祝勝会4
「……何やってんだアンタ?」
ものすごく呆れた声でガルーは目の前のアマリーに言った。
「あ、あ、あの……!」
だが、それを言われたアマリーは返事を返すことが出来ない。
今、アマリーはガルーに正面から抱き止められる形で体を支えられているのだ。
その状況にアマリーは動揺してしまい言葉が上手く出ない。
しかし、なんとか喉から絞り出すようにして声を出し、体を支えている手を放してくれるようにガルーに頼んだ。
「て、手を放してもらえないでしょうかっ…!」
「いいけど。もう転ぶなよ」
それに対してガルーは小さな子供に注意するようにしてから、ゆっくりと手を放した。
『トンッ…』
アマリーが自分の足でしっかりと地面を立ったのを確認すると、ガルーは腰に手を当ててアマリーに質問し始めた。
「何してんだアンタ?」
「うっ……」
「話は断ったはずだろ。なのになんで追いかけてくるんだ?」
「………。」
「……まさか諦め切れないとか、そういう事か?」
「は、はい」
「……………。」
アマリーの言葉を聞いたガルーは苦虫を噛み潰したような顔になった。
ガルーがアマリーの勧誘を断ったのは、恩人であるテレサに恩を返すためにこれから色々と動き始めようと思っていて、余計な仕事などは入れるつもりがないからだ。
だが、それをアマリーにすべて説明するのはかなり時間がかかるだろうし、なにより面倒だった。
「あー……」
これはどうするか、とガルーは少し考えた結果。
ガルーはアマリーに向かって、こう言った。
「今、ガキの頃からの目的を叶えられるかもしれない大事な時なんだ。……頼むから、それを邪魔しないでくれ」
「「!?」」
その言葉を聞いた人々は驚いた。
ガルーの大会での様子や言動から、彼が人に物を頼むような殊勝な人間には見えなかったからだ。
そのガルーがアマリーに対して、邪魔をしないでくれ、と頼んでいるのだ。
これにはアマリーも面を食らった。
「あっ、あの、私は、そんなつもりでは」
今までとまるで違ったガルーの態度に動揺するアマリー。
だが、それにガルーは気づかないのかさらにダメ押しをした。
「……頼む」
軽くではあるが、間違いなくガルーが頭を下げた。
大の男が、公衆の面前で、面子もプライドも気にせずに頭を下げたのだ。
「っ……!」
これにアマリーは完全にやられた。
ガルーの言葉の中にあった「目的」という言葉。
それが何のことなのかアマリーはわからなかったが、それがガルーが頭を下げている理由なのだということはわかった。
怖いほどの強さを持ったガルーが、叶えたいと思っている目的。
その目的の為には、あんなに強いガルーが自分の面子やプライドをあっさりと捨てた。
そんな姿を見たアマリーは、ガルーの勧誘を完全に諦めるしかなかった。