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狼の恩返し  作者: kuro
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武闘大会4 貴族の娘

武闘大会の会場である大型鍛錬場は元々は何百年も前の王が造らせた闘技場だ。


 大きさは高さ約50メートル。長径約200、短径150メートルの楕円型の建物。


 天井は無く、建物の中は闘士達が闘うための広い細かい砂地の地面とそれを観戦するための観客席があり、昔はここで闘士達が命をかけた賭け試合をしていたのだが、今は軍の鍛錬場として使われているのみ。


 ごく稀にだが、今回のような武闘大会などのイベントがある時は一般の平民にも開放され、観客席に収まりきらない人がこの元闘技場に押し寄せる。観客は入場料として食費二回分ほどの金を払わされるが、それ以外は金銭を払うことはなく、


特に騒ぎを起こさなければ大会を最後まで見ることが出来る。


 このイベントは元々国王がちょこっと金稼ぎと優秀な人材を確保しようと考えたものだ。


 そのため、闘技場の外には食べ物関係の露店が並び、闘技場の中では貴族などがめぼしい人材はいないかと大会出場者のの様子をじっくりと見定める。



 ――だがそんな中、観客席の中でも特に上等な席に座るいかにも貴族な姿の女性は、眉を顰めていた。


 真っ白な生地に金色の刺繍を凝らしたドレス。身に着けた指輪やネックレスなどの貴金属の質。


 そして、なにより平民ではありえない肌の白さとキメの細かさ。毎日櫛を入れなければ生まれない美しい金髪。


 小ぶりの顔に対して大きな瞳。それと、すっと通った鼻筋に綺麗なアゴのライン。


 血筋と、その力を使った日頃の手入れをして手に入れた美しさ。


 その美しさを持った彼女は間違いなく貴族の、それも名家の令嬢だった。


 だが、彼女は今はその美しい顔を顰めながら闘技場の様子を眺めていた。


 すでに大会は開会の挨拶は終わり、これから大会出場者達の熱い戦いが始まるのだが、彼女は不機嫌そうだった。


 それと言うのも、彼女が今この場にいるのは彼女の本意ではないからだ。


 簡単に説明すれば、年頃になった彼女に専用の護衛を雇おうとする父親と喧嘩をして、彼女は今この場にいるのだ。


 父親が雇おうとするのは屈強な大男ばかりで、彼女は見るだけで怖かった。だが、気恥ずかしさからその事を父親を前にして言うことが出来ず、何かと文句をつけて断っていたのだ。


 しかし、だからと言って護衛を雇わないわけにはいかず彼女と彼女の父親は何度もその事で衝突した。


 そして何度目かの喧嘩の時、つい彼女は「自分の護衛くらい自分で探せます!」と大口を叩いてしまったのだ。


 その結果、こうして強者が集まる武闘大会で彼女は自分の護衛になってくれそうな、「見た目が怖くない、でも強そうな人」を探しているのだった。


  だが、中々そんな人間を見つけることが出来ず、先ほどから闘技場に現れる出場者は恐ろしい見た目の者ばかりだった。


「はぁ……」


 その様子にため息をつく彼女。それを見て、後ろから侍女の姿をした女性が声をかけた。


「アマリーお嬢様。よき方を見つけられましたか?」


「全然よ、リース。全員見た目が怖くて、目の前に立たれただけで足が震えそうだわ」


「まだ大会は始まったばかりです。お嬢様。きっとこれからお嬢さまのお目にかなう人物が現れるはずですよ」


「だと、いいのだけど……」


 そう言って、アマリーと呼ばれた貴族の令嬢は慰めの言葉をかけてくれた友人兼世話係でもあるリースという名の侍女に返事をした。


 リースの母はアマリーの乳母であり、その関係からはアマリーの専属の侍女として働くことになり、幼い頃から彼女たちは姉妹の様に育った。


リースはアマリーよりも歳が三つほど上であり、常に冷静な判断をする彼女は、少し頑固で強情な所があるアマリーの良き「姉役」として、屋敷の人間たちからも高い信頼を得ていた。


 もちろん、アマリーもリースのことを信頼しており、何か相談事があればリースに必ず相談していた。


 それがいつものパターンであり、今回もそうであった。


 今日、この場に彼女たちがいるのは、アマリーがリースに相談した結果であった。


 貴族の娘が個人で長期的な護衛を雇うのは難しい。


 探す場所がかなり限られる上に本人の実力を図ることが難しいからだ。


 ギルドなどで護衛を雇うことも出来る。しかし、ギルドの人間は短期での護衛をするが、長期でどこかに使えるようなことはしない。それは、彼らは何かに仕えるような事をすることを嫌うからだ。


