笛
「は? 何言ってんのお前?」
ガルーは目の前のテレサに向かってそう言った。
「え? だって、これは恩返しなんでしょう?」
「いんや、違う」
それに対して、テレサのほうは少し戸惑った。
「…じゃ、このお金ってなに?」
「お前が借金に困ってたみたいだから、それの手助けだ」
「あの、だからそれが恩返しなんじゃ…」
「ちげぇよ」
ガルーは乱暴にそう言って、しつこく質問を繰り返すテレサの言葉をきった。
「………。」
それにテレサは少しムッとする。
「…あー」
ガルーはそんなテレサを見て「しまった」と思った。
不機嫌にさせてしまった事に気がつき、なんとか機嫌を直してもらおうと色々頭をめぐらせる。
だが、そういったことに疎いガルーは上手く言葉がでない。
苦し紛れに、テレサが先ほど自分に聞いていた質問の答えを返すことにした。
「俺がお前に金を渡す事に恩返しの意味はねぇよ」
「…意味がわからない。あなたは私の借金の話を聞いて、それを返すことを恩返しの目的にしたんでしょう?」
「あ? 全然違うぞ。だって、これは─」
テレサの言葉を否定するガルーの目にふざけた様子はなかった。
だから、続けて言ったガルーの言葉は本気だった。
─ガルーは格好をつけるでもなく、ごく自然にこう言った。
「俺が勝手にしてることだろ?」
「…えっと、つまりこういう事? 私の借金の返済を手伝ってくれるけど、それに恩返しの意味はないと?」
「まぁ、そうだ」
「………。」
ガルーの「それがどうした?」といわんばかりの顔を見て頭を抱えそうになった。
正直、渡されたお金を受け取るのにかなりの葛藤もあったりもしたのだが、ガルーの行動の意味を理解したら、そんなものは吹き飛んでしまった。
突然、警備隊の屯所に来てお金の入った袋を渡したと思ったらコレだ。
前日のアレがあったので、なんとなく来るだろうと思っていた。
だから、お金をありがたくもらい感謝の言葉に「恩返しありがとう。でも、もう気持ちだけで十分だから」と言ったら、コレだ。
なんだか、全部を台無しにされたような気分だった。
「テレサ」
「…なによ」
私がなんだかぐったり疲れていると、ガルーがこちらに手を出して何かを渡してくる。
「コレ渡しておく。必要なとき吹け」
そう言ってガルーが渡してきたのは銀色の笛だった。
私はそれを素直に受け取った。
もう、正直な所やけくそぎみだったのだろう。
受け取ってから改めて笛を見た。
笛は銀色で細長く、手のひらに乗るような小さなものだった。
銀色の笛には細かい意匠が施されていて、まるでアクセサリーのようにも見えた。
さらに、首から下げられるように笛には紐が通っている。
(まさか、プレゼント!?)
おもわず、目の前の男とこの綺麗な笛を見比べる。
「あ、あのこれって─」
「危ないときか、なんか問題があったときに思いっきり吹け」
「え?」
「じゃ、また来る」
私がガルーにこの笛を渡した意味を聞こうとしたら、ガルーはそんな事を言って屯所から出て行ってしまった。
私はこの時かなり動揺して、ガルーを追いかけることができなかった
初めて家族以外の男性からプレゼント渡された。
そのことが思ったよりも恥ずかしくて、思っていたよりずっと嬉しかった。
なんだか、そのままガルー追いかけたらとんでもない事になりそうだ。
だから、私はガルーを追いかけるのを諦めて、渡された笛を見ながら今度ガルーに会ったときに言う台詞を考える事にした。