祝勝会3
男性とあまり接したことがないアマリーにとってみれば、ガルーのような男に声をかけるのはとても勇気がいることだった。
しかし、アマリーは声をかけた。
「あの…ガルー選手ですよね? 今大会で優勝なさった……」
それがガルーを護衛として雇う為に必要な事であり、また大会優勝者に対する礼儀であったからだ。
「ん? あぁ、俺がそうだが…。なんか用か?」
声を聞き、ガルーは少し驚いた顔で娘の方に向き直った。いきなり身なりのいい貴族らしき娘が話しかけてきて驚いたのだ。
だが、会場の中にいた他の貴族たちはガルーのその返答に少し眉をひそめた。
貴族相手に対しての言葉遣いがなっていないと思ったからだ。
しかし、アマリーはそんな事はあまり気にしないのか、特に気にした様子もなく話を続けた。
「……実は、ガルー選手の折り入って頼みがありまして」
「俺に?」
「はい…、えっと、あの実は……」
少し言いよどみながら次の言葉をどうやって切り出そうかと悩んでいるアマリー。その後ろでは侍女であるリースが心配そうな顔で主人の後ろ姿を見ている。
その様子に、ガルーはピンと来た。
「……まさか、俺を雇いたいとかって話か?」
他の大会参加者が貴族たちにスカウトされているのをずっと会場の長椅子で見ていたガルーは、試しに鎌をかけてみた。
すると案の上、その言葉を聞いたアマリーは驚いた顔でガルーの顔をまじまじと見た。
そして、その顔を見たガルーは少しばかり苦い顔をした。
しかし、次の瞬間には表情を引き締めて毅然とした態度をとった。
「…だったら、悪い。俺は誰にも雇われるつもりはねぇんだ。他を当たってくれ」
そう言ってガルーは給仕に空になったグラスを渡してどこかに行こうとする。
相手の目的がわかったガルーはさっさと人気が無い場所へ消えようとアマリーのほうを振り返りもせずに歩き始めた。
「ま、待ってください……!」
これにアマリーは慌てて追いかけようとする。
だが、ガルーとドレスを着たアマリーとでは歩く歩幅が全く違う。
距離は縮むことは無く、ただ距離が開くだけとなった。
「も、もう少しだけ話を……!」
その事に焦りを感じ、アマリーは急いでガルーを追いかけようとする。
しかし、その所為で普段は着慣れているはずのドレスが足に絡みついた。
「あっ…!」
アマリーは慌ててバランスをとろうとするが、足は彼女の思うように動かず、このままでは大勢の人のいる前で派手に転ぶことになる。
(だめ。転ぶっ……!)
今にも転びそうなアマリー。
しかし、それを見逃すガルーではなかった。
「……何やってんだアンタ?」
「え?」
気がつけばアマリーの体はガルーに支えられていた。