山賊
護衛というのは実に暇な仕事だと思った。
商人が乗る荷馬車に乗って山賊が出てくるまでただ待っているだけだ。
これだけで金をもらっているのは殆ど詐欺に近いと、この仕事やっていてつねづね思った。
だが、そんな詐欺みたいな仕事にもかかわらず、商人たちは喜んで俺に護衛の仕事を頼んだ。
まぁ、その理由は俺の護衛料が大分安いからだろう。
俺は普通の護衛料の半分しかもらわない。
まぁ、その理由は色々ある。
例えば、俺が馬を怯えさせてしまうからだとか。
実は、商人を山賊を捕まえるための餌にしているからだとか、理由はいろいろだ。
最初は料金が安すぎて胡散臭く思われていたが、何度目かの護衛をしたときに狼の群れに遭遇してから状況が変わった。
その時、俺はちょうど荷馬車の中で寝ていて、そのキャンキャンうるさい声に苛立って起きてしまった。
最悪の起こし方をされた俺は完全にキレていて、荷馬車を追いかける狼の群れを見て思わずこんな感じで叫んでしまった。
「うるっっせんだよっ! キャンキャン、キャンキャン吼えやがって! ぶっ殺すぞっ!!」
その瞬間、狼達は文字通り尻尾を巻いて逃げていった。
それを見ていた商人がこの話を仲間の商人たちに話して、俺の護衛の仕事は増えていった。
だが、仕事が増えても山賊の一味は全く現れなくて、たまに現れる山賊とは関係ない野犬や低位のモンスターの駆除をいつもしていた。
しかし、そんな退屈な日々が二週間ほど続いたある日。
やっと、山賊が現れた。
俺が護衛していた馬車をいつの間にか囲んだ馬に乗った荒くれ者達。
ボロ布の様な服を着て、実に不衛生そうな肌の色をしている。
ほぼ山賊で間違いないだろう。
俺は馬車からそいつらの中に目当ての奴がいるかどうか探した。
すると、大変うれしいことにいた。
一番大きな馬に乗って、棍棒を肩に担いだ三十過ぎの大男が。
俺はそいつを見つけて、笑い出しそうになりながら、服についているフードを被って馬車の外に出た。
※※※
馬車の後部から外に出ると、馬車の周りを囲んでいる数十人の男達が一斉に俺を見た。
そして、
「あぁ!? なんだコイツは!?」「商人の仲間か?」「つーか、他に人いねぇの? 特に女ぁ」「馬鹿お前、いてもこんなときに外に出られるわけないだろ」「えぇー、なんだよー、それが楽しみでコレやってんのに、いねぇのかよー」「いやいや、まだそうだと決まってないだろ? もしかしたら馬車の中で震えてるかもよ? 可憐なオトメが肩を震わせて、こう、プルプルと」「うおっ!! マジか!? 俄然やる気が出てきた!」
馬鹿みたいな口調でしゃべりだす馬鹿共。
俺はそれを聞き流しながら、商人のほうに歩き始めた。
馬車の前部では緊張した面持ちの商人が、馬の手綱をきつく握り締めていた。
俺はその商人の肩を軽く叩いて、馬車の中に入っているように言った。
「ここは俺がなんとかするから、あんたは無理せずに馬車の中に入ってな」
「あ、あぁ、わ、わかった」
ひどく鈍い足取りで馬車の中に入っていく商人。
俺は商人が馬車の中に入るのを確認した後、改めて山賊連中を見回した。
剣や斧、弓や槍。中には魔術師が使う杖を持っている奴もいた。
よく考えると、山賊にしては武装が良過ぎる気もするが、バッカスは昔は傭兵をやっていたから、おそらくそのつてをつかって仲間を集めたのだろう。
まぁ、そんな事はどうだっていい。
俺は口に手を当てて大声で叫んだ。
でかい馬の乗って、棍棒を担いだ馬鹿を。
「おーいバッカス! お前まだその棍棒使ってんのかーっ!! あんだけ汚ねぇから持つの止めろっていただろー!」
俺の声はあたりに響いて、山賊連中にはもちろん。棟梁であるバッカスにももちろん届いたはずだ。
その証拠に、名前を呼ばれたバッカスの奴は露骨に動揺した。
あー、もしかしたらもう気づいたかも。
ちょっと、つまんねぇ。
※※※
俺の声を聞いたバッカスは声を震わせて、フードを被った俺を指差してきた。
そして、
「…そ、その声。ま、まさか…」
