ミエナイモノ
ヒトという動物は頭がいい。たくさんの言語を生み、それらを使い他のヒトとコミュニケーションを取る。声でしか表せれなかったものの、次第に文字として目で認識できるようになった。
そんな頭のいいヒト様。残念ながら完璧な動物という訳ではない。感情というものが存在している限り、ヒトは欲に塗れてしまう、騙し騙され終いには関係ないものを巻き込む殺し合いをしてしまうほどのアホらしさをだいぶ前にやっていた。
ヒトには到底見ることができない「ヒトの心」というもの。観測ができないのに確かにそこにある。何故そんなものを信じるのか。
それはヒトが頭が悪いからだ。
2XXX年10月5日、とある家にヒトが住んでいた。
「おはよー…何見てるの?」
「…今日は雨か……」
「パソコンで天気予報見るって…テレビで見ないんだ」
寒見 丸定は家の持ち主である鎌谷 万次郎に話しかけていた。パソコンで天気予報を見るのに夢中になっているのか、鎌谷は話を聞いてくれない。
もう季節は秋だ。窓の外を見ると、道に所々ある木の葉は紅色に染まっている。暑い夏が終わったばかりなのにもう涼しい、これが毎日続いてくれたらいいのにと思う。
寒見は雨が降っているのを確認した。雨の日は出かけることが少ないので少し気分が落ち込む。とは言っても親友と勝手に自分が言ってる鎌谷と一緒にいれることは大変嬉しく思える。
「朝ごはん何食べるの?」
「朝はフレンチトーストでも食べるか、あいつが好きな」
「いいねぇ。バター多めで」
「一人分しか作らないって寂しいな」
「おい俺のも作ってくれよ」
鎌谷の言葉に寒見は思わずツッコんでしまう。そう、この鎌谷というヒト、絶対に飯は自分のしか作らない。
それが何故かは寒見は知る由もないが気になってしょうがない。
「そういや今日はあいつの…」
「誕生日だね」
「夜は豪華にするか」
「ぃやったー!」
鎌谷が言う「あいつ」とは数年前に亡くなった大切なヒトのことである。11月3日である今日はそのヒトの誕生日なので夜ご飯は豪華になるそうだ。それを聞いて寒見は嬉しくなった。さっきまで落ち込んでやる気を無くしていたのに。
ピピピピ
「…ん、もしもし」
鎌谷はポケットから鳴っているスマホを取り出し電話に出た。少し嬉しそうな、悲しそうな顔をしている。眉を顰めてはいるが、口角は上がっている。どんな表情と言い表せればいいかわからない。
そんな表情を浮かべる鎌谷を見て寒見は悲しそうな表情を浮かべた。こっちはちゃんとわかりやすい。
…やっぱりダメなのかな…………………
一人でしばらく抱えていた悩みが更に深くなった。
朝ごはんを食べてしばらくした時間、朝の9時30分手前だ。鎌谷はコーヒーカップを片手にパソコンをまたカタカタと弄っている。画面を見てみると、文章のデータを打ち込んでいる様子だと寒見は分かった。タイトルには「人間の観測と心情の変化」と書かれている。
鎌谷の職業は研究者である。特に『ヒトの心』について。色々な実験やアンケートなどを繰り返しデータにまとめる。そして論文を書き発表する、何かの発見はお金になるのでまあまあ稼ぎやすいそうだ。
「『結果、数多存在する見えないモノは人間の認識によって姿形は変わっていて、それぞれ思い込みの激しさの度合いによって変わることが分かった。』…と」
「難しくてよくわかんねぇ~」
それを横目にソファーに寝転がっている寒見は暇していた。こいつは働けない愚か者なので鎌谷の家に住み着いている。
鎌谷はそんな寒見のことを全く気にしないで作業を進めている。
部屋の時計を確認してみる。すると椅子から立ち上がり何かの準備を始めた。ジャケットを着て靴下を履く。財布をポケットの中に入れて鍵を手に取った。何処かに出かけるようだ。
「行ってきます」
「いってらっしゃーい」
玄関のドアは閉まり、鍵がかかった。
「…俺も何かするかーっていうかついていこっかな」
何を思ったのか鎌谷と一緒に出かけようと決めて、寒見も出かけの準備をした。
