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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第五章 冷土戦々

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九話 装弾筒付翼安定徹甲弾&榴散弾

九話 装弾筒付翼安定徹甲弾&榴散弾


ヴァルトは、上着の頭巾を深々と被りながら、職人たちと話を合わせ、設計図を書いていた。

「……ていう場合はどうなる?」

「火砲にはすでに、ライフリング加工が施されています。滑腔砲にする時間もないでしょう。結論として、やはり砲弾のみで実現するべきかと」


ヴァルトは、ライフリングの意味を考える。


(……あぁ、施条加工のはなしか。銃弾に回転を与えて精度を上げる……ミルワードの言葉が設計図やコイツらの言葉にあるのは、きっとアドリエンヌの言葉より、より科学的な意味合いが付随しやすいんだろうな。職人の相手じゃよく使われてんだろうか)


ヴァルトは設計図を見直す。


「……さすがに砲身自体の設計は直せないか。なら、ライフリングに噛み合うように弾丸を設計すればい良さそうだな。性能の高い真鍮か、まぁ鉄素材でもいい、砲弾と砲弾を固定する縄……っつうか、帯みたいなのが必要だな。榴散弾のほうは……誰か、ミルワードの技術分かるやついるか?」

一人の技術者が資料を持ってくる。

「散弾の技術は応用できそうです。ですが散弾はあくまでも近接用の」

「遠距離から撃って、あとで爆破するようにすればいい。ここの技術ならそれも可能なはずだ」

「シュエンウーの現れる場所は、東側。ギムレーは西を海、東を山にという地形ですが、故に横風の心配は少ないでしょう。それからもう1つ。弾芯に使用される鉄材の耐久性は、少なくとも優性以上が必要かと。弾着の衝撃の耐える弾丸でなければ、意味を成しません。そして、その場合素材が高価になりますので、増産は不可能です」

「どうしても装甲が抜けない場合の保険の弾だ、コイツに増産は必要ねぇ」

「羽はどうします?型の精製時に組み込みますか?軽量化は必要かと思いますが」

「できるだけ製造部品は少なくだ。下手に連結する回数増やしたら、無作為性の原則に引っ掛かって性能がガタ落ちする。小銃とか機関車だって、部品を減らすのにお前らも苦労したんじゃねぇか?」

「……しかし、ある程度の部品の数は必要でしょう」

「1から3発目までは弾芯と羽と帯を結合。4~6は他のは部品として組み込む部品を増やす。素材に限りはあるだろうが、ある程度は試そう」

「了解しました。では、実際に作ってたいきましょうか、素材は……」


ノンナは、ノイと材料を運んできた。ノイは、使うであろう鋼材や各種素材を肩に乗せたり、抱えたりしながら部屋に入る。荷物をノイが下ろすと、床が震えた。


「あぁっ、ごめんなさい」

職人の1人が近寄る。


「いえ、その量を運べる方が凄いので、お構い無く……」


ヴァルトとノンナや職人たちは、粘土で原型となる形状を構成し、同時に鋼材の板を加熱し金床で打ちながら形成していき、粘土で型どり、焼いて原型を完成させる。油圧式の各種機材やノイの使う工具によって細かく分解されていき、炉で溶かされて、型に流して整形される。出来上がったのは、人ひとり分の長さ以上の、羽のついた矢であった。側面には溝がぐるりと一周、溝が幾重にもある。羽の枚数を増減させたもの、弾頭の先端の形状も変えて生産されたそれを、ノイは見ていた。


