武闘大会5 決勝戦
大会は順調に進み、すでに残すは決勝戦のみとなった。
そして、その決勝戦を戦うのは今大会初出場のガルーと、前大会優勝者の騎士団副団長ノワール。
ノワールは騎士団には珍しい女性騎士であったが、国一番のレイピアの使い手。
ガルーは素手で剣や槍を持つ猛者たちを力ずくでなぎ倒すのに対し、ノワールは細身のレイピアで敵の隙を突き、華麗に勝ち上がってきた。
その戦いには華があり、観客は大いに盛り上がった。
そして、その盛り上がりは決勝戦が始まると最高潮に達した
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『カッ! カッ!』
『ガッ! ガッ!』
突き出される剣撃を拳で払い――
『ガンッ! ガンッ!』
『キンッ! キンッ!』
繰り出される拳撃を剣で払い落とす――
両者の拳と剣から繰り出される連撃の数々に、観客が歓声を上げる。
耳がおかしくなるほどの音の中で、二人の戦士がさらに攻撃の手を増やす。
目にも止まらぬ突きの連撃。
それに対抗しての拳の連打。
そして、それを回避する両者の驚異的な見切り。
試合開始から有効打はなく、勝負の行く末はまだ誰にもわからない。
それゆえに観客は熱狂する。
どちらが勝つのかわからない勝負の結果、その過程の姿に。
観客は熱狂する。
素晴らしい戦いに、それを見せてくれる強き戦士達に。
拳を握り、足を踏み鳴らし、声を枯らし、最後の試合に相応しい戦いを褒め称える。
――だが、どんな戦いにも終わりは来る。
ガルーのナックルガードは度重なる攻撃にひしゃげ、ノワールの剣は刀身がなまくらと化している。
『武器』を使って戦えるのは、両者ともあと一撃だけだろう。
つまり、両者の戦いはもうすぐ終わる。
『『…………。』』
観客にもその緊張が伝わり、闘技場は静まり返る。
「…………。」
「…………。」
一定の距離を保ったまま、ガルーとノワールは対峙する。
ガルーは両の拳を胸の高さで固定し、ノワールは鋭い剣先を相手の喉元に向かって狙い定める。
そして、両者の緊張感が最高潮に達した時。
両者が動いた。
先に動いたのはノワールの方。
鋭い剣先をガルーの喉元に向かって一直線に突き出す。
ノワールが得意とする必殺の一撃だが、すでに戦いが始まってからは何度も破られてきた。
だが、武器がなまくらとなり、ノワール自身も疲労困憊の今では、これが繰り出せる最後の一撃だった。
――だが、その最後の一撃は相手に通用しなかった。
突き出したレイピアは目標に当たらず、空を斬る。
「しまっ……!」
空ぶったと分かり、すぐに突きの姿勢から体を戻そうとするが、疲労困憊のノワールの体はそこで防御に回すだけの力が残っていなかった。
「おらぁっ!」
気がつけばノワールの目前には、先ほどの一撃を紙一重でかわしたガルーの姿が映る。
ガルーはすでに反撃の態勢に入っており、このままではまともな防御も出来ずに直撃を食らう。
「くぅっ……!」
ノワールが反射的に身を庇おうとするがこのままでは間に合わない。
だが、その時。
「…ちっ!」
ガルーの攻撃の軌道が変わった。
ノワールの腹辺りに向かうはずだった攻撃は、何故か武器を持つ手の方へ。
そして、そのままアッパーカット気味の拳がレイピアの柄に当たる。
『ガンッ!!』
「っ……!」
その衝撃は疲労したノワールに耐えられる物ではなく、ノワールはレイピアを落としてしまう。
「ふっ!」
「うっ……!」
そして、その瞬間を逃さずにガルーの拳がノワールの鼻先で止まる。
しばらくノワールは目の前の拳を見つめていたが、最後は悔しそうにこう呟いた。
「……私の負けです」
この瞬間、勝負が決まり。
ノワールは自分の敗北を認め、ガルーの優勝が決まった。
観客はその時、自分の声が枯れるまで声を出し続けた。
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その後、優勝賞金や賞状の受け渡しなどを大げさなやり方で渡され、『さぁ、帰るか』と思っていたガルーだが、思わぬ事がまだ残っていた。
それは、『大会優勝者祝勝会』だった。
やっと書きたかった所が書けます。
ずっと書きたかったんです。
ガルーの正装姿。