病院
今回短いです。
私が病院のベッドで目が覚めたとき、一番に目に入ったのはガルーの姿だった。
ガルーは私のベッドのすぐ傍で面会者用の椅子に座り、腕を胸の前で組み顔を下に向けて寝ていた。
起きているときも不機嫌そうな顔をしていたが、寝ているときも不機嫌そうに眉をしかめて寝ていた。
だが何故彼が目の前にいて、何故私がこんな場所にいるのかと不思議に思った。
しかし、自分の体に巻かれた包帯を見た時、例の辻斬りと戦った事を思い出した。
…今の自分の状況から考え、私は辻斬りに病院送りにされた事がわかった。
そして、そのことからまだあの辻斬りは捕まっていないのだと考え、思わず体を起こそうとしてしまった。
すると、
ズキンッ!!
「痛っ…!」
体を起こそうとするその動作の途中、激痛で体が動かなくなった。
おそらく、これ以上体を動かせば全身に激痛が走り、悶絶することだろう。
だが、あの辻斬りのことを考えると、このままベッドで寝ていることは出来ない。
私は体中を走る痛みを歯を食いしばり、ベッドから起き上がろうとした。
─だが、それは止められた。
止めたのは医師でも看護師でもなく、先ほどまで不機嫌そうに寝ていたガルーだった。
「………。」
彼は無言で私のベッドに近づき、私の頭に手を置いた。
そして、
スッ
「…寝てろよ」
「え…」
私の頭に手を置いた彼は、普段の彼からは想像できないほどの優しい声でそう言った。
彼の口から聞こえたのは、まるで病気の子どもを心配する親のような信じられないほど優しい声だった。
私がそのことに驚いていると、彼は私の頭に手を置いたまま続けた。
「…お前、頑張ったよ。こんなにボロボロになるまでよく頑張ったよ」
そう言いながら、小さな子供にするように私の頭に置いた手で私の髪を撫でる。
「…でも、疲れただろ? だけど、もう大丈夫だから。お前が心配するとこは何もないから…、大丈夫だから」
そう言って、私の頭を優しく撫でるガルー。
そのままゆっくりと私の体をベッドに戻す。
そして、彼は私をベッドに横たわれせながら優しく囁く。
「…だから、安心して寝てろ」
私は驚きで固まったまま病院のベッドの上で彼を見た。
黒ずくめの服に黒い髪を白い紐で無造作に縛った青年。
紛れも無くガルーだ。
間違いない。
だが、普段の彼と決定的に違う。
普段の彼はぶっきらぼうでいつも不機嫌そうだ。
なのに、今はものすごく優しい。
まるで別人のようだ。
「ガ、ガルー?」
「ん?」
「…あの、どうして」
私はそのことが不思議で仕方なく、その理由を聞こうとした。
「…あれ?」
だが、その前に急激な睡魔に襲われた。
まるで、体が無理矢理休ませようとするかのように強制的に意識が閉じられていく。
だが、閉じられていく意識の中で彼の顔を見ようと、目を何とかして開けた。
(あっ…)
彼の顔を見た時、私は実に恥ずかしいことを考えてしまった。
彼がこんなに優しくしてくれるのは、私が心配だったのではないかと。
ガルーの顔を見て、そんな少し自意識過剰なことを考えてしまった。
だって、そんな事を考えてしまうほどに。
─ガルーの顔が優しかったのだ。