傘にまあまあな強さの雨が降り注ぐ。ボツボツと音を立てて微かに傘が揺れるのを鎌谷は感じた。横に寒見も並列して歩いていたが、特に会話などしていない。鎌谷に関してはスマホをいじりながら歩いている。
その空気に耐えれなくなった寒見は口を開いた。
「どこに行くの?」
「…んーまず『カルベス』の最新刊買おっかな」
「いいね、読み終わったら読ませてー」
『カルベス』とは現在連載中の『オカルト研究部のベースライン』という漫画の略称だ。描写が素晴らしい戦いとストーリーが日本で社会現象を起こしている漫画である。
今日は日曜日なので、『週刊少年スパルタ』で一話更新されている雑誌が買える。なので今から本屋に行って買いに行くらしい。
「ここから本屋はそんなに遠くないはず…うん、歩いて十分しない」
「でも雨なんだよなぁ…」
「あいつも雨嫌いだからな…十分でも死にかけるのかな」
そう鎌谷が言うと、一人でに笑い出した。寒見はクスクスと笑っている鎌谷の顔を見て笑顔になった。くだらない会話一つだけでこんなにも楽しくなれるのはこいつだけだと心の中で思った。
そうこうしているうちにもう本屋の前まで来た。十分なんてまあまあの速度で終わってしまう、友と話していたら。
自動ドアを抜けて中に入る。最近できたところなので昔の本からラノベ、漫画など最近の本もある。鎌谷はフロアの地図を見て漫画のコーナーに向かった。
着いたのはいいが、何処にも『週刊少年スパルタ』が見当たらない。鎌谷は困った顔をした。
「週刊少年っていう位だし、あるとしたら入口とかそこら辺じゃないの?あと今日発売だから新しいし」
「…ミスった。ここじゃないのか」
「そうとなれば早速戻ろう~」
体を180°回転させて入口の方へ向かった。
寒見の言う通り、入口のすぐそばにある棚にたくさん雑誌が入っていた。鎌谷は一つを手に取りレジの方に並んだ。
「お会計450円です」
「丁度で」
「ありがとうございましたー」
会計が済んで立ち去ろうとしたその時、後ろから声がかかった。
「あ、もしかして卍?」
「その呼び方…」
「よっ久しぶり」
「トーキョー…ここでなにしてんだ?」
「ひっさしぶりー!!」
中学高校を共に過ごしていた東 京の声だった。寒見と鎌谷とよく一緒にツルんでいた友達の一人である。
高校卒業からは全く会っていなかったので実に七年ぶりである。見た目も性格も特に変わっていないのでわかりやすい。それは鎌谷もだが。
「俺はスパルタ買いに来た」
「へぇー『カルベス』?あれすごいよな。すっげぇ話題じゃん」
「やっぱ流行には乗りたいし…まあまあ面白いし」
「わかる!描写が細かくてわかりやすいよな!」
仲良さげに鎌谷と東は肩を組む。微笑ましくて寒見は思わずニヤけてしまう。まさかここで目にするとは思ってもいなかった。
本屋を出て何時間か経った。現在時刻は13時。雨はまだ降っている。
昼食を取った後、すぐ別の場所へ向かった。ここはいつも鎌谷が行っている研究所である。関係者のご家族ご友人なら誰でも入れるらしい。ここでたくさんのヒトと触れ合い、研究をする。
「今日するのは…これだ」
「『幽霊の存在』…?……う、頭が」
「あいつが幽霊で俺のことを見守ってくれたらいいな……」
「幽霊」という単語を聞いて、寒見は頭が痛くなった。何か嫌なことを思い出してしまったみたいだ。記憶の中奥底に眠る思い出してはいけないモノ。この「幽霊」の二文字は禁句であった。
鎌谷はそんな寒見を見向きもせずに、パソコンの電源をつけた。
「本当に入ってよかったのか?」
「…多分行ける」
「ならいいけど…」
鎌谷はパソコンに映っている文字と資料らしきものを見ながらそう言った。
「よし、今日の発表も頑張ろう」
「うん。応援してる。行ってらっしゃい」
鎌谷はパソコンを閉じて椅子から立ち上がった。
「行ってきます」
机の上にある写真に向けてそう言った。
寒見は先に家に帰った。誰もいない鎌谷の家は寂しくて静かなのが不気味だ。何か怖さを感じる。時刻はもう19時を回るというのにまだ帰ってこない。普段ならもう疾っくの疾うに帰ってきているはずなのだが、気配すら感じない。
どうしたんだろう……まさかだけど……うっ!
