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狼の恩返し  作者: kuro
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武闘大会5 騎士との戦い

「あなた、武器はどうしたんですか?」


「あ?」


 ガルーが試合が開始されないことに焦れていると、対戦相手である騎士の青年から声をかけられた。


「見たところ、あなたは武器を構えるどころか持ってすらいないようですが?」


 騎士の青年はガルーが武器を持たずにこの場に立っていることに疑問を持っているようだった。


「いーや、持っているぞ」


「は?」


 だが騎士の疑問に対してガルーは、拳を構えることで答えた。


「凶悪なのを、二つ」


 かかげた物は、二つの拳。


 ガルーのこの行動こそが騎士に対する答えであり、己の武器の所在証明であった。


「なっ! あなたはまさか……!」


 その姿には騎士が唖然とし、観客にも動揺が走った。


 武器の使用を認められたこの大会で、ガルーという男は素手で挑むと言っているのだ。


 一応、腕にはナックルグローブと呼ばれる武器を装備しているが、それが剣や槍と戦うのにどれほどの力を持っているだろうか?


 剣や槍などの鋭い剣先と長い間合いにかかってしまえば、素手など殆ど無力に近い。熟練した使い手が相手ならば、尚のこと分が悪い。


 だが、拳を構えるガルーからはそんな不利な状況に対する怯えや恐れを感じない。いや、むしろ騎士や観客が驚いている姿を楽しんでいる様子すらある。


「どうした? 俺は武器を抜いたぞ。アンタも、ソレを早く抜けよ」

 

 騎士が背負っている大剣の鞘を、構えたまま拳から一本指を出して指す。


「あ、あなたは本気で素手で戦う気なのですか!」


「おう」


「っ……! 刃物を振り回すチンピラや酔っ払いを相手取るのとでは訳が違うのですよ! もしかすれば命の危険が……!」


 騎士は武器を持つ自分と戦うことに危険性について必死になって説明を始めた。その様子から相手になにか武器を持たせて対等の勝負をしたいという必死さが伝わってくる。騎士という仕事柄のせいか、それともこの騎士の性格なのか、ずいぶんと人がいい。


 だが、そんな親切心を意にも介さない男がいた。


「うるっせぇんだよ! ごちゃごちゃ言っている暇があるならかかって来いっ!」


 もちろん、その男とはガルーのことだ。


 ガルーは目の前でごちゃごちゃと説明を始めた騎士にあっさりとキレた。


 戦闘前の高いテンションも理由だろうが、なによりこういった説教や説得などのやりとりがガルーは大嫌いだったのだ。


 おそらく、昔さんざん故郷で聞かされたせいだろう。


「戦う相手に説教なんかしてんじゃねぇよ。ぐだぐだ言ってねぇでさっさとかかって来い! それとも、てめぇの背中にあるそれはただの飾りかっ!? あぁ!?」


 そのせいか、いつもよりも若干口調が荒く、観客席にいた女性達から悲鳴が上がった。


 しかし、なかなか始まらない試合に苛立ちを募らせていた男たちからは野太い声で同意の声が上がり、観客席からは試合が始まっていないにもかかわらず歓声が鳴り響く。


 だが、その歓声の中にいる二人の戦士は睨み合ったまま動こうとしない。


「「…………。」」


 ガルーは拳を構えたまま相手が剣を抜くのを待ち、騎士は先ほどガルーに言われた言葉に、『騎士』として対応するか『男』として応じるか迷っているようだった。


 騎士はだいぶ迷ったが、ついには――


「……ここまで言われては、剣を抜かない訳にはいきませんね」


 騎士は、剣を抜いた。


 騎士は戦いを願っている相手に対して自分の考えを押し付けているのは、愚かだと思ったからだだ。


 だがこの考えは、騎士として相手に戦士に敬意を払った末の考えなのか、それともガルーの台詞に怒りを感じた若い男の言い訳なのかは騎士は自分でもわからなかった。



 ――だが、今はそんなことよりも。



「全力で相手をさせていただきます」



 騎士は相手の戦士と全力で戦い、勝利を勝ち取ることだけを考えていた。


 

 そしてガルーも――。



「いいぜ。来いよ」



 ただ相手を叩きのめし、勝つことだけを考えていた。




 ※※※※※



「「…………。」」



 銀色の輝く大剣を構える騎士と、鈍く光る拳を構えるガルー。


 この大会では試合の開始には銅鑼が鳴らされるのだが、今の二人にはそんなものは必要なかった。


 相手の構えや足運び、そこから得た情報。


 試合を始める前までは互いにはっきりとわからなかった事だが、戦う気になり、間合いを詰めていくにつれて徐々に相手の力量がわかると、銅鑼など気にしてはいられなくなった。