 他には、騎士やその従者などをスカウトするなどの方法もあるが、何かコネがなければ彼らに会うことすら難しい上、話すら聞いてはもらえないだろう。


 その為、彼女たち今回の武闘大会を見に来たのだった。


 武闘大会には仕官口を探しているどこかの騎士やその従者など、実力のある人間が多く集まる。


 そんな彼らと上手く交渉が出来れば、アマリーの今回の問題は解決する可能性がある。


 なので、アマリーとリースの二人は貴族専用の闘技場のよく見渡せる観客席に座って大会出場者の闘う姿を見ているわけなのだが……。


「実力が拮抗している所為かしら……? どなたも同じように見えてしまうわ……」


 試合が始まり、二人の出場者が剣や槍を持って闘っているのだが、アマリーの目にはどちらが強いのかはっきりとわからない。


 勝負が終わってみても、どちらも強かったとしか思えず、どちらかを護衛にしたいとは強く思えなかった。それになにより、どちらの戦士も筋肉隆々でアマリーは怖かった。


 ――その後も何試合か試合が始まったがが、どの出場者もアマリーは護衛にしたいとは思えなかった。


「どうしましょう……リース。このまま誰も護衛にしたいと思える人が出てこなかったら……私」


「お嬢様、大丈夫です。まだ大会は始まったばかりですから、……それにここで見つからなくても私がまた何か方法を探して参りますから」


「リース……、ありがとう。……あなたが侍女で本当によかったわ」


「勿体無きお言葉ありがとうございます、お嬢様。さぁ、では次の試合を見ましょう」


 心底安心したように言うアマリーに腰を折り礼を述べるリース。


「えぇ、そうね」


 そのいつもやり取りにアマリーは平常心をとり戻り、試合を観戦するために闘技場に目を戻した。


「次はどうやら、今大会注目の強戦士同士の試合らしいですよ」


 リースが大会開始前に大会係員からもらった大会案内に書かれた出場者の紹介を読む。そこには大会ルールから出場者の人数と対戦表、簡単な紹介文が書かれている。それをリースは読んでアマリーに説明しているのだ。


「まぁ、一体どんな方たちが闘うのかしら?」


「片方はもうすぐ小隊長に任命され事が決定されている騎士さまです。お嬢様」


「まぁ、ではその方は護衛には誘えないわね。残念だわ」


「えぇ。ですが、もう一人の方は警備隊に最近勤め始めたばかりの新人だそうです。上手く交渉できればスカウト出来ます」


「そうなの? なら、どんな方なのかしっかりと見なきゃいけないわね」


「はい、お嬢様」



 二人はそう言って闘技場にこれから現れる二人の戦士を待った。



 そして待つことしばらく――、二人の戦士が闘技場に現れた。



 一人はいかにも騎士らしい、銀色の鎧と大きな大剣を構えた金髪の二十代前後の若い青年。


 青年は鎧の上からでも見てわかる屈強な体つきをしており、顔つきも歳のわりにずいぶんと引き締まっており、いかにも「やりそう」な青年だった。



 それ対して、もう一人の戦士の姿は、……なんというかアレだった。


 髪も服も黒くて印象が悪いことも原因だが、目つきが鋭く、篭手らしき物を嵌めた拳を「ガチン、ガチン」と鳴らす姿がいかにもアレっぽい。


 ……戦士というよりも街の路地裏などにいるガラの悪いチンピラ。


 それが、登場した黒い戦士の印象だった。



「な、なんだか、ずいぶんと変わった方のようね」


「変わった方、というよりもただチンピラでしょう。アレは」


「で、でも、中身はもしかしたら違うかもしれないわよ?」


 

 その時――。



『なぁ? まだ試合始まらねぇの? 早く始めてくれよ』



 アマリーとリースが登場した黒い方の戦士について話していると、その黒い戦士が退屈したように大声で誰かに話しかけている。


『さっさと始めてくれねぇ? 退屈で仕方がねぇんだけど?』


 どうやら試合を開始する審判にでも話しかけているらしい。それにしてもずいぶんと言葉が荒い。


「「………。」」


 それを見て、アマリーもリースも確信する。


「……チンピラです。お嬢様」


「……そうね」



 これがガルーとアマリー達との出会いであり、ガルーにとっては面倒ごとの始まりであった。


情景などをもう少し書いたほうがわかりやすいと指摘され、今回少し頑張ってみました。

まだまだ未熟かもしれませんが、これからも頑張ってわかりやすい文章を書いていきたいと思います。

何か感想や意見がありましたら、どうぞお気軽に感想に書き込んでください。

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