表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

分配された恋

再配属された愛

作者: あい

第一章:通知と名前


2046年、結婚出産義務法が完全定着した社会。

22歳以上の未婚者は、国家によって自動的に配偶者が割り当てられ、

二子を出産するまで同居・性交・妊娠が義務付けられていた。


LOVEYOUの**セクシー担当・真理奈(まりな・23)**にも、通知が届いた。


> 【通知】あなたの割り当てパートナーは「佐伯さえき 翔太しょうた

居住区:第五特別区 E-12ブロック




一目見た瞬間、時間が止まった。


翔太――それは、デビュー前に唯一付き合っていた“元彼”の名前だった。

別れは一方的だった。事務所に見つかる前に、自ら彼を切った。

「夢を守るため」と言い訳して、何も告げず去ったあの日の後悔が、胸を締めつけた。


「なんでよりによって、彼なの……?」


偶然か、それとも皮肉か。制度は、過去を“再配属”してきた。



---


第二章:再会は言葉もなく


再会した翔太は、ほとんど表情を変えなかった。


「……久しぶりだな、真理奈さん。“テレビの中の人”って感じ」


「まだ根に持ってるの?」


「いや。ただ、他人になったと思ってたから」


その静かな声に、真理奈は返す言葉がなかった。

自分は華やかな舞台に上がり、彼は地方で整備士として働いていたと聞いていた。

自分は選んだはずだった――けれど、何も得ていなかった気がする。


共同生活が始まったが、翔太は距離を詰めず、真理奈も気まずさを隠すように振る舞った。


> 【通達】性交渉未実施。1ヶ月以内に妊娠が確認されない場合、国家指導対象となります。




制度は、過去を強制的に“義務”として突きつけてくる。



---


第三章:身体より先に壊れていたもの


「……今日、する?」


真理奈が絞り出すように言った夜。

翔太は言葉を返さず、静かに頷いた。


ベッドの上、かつて触れ合ったはずの距離が、何より遠く感じた。


「ごめん……こんな形で……」


「夢を選んだこと、恨んでないよ。ただ、黙って消えたことだけは、たぶん一生忘れない」


真理奈はその言葉に、ようやく涙を流した。


翔太の体温は優しかった。

だけどそれは、昔に戻るためのものではなく、今の彼女を受け入れるためのものだった。



---


第四章:新しい命と、過去の続き


妊娠が確認されたとき、真理奈は鏡の前でゆっくりと腹を撫でた。


「この子は……もう、“逃げない”って決めたあたしの証なんだよ」


翔太との会話も、少しずつ戻り始めた。

笑いあえるようになったのは、出産を迎える頃だった。


娘が生まれた夜、翔太は病室の片隅でぽつりと言った。


「ほんとならさ、あの時、一緒に夢を追いたかったんだよ」


「そんなこと、言わないでよ……あたし、今なら手を伸ばせたのに」


「だったら、今からでも間に合うだろ」


その手は、10代の頃よりもずっと温かかった。



---


第五章:再びの命令、揺れる夜


> 【通達】義務未完了。第二子妊娠が必要です。性交渉未確認。




真理奈は再び、制度に引き戻される現実に声を失った。


「……また、“制度のため”に抱かれるの?」


翔太は首を横に振った。


「違う。今度は、“俺が望んで、君と家族を作りたい”」


制度に支配された出会いだった。

だが今の彼の言葉には、かつての痛みも、別れも、そして未来も、すべてが詰まっていた。


その夜、彼女は初めて、自らの意志で翔太に触れた。

昔の後悔ではなく、今を選ぶために。



---


最終章:義務の先にあるもの


第二子の出産後、政府から最終通知が届く。


> 【通達】あなた方の義務は完了しました。今後は任意で婚姻を継続することが可能です。




真理奈はその書類を眺めながら翔太に言った。


「ねぇ……次に指輪をもらうとしたら、制度のじゃなくて、あなたの名前入りがいい」


翔太は静かに頷いた。


「もう一度、“ちゃんと選ばせてくれてありがとう”」


制度が過去を交差させた。

でも最後に愛を選ぶのは、自分だった。



---


―完―


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