再配属された愛
第一章:通知と名前
2046年、結婚出産義務法が完全定着した社会。
22歳以上の未婚者は、国家によって自動的に配偶者が割り当てられ、
二子を出産するまで同居・性交・妊娠が義務付けられていた。
LOVEYOUの**セクシー担当・真理奈(まりな・23)**にも、通知が届いた。
> 【通知】あなたの割り当てパートナーは「佐伯 翔太」
居住区:第五特別区 E-12ブロック
一目見た瞬間、時間が止まった。
翔太――それは、デビュー前に唯一付き合っていた“元彼”の名前だった。
別れは一方的だった。事務所に見つかる前に、自ら彼を切った。
「夢を守るため」と言い訳して、何も告げず去ったあの日の後悔が、胸を締めつけた。
「なんでよりによって、彼なの……?」
偶然か、それとも皮肉か。制度は、過去を“再配属”してきた。
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第二章:再会は言葉もなく
再会した翔太は、ほとんど表情を変えなかった。
「……久しぶりだな、真理奈さん。“テレビの中の人”って感じ」
「まだ根に持ってるの?」
「いや。ただ、他人になったと思ってたから」
その静かな声に、真理奈は返す言葉がなかった。
自分は華やかな舞台に上がり、彼は地方で整備士として働いていたと聞いていた。
自分は選んだはずだった――けれど、何も得ていなかった気がする。
共同生活が始まったが、翔太は距離を詰めず、真理奈も気まずさを隠すように振る舞った。
> 【通達】性交渉未実施。1ヶ月以内に妊娠が確認されない場合、国家指導対象となります。
制度は、過去を強制的に“義務”として突きつけてくる。
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第三章:身体より先に壊れていたもの
「……今日、する?」
真理奈が絞り出すように言った夜。
翔太は言葉を返さず、静かに頷いた。
ベッドの上、かつて触れ合ったはずの距離が、何より遠く感じた。
「ごめん……こんな形で……」
「夢を選んだこと、恨んでないよ。ただ、黙って消えたことだけは、たぶん一生忘れない」
真理奈はその言葉に、ようやく涙を流した。
翔太の体温は優しかった。
だけどそれは、昔に戻るためのものではなく、今の彼女を受け入れるためのものだった。
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第四章:新しい命と、過去の続き
妊娠が確認されたとき、真理奈は鏡の前でゆっくりと腹を撫でた。
「この子は……もう、“逃げない”って決めたあたしの証なんだよ」
翔太との会話も、少しずつ戻り始めた。
笑いあえるようになったのは、出産を迎える頃だった。
娘が生まれた夜、翔太は病室の片隅でぽつりと言った。
「ほんとならさ、あの時、一緒に夢を追いたかったんだよ」
「そんなこと、言わないでよ……あたし、今なら手を伸ばせたのに」
「だったら、今からでも間に合うだろ」
その手は、10代の頃よりもずっと温かかった。
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第五章:再びの命令、揺れる夜
> 【通達】義務未完了。第二子妊娠が必要です。性交渉未確認。
真理奈は再び、制度に引き戻される現実に声を失った。
「……また、“制度のため”に抱かれるの?」
翔太は首を横に振った。
「違う。今度は、“俺が望んで、君と家族を作りたい”」
制度に支配された出会いだった。
だが今の彼の言葉には、かつての痛みも、別れも、そして未来も、すべてが詰まっていた。
その夜、彼女は初めて、自らの意志で翔太に触れた。
昔の後悔ではなく、今を選ぶために。
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最終章:義務の先にあるもの
第二子の出産後、政府から最終通知が届く。
> 【通達】あなた方の義務は完了しました。今後は任意で婚姻を継続することが可能です。
真理奈はその書類を眺めながら翔太に言った。
「ねぇ……次に指輪をもらうとしたら、制度のじゃなくて、あなたの名前入りがいい」
翔太は静かに頷いた。
「もう一度、“ちゃんと選ばせてくれてありがとう”」
制度が過去を交差させた。
でも最後に愛を選ぶのは、自分だった。
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―完―