

「はぁ‥はっ…はぁ…はあ……!」


 一時間後、未だに楓は兵士達の真っ直中にいた。


 足下には屠ってきた死体が積み上がり、そこから流れ出た血が池をつくる。


 一人一人は大した驚異では無くても、蓄積された疲労は確かに剣筋を鈍らせる。 


もう何人倒したのかもわからず、楓はただ、感じた殺気に反応し、剣を振るだけの機械と化していた。


 それでも、腹の「熱」は収まるどころか、激しさを増している。


 背後からの一撃を右手の太刀で受け、左の打刀で胴を断つ。


 右から来るもう一人には蹴りを放ち、肋骨を砕く。その際に左にいる兵士に視線を送り、牽制する事も忘れない。


 わずかに怯んだその隙を見逃さず、一瞬で肉薄、首を切り落とした楓は、そこで右の太刀が限界に近い事を悟った。


 刀身はぼろぼろに欠け、罅が入っている。これでは後二撃も持たないだろう、と当たりをつけた楓は、正面の兵士の首にその太刀を突き立てた。


 ぱきん、と音を立て、先端を兵士の首に残したまま中程から折れたその太刀を捨て、楓は左の打刀を右に移し、左手で脇差しを引き抜いた。


 最初こそ一刀流で相手をしていたが、次々と押し寄せてくる敵に、いつしか二刀流でなくては対応できなくなっていた。


 そろそろ、限界が近い。


 自分の身体の事だが、人ごとのようにそう分析した楓は、最期まで抵抗を続けるべく、これまで以上

の力を込めて剣を振るった。


 と、その時、これまで楓を囲み続けてきた人の壁がとぎれた。


 実は、一万の軍勢の中でも、水仙直属の部下といえる者は、五百人ほどしかいない。他は皆、藍鉄葵の討伐の為に水仙がかき集めてきた荒くれ者達だった。


 彼らと水仙との間には、信頼関係や主従関係などは無い。あるのはただ、金銭の繋がりだけだった。


 そんな彼らが、自分の命ほしさに逃げ出すのは、至極まっとうな理由といえた。


 そして、水仙子飼いの部下達は、残り十人ほど。


 理由はよくわからないが、相手にしなければいけない人数が減ったというのは、楓にとっては僥倖だった。


 一気に十人ほどの集団の内、右にいる四人の前に躍り出る。


 一人の首を断ち、その勢いで二人目を袈裟懸けに斬りとばす。


 斬りかかってきた二人の剣を両手の大小で受け、流す。


 次の瞬間、体制を崩した二人の胸から、それぞれ切っ先が飛び出していた。


 残り六人が一斉に斬りかかる。仲間を殺された怒りからか、単純になっているその剣筋を見切り、身体をよじって六つの銀閃をやり過ごす。


 二人の胴を斬りつけ、残る四人の真ん中に入った楓は、左右にそれぞれ刀を突き出した。


 右の太刀が横から心臓を貫き、一人を絶命させる。左の脇差しは相手の剣を弾き、よろめいた相手が

たたらを踏む。そこに運悪く左にいる二人目の剣が迫り、味方の剣に殺される事となった。


 味方を手に掛けてしまった動揺を突き、呆然とする兵士の、その顔を胴から離す。


 残り一人となってしまった兵が、切っ先を楓に向けて特攻する。


 正面に向き直り、左右の得物を広げるように構える楓。


 切っ先が突き出されたその瞬間、楓は身体をかがめて横にずれた。兵士がその横を過ぎ、無防備な背中を楓にさらす。


 その背中に脇差しを突き立て、びくりと痙攣する感触を感じながら、楓はあたりを見渡した。


 辺り一面、血と屍の山。これ全部、自分一人でやったのか、とつかの間愕然とした楓は、視界の隅に豪華な陣があるのに気がついた。


 あそこに水仙がいる。「熱」のその言葉を信じ、楓はふらふらと陣に向けて歩き出した。


楓さんが怖い…


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