祝勝会1
優勝者祝勝会と言っても、主役が一人だけだというわけではない。
大会上位に勝ち上がった選手達の殆どが祝勝会に呼ばれる。
これは優勝者を祝うだけの催しではなく、大会で良い成績を残した者達を軍に入らせたり、護衛として勧誘するためだからだ。
その為、この催しの会場である王城の大広間では、毎年いたるところで勧誘する貴族の姿が見られた。
だが、今年は少し様子が違った。
「もうすぐ陛下もいらっしゃるというのに、今大会の優勝者は一体どこに?」「正装を手伝った侍従達は何と?」「それが、もうこちらに向かったと言っております」「では、すでにこの会場にいると?」「いや、あれだけ目立つ男を見落とすはずがないでしょう」「では、一体どこに?」
毎年、一番人が多く集まるのはその年の大会で優勝した人間の所なのだが、今年はその優勝者が祝勝会が始まっても中々現れず、貴族達が一箇所に集まって話し込む姿がそこらじゅうで見られた。
「………。」
「………。」
そして、そんな様子を壁際に配置された長椅子に座りながら貴族令嬢であるアマリーとその侍従リースは眺めていた。
彼女たちは今大会の優勝者であるガルーを護衛として雇うためにこうして祝勝会にやってきたのだが、肝心のガルーがおらず肩透かしをくらっていた。
「…本当にどうしたのかしら?」
「これは私の勘ですが。ここに来るのに迷っているのではないでしょうか?」
「え?」
「王城の中は初見では迷路のようなものですから、案内もないまま歩けば迷ってしまう可能性があります」
「あぁ、なるほどね」
「ですから心配などせずとも、その内いらっしゃるでしょう」
「……そうね。祝勝会も始まったばかりだし、ゆっくり待ちましょう」
そのまま二人はこの後どうやってガルーを勧誘する作戦を色々と話し合っていたが、ガルーがこの会場にやってくる気配はなく、アマリーとリースの話のネタもなくなりだした。
「あっ、そういえば」
だが、そんな時だった。
アマリーが『その事』に気がついたのは。
「お嬢さま? どうしたました?」
「ねぇ、リース」
「はい、お嬢様」
リースは自分の主人の様子を見て、どうしたのかを訊ねた。
すると。
「ガルー選手の正装って想像出来る?」
「………。」
アマリーにそう言われて思わず想像してみた。
だが、ガルーのあの鋭すぎる目つきとアウトローのような物腰。
そんな人間が首に蝶ネクタイをつけた燕尾服姿は、はっきり言って想像が出来ない。
しかし、ガルーは会場に正装して来るはずだ。
「……い、いえ、全く想像が出来ません」
そう口にしながら、リースの中で好奇心がムクムクと起き上がってきた。
「ふふっ」
そして、どうやらそれはアマリーも一緒だったようで、彼女は内緒話をするようにリースに向かって小声で「すごい楽しみね?」と囁いた。
――そんな会話をしていた彼女たちだったが、二人の隣の長椅子で燕尾服姿の『鋭い目つきの男』が椅子に座って天井を眺めていることに気がついていなかった。
「彼」はずっと前からそこにおり、会場にいた令嬢などの視線を少なからず集めていたのだが、彫像のように宙をボーっと見ながら殆ど動かない姿に誰も声をかけようとしなかった。
その所為で「彼」が誰なのかを知った人間などおらず、アマリーとリースは気がつかずに話をしていたのだった。
――その『鋭い目つきの男』とは、今大会の優勝者であり、アマリー達や会場中の貴族が待ちに待っている男。
つまり、ガルー本人だった。
「………。」
だが、彼は隣で自分のうわさ話をされているにもかかわらず、ずっと宙を眺めているだけだった。
正装姿を書こうと資料を探しけれど、手元に黒執事しかなかった。