足りない
短いです。
「ぐぁぁ…!、がぁっ…!」
「………。」
グリィッ!!
辻斬りは、自分の腹を圧迫し続けるガルーの足から身をよじって逃げようとするが、ガルーは足に力を込める事でそれを阻止する。
これにより、辻斬りはさらに苦しむ事になった。
「ッ~~~~~~!!!」
辻斬りは言葉を発する事が出来ないほどに苦しみ、悶絶する。
「……ちっ」
スゥッ
その様子をガルーは無表情に見ていたが、何を思ったのか突然、辻斬りを押さえつけていた足を退けた。
「ガハッ…! ハァッハァッハァッ」
壁に足で押さえつけられていた辻斬りは突然の解放に驚きながら、痛む腹を押さえながら深く呼吸を繰り返した。
そして、辻斬りは呼吸が落ち着くと顔をあげた。
すると、
「ッ…!!」
「………。」
そこにはまるで自分が落ち着くのを待っていたかのように、じっとこちらを見ているガルーの姿があった。
※※※
「…これは、一体、何のつもりだ?」
そう言って腹を押さえながら立ち上がった辻斬りの目には怒りが宿っていた。
辻斬りはガルーの行動にプライドを傷つけられ、今にも飛び掛かりそうだった。
だが、その姿を見たガルーはただ淡々と言葉を返した。
「─足りない」
「…それはどういう意味だ?」
ガルーの言った言葉の意味が分からず聞き返す辻斬り。
だが、それにガルーは答えない。
それどころか、逆にガルーは辻斬りに質問をした。
「苦しみが足りない」
「…なに?」
突然のガルーの言葉に少し面食らう辻斬り。
だが、そんな辻斬りの様子などお構いなしにガルーは話し続けた。
「あいつが苦しんでるのに、何でお前が苦しんでないんだ? なんでお前の腕も足も折れてない? 体に傷がついていない?」
「………。」
「なんでお前はそうして平気で立ってるんだ? …あいつは傷だらけなのに、何でだ?」
「………。」
「お前は、もっとボロボロになるべきだろ? もっと惨めに地面に這い蹲るべきだろ?」
「………。」
「こんな事ぐらいでくたばるなよ。もっと、もっと、苦しめよ。」
「お主、まさか…」
そこで、辻斬りはガルーが自分を解放した理由を理解した。
辻斬りはガルーのことを怖れるようにして見た。
「…なぁ」
ガルーはさらに喋り続ける。
言葉に抑えきれない怒りを、目に殺意を込めて、辻斬りに向かって喋り続ける。
「何で、お前生きてるんだよ」
辻斬りはこの時確信した。
ガルーが手を抜いたわけでも、遊びで自分を解放したわけではないという事を。
「イラつく。テメェが生きてることも。息吸って、そうやって立っていることも…全部が全部」
目の前の男は、おそらく。いや、間違いなく。
「我慢、できない」
自分を嬲り殺しにするつもりなのだということを。