「あっ! その様子だと、もう気がついたのか。脳みそ少ないのによく思い出せたなぁ」
俺はその様子を見て、大きめの声でバッカスの奴を褒めてやった。
「げぇっ!! マジかよ!?」
完全に俺の正体が分かったようで、思いっきり動揺していた。
「おいおい、懐かしの知り合いを前に、その態度はなんだよ」
「え、あ、いや、これは、その~」
「「…………。」」
俺とバッカスが「なごやか」に話していると、その様子を見ていた山賊の手下連中は動揺を隠せないでいた。
いきなり俺が棟梁に話しかけて、しかも顔見知りのようだったのでどうしていいのかわからないのだろう。
そんな中で、バッカスの奴が俺にこう切り出してきた。
「と、ところでなんで旦那がこんなところに? 例の団はどうしたんで?」
「あー、アレはちょっと都合があって辞めてきた。今はギルドで働いてる」
「へ、へぇ。そ、それはそれは」
「まぁ、そういうわけだ。…もう、なんとなく分かってると思うが」
「…はい」
「どうする? 抵抗するか?」
「………止めておきます。まだ、死にたくないですから」
「そうか、じゃぁ手下連中はどうする?」
「…こいつらは多分抵抗するでしょう。…でも、殺すのだけは勘弁してくれませんか?」
「まぁ、いいぞ」
「…よろしくお願いします」
※※※
俺とバッカスの交渉が終わった後、バッカスが俺に投降することを手下達に言うと、手下達は激怒した。
内容の殆どが俺を罵る言葉で、だが中には戦いもせずに投降する自分達の棟梁をも罵る言葉が聞こえた。
「………」
バッカスはその声をじっと耐えるようにして動かない。
「くそっ! 頭アンタには失望したよっ! もういい! アンタが戦わないなら俺が戦う!」
その様子を見て、血の気の多い手下連中が怒りに任せて俺に襲い掛かってきた。
まず、魔術師が氷の槍の魔術で俺の体を貫こうとする。
だが、
パリン!!
「うぜぇよ」
俺はそれを足で蹴り飛ばして破壊する。
それに驚愕する魔術師。
だがそれに怯むことなく、次々とやってくる剣や槍を持った手下達。完全に頭に血が上っているようだ。
俺はそいつらを見て、一気にめんどくさくなった。
久々にちょっと「アレ」と使うことにした。
「吸ゥウウウウウウウウウウウウーーーーーーーーーーーーーー!!」
俺は肺に空気を大量に送り込み、次に口に両手で作った筒を当てた。
俺の様子を見ていたバッカスが慌てて馬から下りるのが見えた。それは実に懸命な判断だった。
これは高い場所にいる人間がくらうと、とても危険だ。
もちろん、俺につっこんでくる山賊の手下はもっと危険だ。
俺は肺に十分な空気が溜まったのを確認すると、一直線に俺に向かってくる馬鹿どもに向かって「それ」を発射した。
「風ゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウッーーーーーーー!!!!」
瞬間、
山賊たちは空を舞った。
綺麗に、木の葉のように、空を舞った。
まるで、木の葉のようにヒラヒラと。
だが、木の葉のように綺麗に落ちる事はなく、「ぐはっ」「うげっ」とかあまり綺麗じゃない着地音で持って落ちてきた。
中には馬にしがみついて何とか空を舞うことがなかった奴らもいたが、さすがに武器はどこかに吹き飛んだようだった。
もちろん、吹き飛んだ奴は武器どころではなく、自分がなぜ空を舞ったのか訳がわからないようだった。
俺はその様子を見ながら、言った。
「今の結構加減が難しいからこれ以上連発すると、死人がでるぞ。それでも、まだやるか?」
俺がそう言うと、山賊連中は顔を見合わせて叫んだ。
『勘弁してください!!』
─こうして、俺は山賊の棟梁であるバッカスと、その手下を捕まえて懸賞金をたんまりといただいた。
ガルーの技の元ネタは三匹の子豚で狼がやるアレです。
威力も多分同じくらい?
レンガで造った家は壊せないと思います。
マジな戦闘はもう少したってからです。
ガチでキレたガルーに期待してください。