突然頭痛が来た。次第に激しくなっていき、立つのが困難になってしまった。寒見は頭を押さえてソファに座る直前に倒れてしまった。
「ああぁ……」
寒見は思い返した。何故最近、しょっちゅう頭痛がするようになったのか。昼の研究所での頭痛は『幽霊』という言葉に反応した時に、今さっきのは……
そう考えていたら玄関の鍵が開く音がした。
「ただいま……」
「おかえりー!!」
「…疲れたぁ」
「お疲れ様、ゆっくり休んでね」
寒見は鎌谷が帰って来たのに反応して元気になった。何か嫌なことでも考えてしまったが、そんなことなくてどっと安心した。
鎌谷は玄関に座り込んでしばらくすると、立ち上がった後に自分の部屋に向かった。相当疲れてるのかあまり独り言を喋らない。少し珍しい。
「どうだった?」
「発表は成功したけど…」
「けど?」
「…まだだなぁ、『見えないモノ』はどうやったら存在が確認できるんだ?まじでわからねぇ」
何か悩んではいるが、とにかく成功はしたらしい。おめでたいことだ、夜ご飯も豪華だと言っていたので楽しみになってきた。
時刻は19時30分、食卓の上にはとても美味しそうな料理が並べられていた。量が多いのでこれを食べきれるかと言われると無理な量である。
ピンポーン
チャイムが鳴った。誰かが来たのだが、誰が来たのかは知らない。
「よっ」
「いらっしゃい」
「まあすげえな、お前の料理のスキル」
「そんなに褒めても何も出ねえぞ」
昼に本屋で偶々(たまたま)会った京だった。恰好が一緒だが、ちゃんと髪はセットしてある。
「丸…やっぱりあいつがいねぇと寂しいよ」
「幽霊でもいいからもう一回見たいな…………………」
丸?そんなやつ友達にいたっけ?ずっと鎌谷と暮らしてきたけどそんなやつ全然知らないぞ?
寒見は少し怖くなった。身近にも「丸」が入った名前の奴が思い当たらない。本当に誰のことを言っているのかわからなかった。
寒見はふと目線をとあるものに移した。テーブル近くにある仏壇だ。あまり興味がなかったから何も見ていないが、ここまで焦らされると見たくなってしまう。
「……………………え」
そこに飾られていた遺影を見た。驚きのあまり言葉が出なかった。
「丸の誕生日に……………………乾杯!」
「乾杯………ほらお前も見ろよ、すっげぇうまそうだろ?全部お前の好きなやつだ。天国からでも幽霊になってでも絶対に見てくれよな」
「寒見 丸定、いい名前だな」
「後世に残すしかない」
…思い出した。俺はあの日、確か京にナイフで刺されて殺されたはずだ。なんで忘れてたんだ。俺は幽霊だってことを。会話が通じていたようで全部鎌谷の独り言だったのか。
何とも悲しい人生だな。
見えない者
何故ヒトが頭が悪いと言えるか。簡単に騙されてしまうからだ。
勝手な思い込みによって「それが存在している」という解釈をする。脳を自分自身でバグらせてしまうのだ。ただの自滅が誤解を生み、喧嘩をして戦争をする。変に期待して勝手に萎える。
ヒトと言う動物は実に面白い。
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読んでくださりありがとうございます。
騙された人は色んな人に勧めてください。




