祝勝会2
ボサボサだった髪は櫛を通され、艶のある黒髪に。
鍛え上げられた肉体を包む込んだのは、黒のジャケットとスラックス。
そして、白いシャツと首元には白の蝶ネクタイ。
手には白の革手袋と足には黒の革靴。
男性の最上礼服の一つである「燕尾服」
それを身に纏ったガルーは、はっきり言えば目立っていた。
ガルーのような鍛えた体格をした礼服姿の男性というのはそれだけでも意外に目立つのだが、酒を取りに行くなどして動くと自然と周りの視線を集めた。
しかし、本人はその事を全く気にしておらず、ただ喉の渇きをいやす為に給仕から酒の入ったグラスを受け取った。
そして、グラスを傾け、中の液体を口に含み喉を鳴らす。
『ゴクンッ……』
周りにいた人間はその動作をただぼんやりと見ていたのだが、ガルーが喉を鳴らした音を聞いた瞬間。
――背筋が凍った。
まるで、森の中で肉食獣に出会ったような感覚。
そして、それは今まで関係の無い雑談をしていた人達も同じだったらしく、会場にいた人間の多くが「感覚」のした方を見た。
すると、そこにいるのは酒を一息で飲み干したガルーがいた。
「「あっ!!」」
そこで、何人かの人間がやっと気がついた。
服装がどれだけ変わろうが顔つきまでは変えられるわけがない。
すこし注意深く見てみれば、ガルー本人だとわかる。
だが、今までガルーの勧誘をしようと彼の登場を待っていた貴族達は誰も彼に近づこうとしなかった。
いや、出来なかった。
一歩でもガルーの傍に行こうとすれば、ガルーは近づいてきた人間に目を向けるだろう。
ガルー本人は敵意も何もなくただ見るだけだろうが、貴族はそれだけで身動きがとれなくなる確信があった。
野生の獣の食事の邪魔をどうなるのか?
子供でも少し頭をひねればわかる事を、実践する命知らずはいなかった。
――ただ一人の貴族の令嬢を除き
話が短いですが、活動報告のコメントどおり頑張ってみましたw