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交差  作者: りな


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第9章

フードを深く被り、黒いマスク。

ゆるくパーマのかかった前髪の隙間から、街灯の光を反射する瞳。


――雪、のはずだった。


なのに。

胸の奥で、ずっと触れないようにしていた名前が、勝手に浮かび上がる。


「……ハル?」


声に出した瞬間、凛ははっとして口を押さえた。

違う。

違うはずだ。


「……っ、ごめん、今の、違くて……」


言い直そうとした言葉は、うまく形にならなかった。

喉の奥で絡まり、消える。


目の前の人物は、しばらく何も言わなかった。

ただ、凛を見ている。

その視線が、逃げ場を塞ぐ。


「……誰それ」


低く、気だるげな声。

間違いなく、雪の声だった。


凛の胸が、少しだけ緩む。

ほら、違う。

同じじゃない。


「ごめん……人違い」


そう言いながらも、凛の視線は瞳から離れなかった。

昼に見ていたハルの瞳と、重なる。

色も、温度も、静けさも。


雪は小さく息を吐いた。

タバコの代わりに、今日は何も持っていない手をポケットに突っ込む。


「……変なこと言うね」


責めるでも、からかうでもない。

ただ、少し距離を取るように、一歩だけ後ろへ下がった。


「体調、悪そうだったから」

凛は、理由にもならない言葉を並べる。

「最近、来てなかったし……」


雪は一瞬、目を伏せた。

街灯の影が、前髪に落ちる。


「……そっちの人は、ちゃんとしてる?」


その言葉に、凛の心臓が強く跳ねた。

“そっち”。

昼の世界を、指している。


「……え?」


「学校の人」

雪はそれ以上、説明しなかった。


凛の頭が、追いつかない。

知っている?

知っていない?

どこまで、何を。


「……ハルは」

名前が、また零れそうになって、凛は慌てて言葉を切る。

「……その人は、ちゃんとしてる、と思う」


雪は、少しだけ笑った。

マスクの下で。

凛には、そう見えた。


「そっか」


それだけだった。


沈黙が落ちる。

夜風が、二人の間を抜けていく。


「……あんま、俺のこと追いかけんなよ」


唐突に、雪が言った。

声は静かで、強くも弱くもない。


「……でも」


「心配すんなって意味じゃない」

雪は凛の言葉を遮る。

「癖になるから」


その言葉が、凛の胸に刺さる。

自分が、もうとっくに戻れない場所に来ていることを、見透かされた気がした。


「今日は帰れ」

前と同じ言葉。

でも、今度は少し違って聞こえた。


凛は、何も言えず、ただ頷いた。


背を向けて歩き出す雪の後ろ姿を、凛は見送る。

追いかけたい。

確かめたい。

でも、足が動かない。


――ハルじゃない。

そう思いたい。


でも。

あの瞳を、凛はもう、知ってしまっていた。


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