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野分の調べ  作者: キー
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10/15

010

 遅くなりました、続編です。

 野分流とは、元々戦時に作られた流派である。つまり、今の太平の世に広く振るわれている活人剣――殺さない剣戟――などではなく、殺人剣――実際に命を奪う戦い――の流派である。


 そんな流派に、流派を守り続ける家に、十一代目当主、朽葉朱の一人娘として生を受けた楓もまた、当然のように刀を握らされた。


 楓の一番古い記憶は、泣きながら父に真剣を振るう様子なのだから徹底している。

 そんな楓だが、別に剣だけを握ってきたのではない。父からは無愛想ながらも確かな愛をうけていたし、母の腕に抱かれた記憶もまた、確かに存在している。


 父と母は、もう居ない。

 九年前、病でひっそりと息を引き取った。


 逞しかった父の腕が、真っ白な母の腕が、日に日に細くなっていくのを横目に看病を続けることは、この上ない哀しみを楓に与えた。


 人の死。


それは、稽古でしか人の命を奪う行為を経験してこなかった楓にとって、衝撃的な出来事だった。

 それから、楓は人の命を奪う事に抵抗を感じ始めた。


 不殺。


 言葉にするとたったの二文字だが、そこに込められた意味は重い。

 先の戦闘で、楓は二人の男を倒した。

 だが、殺しては居ない。

 人の死は、命は、粗末にして良い物ではない。命の灯火が消えるときと言うのは、もっと、厳かに、丁寧に扱われるべきものなのだ。

 異端だ、と言う事は理解している。だが、不殺の信念は、曲げてはいない。曲げてはいけないのだ、と思っていた。



――少なくとも、今日までは。





 最初は、行き倒れかと思っていた。


だけど、その考えはすぐに否定された。


 倒れている人――女性だった――のそばには、普通よりも長い刀が落ちていた。そして、その女性の腰に

は、鞘。


 すわ戦闘でもあったのか、と身構えたが、そういう雰囲気は感じられなかった。

 とりあえず家に担ぎ込み、額を濡れた手ぬぐいで覆う。


 本来の目的であった買い物を市ですませ、帰ってきても、女性は眠ったままだった。


 そのまま一日が過ぎ、夕方になったとき、少女は思い至った。

 どこか、怪我でもしてるのかな。

 額から汗を垂らし、苦しそうにうなされている様子をみて、そう判断すると、悪いと思いながらも服を脱がせにかかる。


 綺麗な身体…


 自分も村では美人だと言われているが、目の前の女性の肢体はその遙か上をいっていた。


 少女は、名を百合という。


 倒れていた女性――水仙にやられた楓を家まで運び、看護をしている事からもわかるように、心の優しい娘として村で有名な娘であった。


 怪我、少なくとも外傷は無い事を確認し、元通りに服を着せていく。


 そうして、もう一度蒲団に寝かせると、百合はぬるくなってしまった桶の水を替える為、家から少し離れた井戸に水をくみに行った。


「あらゆりちゃん、元気?」と、背後から声が掛けられる。


 その声から、いつもよくしてくれる八百屋さんの妻だと察しをつけた百合は、微笑みながら振り返った。


「はい、お陰様で、元気にやってます」と答え、木桶に水を入れた百合は、次にかけられた言葉にどき

りとした。


「そうそう、ご両親、そろそろ旅行から帰ってくるんじゃないの?」


 そう。今でこそ女性を家に上げていられるが、両親が帰ってきた後にどうなるかはわからない。


「ええ、そうですね……では、失礼します」と、早々に会話を断ち切り、百合は家路を急いだ。


 どうしよう。


 歩いている間、百合の頭の中を駆け回っていたのはその一言だった。


 大した結論が出ないまま、思考だけが堂々巡りを繰り返す。


 まずは看病だ、と自分を無理やり納得させると、百合は家の中へと這入っていった。


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