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狼の恩返し  作者: kuro
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恩返し開始2

 「コレやる」


 「はい?」


 仕事場である警備隊の屯所に来て、テレサが自分の席に座ろう思ったら、その前にガルーが大きな布袋を差し出して来


た。


 ――数日前に武闘大会で優勝した男がパンパンに膨れた布袋を渡して来たのだ。


 ……これに嫌な予感のしたテレサはまず、ガルーにこう尋ねた。


 「……これ、中身は何?」


 「黙って受け取れ」


 何故か答えをはぐらかすガルー。


 この瞬間、テレサは布袋の中身がだいたい理解した。なにより、よく耳をすませ「ジャラジャラ」と音もしている。


 これは間違いないと思ったテレサは受け取りを拒否しようとした。


 「えーっと、ガルー? これの中身がお金だったら悪いけど――」


 「お前が受け取らなくても、結局コレはお前の実家に寄付するから同じだぞ」


 しかし、誰かに入れ知恵をされたのか調べたのか知らないが、受け取りの拒否を無効化された。


 ……これでもう、あの布袋の中身は大会の優勝賞金で間違いないだろう。


 正直言えば、故郷の両親達のために金銭は欲しい所だが、他人から金銭をただで貰うのは騙しているようで良心が痛むテレサだった。


 「つーわけで、受け取れ」


 しかし、それを無視するようにガルーは金の入った布袋をテレサに渡してきた。


 「…………」


 さすがにこれにはテレサも上手く言葉が出てこない。脅して金をとるのは聞いた事があるが、脅して金を渡すのはあまり聞いた事がない。


 この場で金を入った布袋を返すことも出来たのだが、ガルーの様子と先ほどの「実家に寄付」の言葉を聞く限り、それは意味がないと悟ったテレサはため息を一つ吐き、


 「……わかりました。これはありがたく受け取らせてもらいます」


 と礼を言い受け取ることにした。というか、どうせ何を言っても無駄だと思って色々と諦めた。


 そして、最後にガルーに対して頭を下げようとする。


 しかし、


 『ガシッ!』


 それをする前にガルーの手がテレサの頭をその大きな手で掴んでそれ以上動かなくした。


 何をするのかと目でガルーに文句を言おうとするテレサだったが、


 「頭を下げんな」


 何故かガルーの方が怒っているようだった。


 理由はおそらく、テレサの行動が原因。


 「俺は別に礼を言われるような事はしてねぇんだ。だからそんな事はするな」


 そのままガルーはテレサの頭を元に位置まで「ググッ」と戻すと、ガルーは最後にテレサに、


 「今のうちに俺に叶えて欲しい願い事決めておけよ」


 「え?」


 と言って、普段の仕事に戻っていってしまった。 



 ――この後、この事について詳しくガルーを問いただすことになるテレサなのだが、今はどうやって目の前にある布袋一杯の金銭を実家に送るかについて頭を悩ましていた。






 ――数日後、ガルーとテレサが街の見回りの途中で、


 「ねぇ、ガルー。貴方の目的って私に恩を返すことだったよね」


 テレサが前を歩くガルーに話しかけた。


 「ん?」


 ガルーはその言葉に一度足を止めて、テレサのほうに向き直った。


 「いきなりどうした?」


 「えーっと、一応確認しようと思って……」


 二人がいる場所は人通りの少ない細い通り道なので、たとえ話し込んでもそれを注意するような人間は通らないだろう。


 その為、真面目なテレサがこうやって話しかけているわけなのだが、


 「まぁ、そうだな。俺がここにいるのはお前に恩を返すためだ。だから、さっさと叶えたい願いを考えろ」


 そんな事などどうだっていいと思っているガルーはいつも通りの調子でそう答えた。


 「でも、私の家は貴方のおかげで没落せずにすんだのだから、恩返しはもう……」


 「マイナスをゼロに戻しただけじゃ恩返しとは言わねぇ。というか、俺が認めない」


 「…………」


 そう断言するガルーにテレサは言葉に詰まった。


 正直、テレサは今まで家の没落を防ぐために頑張ってきたため、自分の叶えたい物など存在しなかった。


 なので、テレサはしばし考えた後、ガルーに尋ねた。


 「……だったら、どんなことを願えばいいの?」


 「お前が幸せになれると思うことを考えて、それを言え」


 悩んで聞いたテレサの言葉に対し、ガルーはかなりそっけなく答えた。


 「む……」


 突き放したようなその言葉に、少しいらだちを覚えたテレサはつい、こんなことを言ってしまった。 


 「――ちなみに、かなり無茶な事でもいいの?」


 意地悪そうに、小さな子供が「こんな事出来る?」と面白半分に尋ねるようなこの問いに、ガルーは平然と答えた。


 「構わねぇよ。それがお前が幸せになれる願いなら」


 ――それが当たり前だというように、照れも気負いもせずに当然のように、


 「俺は全力でそれを叶えて、――お前を幸せにしてやるよ」


 いつもの様な乱暴な口調でそう答えた。



 ――ちなみに、これを聞いたテレサはというと、


 「…………っ」


 絶対に顔を見られないように下を向いて、ひたすら自分の中で暴れる感情を理性で押さえつけている最中だった。






 ――あり得ない。


 目の前の男が言った台詞があり得ない。


 それは通常では告白や求婚で使う台詞だろう。


 それを何故目の前の男は人気のないこんな場所で使っているのか?


 頭の中では今、「自意識過剰」「勘違いしてはいけない」「早まるな私」などと言った言葉が連続して浮かびあがっている。


 しばらく頭が風邪をひいた時のようになってしまったが、少し時間を置くことで収まった。


 ――目の前の男に絶対に「他意」などない。ただの恩返し馬鹿だ。


 さっきのは言葉の綾だ。


 だから、気にする必要は全くない。


 しかし、頭でそう思っても、心は中々上手く行かないものだ。


 「う~~っ!」


 「……何してんだお前?」


 「うっさい! ちょっと貴方はどっか行ってて! 今私は冷却中なのッ!」


 ……結局この後、心配するガルーを無視するようにテレサは見回りを再開し、家に帰るまでガルーの顔をまともに見れず、当然願い事を考え付くことも出来ずにこの日を終えた。

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