祝勝会6
その後、ガルーは祝勝会の中で国王から大会の優勝賞金と賞状の盾をもらった。
その時、当然仕官の誘いなどもあったが、ガルーはそれを断った。
理由は「すでに仕える相手がいて、二人の主に仕えることはどちらに対しても不義理」ということらしい。
この言葉を聞いた王も貴族達も「ならば仕方ない」と諦め、最後にガルーの大会での活躍を褒め称えその場を去って行った。
だが、祝勝会が進行すると人は徐々に大胆になり、あれほど怖がっていたガルーに声をかける人間が少しずつ出てきた。
──ある者はガルーの戦い方について質問をし、ある者はガルーの出自やどこで働く何者なのかをしつこく聞いてきた。
だが、それに対しガルーの返答は要領を得なかった。
元々、人前で話をするのが得意な男ではなく、自分のことを詳しく説明すると自らが獣人族であることを暴露する可能性があるため、詳しく話せなかったのだ。
「あーっと、だから生まれはだいぶ田舎の山の中で──」
「え? 何? 嫁? いないいない」
「親が決めた許婚? 何だそれ?」
「好きなモノはどんな奴? あー、そうだな成るべく食い応えがあってこうボリュームのある……、なんかアンタやけに食いつくな。……まぁ、いいや。とにかくそんな感じの『焼肉』が好きだな。種類は牛がいい。牛肉最高」
「父親に基礎は習った。後はほぼ我流。親父にはまだ勝てる気がしない」
だが、たどたどしく何とか説明をしようとするガルーの姿に人々は新鮮な気持ちを味わった。
意外にもガルーは見た目とは違って話しやすい男だった。
こちらが話している時は好奇心に目を輝かせながら話を聞いて、自分が話す時は素直な気持ちのまま話しをするのだ。
そんな子供のようなガルーの姿に貴族達は見た目どおりの人間ではないと安心していった。
その為、貴族達は祝いの席でガルーと共にかなりの酒を一緒になって飲み、祝勝会は夜が更けるにつれて徐々に場が混沌となっていった。
……だが、女性陣は夜が更けるに連れて徐々に数を減らしてよかったのだが、男性陣がやばかった。
殆どが居残り、ガルーと一緒に酒の飲み比べを始めたのだ。
ことの発端はある年老いた貴族がガルーの故郷の風習などを好奇心から聞いた事により始まった。
年老いた貴族はガルーの故郷では宴の席では酒の飲み比べをして終わると聞き、それを聞いた貴族が面白半分にガルーと酒の飲み比べを始めた。
だが、貴族は年のせいでそれほど酒は強くなくワイン数杯で落ちた。
もちろん話はここでおわらず、どこからか「助太刀する!」と酔っ払った他の貴族がやってきて飲み比べに乱入したのだった。
そこからガルーが二人抜きをしだした辺りで人垣が出来始め、賭けも開始された。
国王はこのやりとりを黙認。というか、楽しく見学していた。
おかげでテーブルの上にはワインの入った樽が「デデンッ!」と置かれ、対戦者達は侍従にそのワインをグラスに注がせながらガンガン酒を飲んでいった。
結局その勝負は深夜遅くまで続き、ガルーが十人抜きをした所で勝負は終了した。
そのまま祝勝会は自動的にお開きとなり、ガルーは賞金と賞状の盾を持って貴族達に手を振りながら会場を去って行った。
「じゃっ、また」
「……うむ。今度は負けんぞ」
「楽しかったな。またやろう」
「今度暇があればうちに来い。歓迎するぞ」
「おう」
ガルーと貴族達には勝負をした者達の間に生まれる一種の連帯感がおこり、貴族達も気持ちよく手を振りガルーを見送った。
──こうしてガルーの大会優勝の祝勝会は終わった。