 ガルーと騎士は互いにそれほどの脅威を相手に感じていたのだ。


 そしてその脅威を、恐怖と感じる前に二人は動き出した。



 まず最初に動いたのは騎士。


「せいっ!」


 一気に間合いを詰めながらの踏み込み斬り。


 相手の右肩から左腰へかけて斬りかかろうとするが不発。ガルーはそれをやすやすとバックステップで避ける。


 そして、そのまま今度はガルーがその強靭な足腰のバネを駆使し、バックステップから一歩足を踏み込み、後ろ回し蹴りを繰り出す。


「らぁっ!」


 ガルーの足が鎌のように騎士に襲い掛かるが、それを騎士は剣を地面に突き立て、盾のようにして構えることで防ぐ。


「ぐぅっ!」


 だが、ガルーの桁外れの脚力から繰り出された蹴りは剣ごしに衝撃を与え、相手に隙を作る。


 その隙を逃さず、ガルーは連激を繰り出す。


 間合いを完全に詰めた後、掌底を相手の脇腹に一発入れ、その衝撃で顎を下がらせ、下がった顎に右肘をカチあげるように振り上げる。

 

「ぐはっ!」

 

 技は決まり、騎士は仰け反り倒れそうになるが、なんとか足を踏ん張り踏みとどまる。


「はぁ、はぁ、はぁ……!」


 だが、顎を強打されたからか脳が揺れ、ふらつく騎士。


「おらぁっ!」


 それに止めをさそうとするガルーだが……。


「っ……!」


 騎士の目に光が戻る。


「しっ!」


 間合いを詰められ容易に剣を振れない状況だったが、しかし剣の柄でガルーの頭部を狙う。


「ちぃっ!」


 ふらつく相手からの反撃にガルーは意表をつかれ、それを掠らせてしまう。


 大したダメージではなかったが、止めをさす手が止まり、その隙に騎士が距離をとってしまった。


 間合いが開き、今度は騎士に有利になる。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 騎士は間合いを保ったまま呼吸を整え始めた。


「せい、やぁっ!」


 そして、数秒で呼吸を落ち着けた後、もう一度攻勢に出た。


 今度は踏み込んで斬り込むことはせずに隙の少ない振りで相手にダメージを与えようとする。


 だが、さきほどのダメージが抜けきらないのか、剣速は遅く威力もない。


『ガキィン!!』


「っ!?」


 その所為で、ガルーのナックルガードを嵌めた拳に容易に受け止められてしまった。


「なんとっ!」


 驚愕する騎士だが、ガルーは止まらない。


「ふっ!」


 拳の甲を十字に交差するようにして剣を受け止めたガルーは、そのまま左手で剣を受け流す。


 そして残った右手の裏拳を、騎士の顔面にぶつける。


「ぐはぁっ!?」


 ナックルガードを嵌めた拳で放った裏拳は騎士の眉間に直撃し、騎士は吹っ飛んだ。


「ぐっ! がっ……! うぁっ…ぁぁ……」



 騎士は地面に転がり苦悶の声を上げていたが、しばらくすると気を失って倒れた。


 騎士が気を失ったことにより、ガルーの勝利は確定し、武闘大会で一勝をあげることになった。


 そして、この試合を見た観客は試合の内容とガルーの強さに驚愕し、特に貴族達はガルーの詳細な情報を手に入れる為に従者を大会係員の所へ走らせた。




 そしてそんな中で最も驚愕し、目を見開いたままガルーを見つめる女性がいた。


 貴族の令嬢アマリーと、その従者リースだ。



「あ、あの方は何者なのですか? 武器も持たず、素手で騎士の方を倒しましたよ!?」


「一応、武具として篭手のような物をつけていたようですが……」


「だからと言って、あ、あのように勝てるものなのですか?」


「まず無理ですね。普通は刃物相手に素手で挑めば緊張で体が強張り、動けなくなります」


「で、でもあの方は……」


「よほどの修練を積み、そして相当な胆力がある方なのでしょう。でなければ、剣を持った相手に拳で戦うなんてまともな神経で出来るはずがありません」


「……あの騎士の方が特別弱かったなんて事はない?」


「今大会の優勝候補に名があがっていたほどの方です。それはないでしょう」


「そう……」


 リースの答えになにやら少し考え始めた様子のアマリー。


「お嬢さま?」


 その様子に従者であるリースがアマリーに声をかけた。何か思いつめたような彼女に少し嫌な予感を覚えた。


 そして、その予感は数秒後に的中することになる。



「……ねぇ、リース。お願いがあるの」


「……はい。何でございましょうか、お嬢様」


 アマリーの願いに耳を傾けるリース。なんとなくだが、彼女はその願いに予想がついている。


 だが、言葉を先回りすることなくリースは黙ったままアマリーの願いを聞いた。


 その内容とは……もちろん。



 ガルーという男の情報を出来る限り集める事だった。



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