辻斬り
ちょっとシリアルな話になっていくと思います。
山賊の棟梁を捕まえ、懸賞金をたんまりとギルドからいただいた後、俺はテレサの働く警備隊の屯所に袋一杯の金を持って向かった。
しかし、
「は? テレサの奴いねぇの?」
運悪く、テレサの奴は仕事で屯所にはいなかった。
なんでいないのか、屯所にいるほかの警備隊の人間に理由を聞くと、あっさり教えてくれた。
「急な仕事で同僚と一緒に現場に向かったよ」
「急な仕事?」
「あぁ、例の『辻斬り』が出たんだよ」
「…なんだそれ?」
俺は詳しく話しを聞いてみると、俺が山賊狩りをしている間に王都で『辻斬り』が出たらしい。
しかも、ただの辻斬りではないようだ。
とんでもなく、強く、また残虐な奴が現れたらしい。
その辻斬りには、もう何人もの一般市民が被害に遭い、被害者の中には女子供も含まれているそうだ。
そして、テレサが今この場にいないのは、その辻斬りの新たな被害者が先ほど発見されたので、その確認と捜査のためらしい。
俺はその話を聞いて納得した。
「なるほどな、だからテレサの奴はいないのか」
「そういうことだよ。」
「それにしても、随分と物騒な話だな」
「ここは王都なんだから、これだけ人がいれば悪事や人殺しは珍しくないよ」
「…そういうもんか」
「そういうもんだよ。…ところでどうする? まだ彼女はしばらくここには帰ってこないと思うよ?」
「あー、そうか。じゃぁ、また別の日にくるわ」
「そうか。一応、あんたが来たことは話しとくよ」
「頼んだ。あぁ、ついでに、その辻斬りには気をつけろって言っておいてくれ」
「わかったよ。あんたも気をつけてな。」
「まぁ、考えておくわ」
俺は屯所にいた若い隊員に向かって軽口を叩きながら、屯所を後にした。
…後になって、思えば。
この時、
その辻斬りとテレサが遭遇する可能性について、もっと頭を働かせるべきだった。
警備隊の任務には夜間の見守りなんてものがあって、テレサがその任務に就く可能性だとか。
女子供を斬る非道な辻斬りの行いを、気の強いテレサがどう思ったのかとか。
他にも、色々と考えるべきだった。
特にあの「笛」についても、あの時もっと詳しく話しておくべきだったんだ。
…だけど、もう遅い。
…俺がテレサに会うのは、この次の日だ。
…それまで俺とテレサは街で会うことも、道ですれ違う事もない。
…だから、この次の日の朝。
俺は、病院の病室で体中包帯でぐるぐる巻きにされた、まるでミイラのようなテレサと会うこととなってしまったんだ。
※※※
運悪く、夜間の見回りで例の「辻斬り」に会ってしまったらしい。
警備隊の同僚も二人いたらしいが、全く太刀打ちできず、体中をボロボロにされた挙句に逃げられてしまったらしい。
片足にギブスを嵌めて松葉杖を突いた、テレサの同僚がそう教えてくれた。
そして、教えてくれた。
テレサが何故こんなミイラのような状態になってしまったのかを。
理由は単純だった。
テレサが諦めなかったからだ。
あいつは最後の最後まで、戦ってしまった。
腕や足を折られ、体中を切り刻まれても、剣を手放さなかった。
だから、だ。
だから、辻斬りを楽しませてしまったんだと、テレサの同僚達は教えてくれた。
「あの辻斬りは、腕を折られても向かってくるテレサを見て楽しそうに笑ってやがった…!」
「…あいつは遊んでたんだよ。何度も立ち上がっては向かってくるテレサを見ておもちゃだと思ってたんだ…!」
悔しそうにそういうテレサの同僚達だって、軽症とはいえない怪我を負っている。
こいつらだって必死に戦ったのだろう。
だが、実力の差がありすぎて辻斬りは楽しむことはできなかった。
だから、こいつらはテレサに比べると比較的軽症ですんだのだろう。
…そして、逆に辻斬りを楽しませてしまったテレサは…。
「…………。」
利き腕は折られ、足も左足は折られ、右足はひびが数箇所入っている。
そして、顔や頭には地面に打ちつけた痣やこぶが多数あり、切り傷はもう数え切れないほどある。
幸い、今後の生活に支障をきたすような致命的な傷はなかったものの、重傷には違いない。
「………スゥスゥ」
今は鎮静剤と睡眠薬のおかげでやすらかに眠っているが、逆にその対応はどれだけその傷が酷いのかがはっきりわかってしまう。
俺はその姿を網膜に焼き付けながら、テレサの同僚達に聞いた。
どんな奴だった?
「「!!」」
俺の言葉を聞いた瞬間、テレサの同僚達が怯えるのがわかった。
だが、そんなことはどうだっていい。
俺は怯える彼らから情報を出来る限り聞きだした。
そして俺はテレサの同僚達に頭を下げて礼を言った後、病院の医者に袋一杯の金を渡して、病院から出た。
そして、病院の外で待っていたルースと合流した。
「…どうでしたガルー。テレサさんの容態は…」
「重傷」
ルースの質問に、俺は単語で答える。
「…! まさか命の危険があるとかは…!」
「大丈夫だ、それはない」
「それは、よかった…! ホッとしましたよ…」
「………」
「…これからどうするつもりですか?」
「………」
「…例の辻斬りは『生死問わず』の賞金首になりましたよ」
「………」
「…突然話は変わりますが、今夜は『満月』ですね」
「………」
「私の力を使って、ある程度の範囲を人払いしましょう」
「………」
「……ガルー。」
ピタッ
俺は一度立ち止まり、ルースの奴に礼を言った。
「……悪い」
「……いいえ、どうか気にしないでください」
俺の礼を受け取り、ルースは頷いた。
「………。」
俺はそれを見た後、再び歩き出した。
グツグツと、腹の中で何かが煮える音が聞こえる。
もう、一つのことだけしか考えられない。
殺したい。
ぐちゃぐちゃになるまで殺して、殺して、殺してやりたい。
体がなくなるまで、殺し尽くしたい。
殺したくて、殺したくて。
もう、堪らない。
一秒でも早く、俺は。
「殺したい…!」
頭の中で何度もテレサをあんな目に遭わせた辻斬りを殺し続けながら、俺は街を歩いた。
ぶちキレ中のガルーです。
問題なければ次で戦闘。