「あれ、矢じゃん。大砲じゃないの?」

「コイツを、砲弾に詰め込む」

「詰め……えぇ?」


ノイは設計図を見ると、矢の図形の外側を覆うようにした砲弾が確認できた。


「次はこれを作るの?」

「あぁ。横風には弱いからまだ改善する必要はあるが、玄武【シュエンウー】相手にはどうにかなりそうだ」


次にヴァルトたちは、弾を覆うようにして砲弾を製造し、噛み合わせ、被せるようにして部品を結合させる。


「……完成です、さっそく試射を行いましょう」


工場内から、最新式の列車砲が持ち出され、機関車に連結されていく。装填箇所に砲弾を設置し、機関車は蒸気を吐いて出発。防壁の付近にある、標的の置かれた特設の射撃演習場に運ばれた。壁と垂直に回転、砲身を地面と、不完全に水平に保つようにして照準が定められる。砲身の側面に備えられた照準器や回転式の取っ手などが備えられた席に、ノイとノンナが登場する。


「ノイさん、ここの取っ手、垂直のやつを右回り3回、水平のを左回り4回、回して」

「右3、左4……」

「お姉さん凄いね!!それ簡単に動かせないんだよ!!」

「複雑ぅ~……」


ノンナは照準器を覗いて、大きく息を吸いながら、テコの原理で作動するような装置に手を掛ける。


「みんな!!口を開けて耳を塞いで!!」


周辺にいる人員が全員、耳を塞いで口を開けた。


「発射ぁぁ!!」


装置の、棒のような取っ手を前に倒す。瞬間、空間は揺れ動き、防壁は震え上がり、気温が上がったような感覚と共に、灼熱が視界を塞がるように砲口から花を咲かせる。砲弾は吹き飛ばされると、固定器具が砲弾の遠心力で弾け飛び、4つに分裂して地面に落下する。火薬の運動を矢が受け取り、空間を引き裂くようにして吹き飛ぶ。回転しながら、しかし結果的に真っ直ぐ飛んでいくのが、矢の尻に仕込まれた火薬の燃焼の軌跡を見て分かった。標的に命中し、金切り声が発生した。ヴァルトは耳から手を離す。


「……うぁ、マジでうっせぇなこいつは。ノンナ、どんな感じだ!」

「照準器で見てた感じ、回転しながら、なんだろ、結果的に真っ直ぐ飛んでるって感じかな。弾の真ん中を中心に、お尻振っちゃってる感じに回ってるんだよね」

「矢の形にすれば、炸薬マシマシで爆速で射撃しても空気の抵抗が生まれずに真っ直ぐぶっ飛ぶと思ったんだがな……上手くはいかねぇか」

「どうだろ、次、羽の枚数が少ないやつ撃っていい?」

「あいよ、ノイ!!試作4番を装填しろ!!側面に4って書いてあるやつだ!!」


ノイは、砲弾の側面に4と印刷された砲弾を担ぎ上げ、砲身の後方を片手で、取っ手を稼働させて砲身を開くと、そっと置いて押し込んだ。獣人の二人が、火薬の入った薬莢を運び、ノイの渡す。それらを押し込んでいく様子をヴァルトが見ている。


「これで良かったっけ!」

「閉めろ~!」


ノイは砲身後方を閉じて、獣人たちと一緒に火砲から下りる。ノイはノンナの乗る操縦席に戻った。ノンナの指示で再び口を開けて耳を塞ぐ。弾丸は掛け声と共に発射されて、回転数を少なくして飛んでいく。弾着をノンナが確認すると、指示を出して、次々と形を少し変えた弾丸が発射されていった。


「こっちだ……4~6番目の方が、よく飛ぶよ!!照準器から見てる感じ、丸く弾が回転してるんだけど、その回転数が少ない方が真っ直ぐ飛んでる。弾丸の回転数が少ない方が、精度が安定してる!!」

「4から6番目は、ライフリングのねじれに帯が沿うように設計してあるから、ライフリングの影響、つまり回転がかからないやつだ。風を羽が受けて勝手に回転するだけなんだが、弾の回転数が少ない方がいいってことか?」

「4から6だと、羽の枚数はどうなってるの?」

「4から6は数字が上がるのつれて枚数は多い」

「そっか、4番が一番回転してるようの見えたのはそれかも」

「4番の羽の枚数は6だ、だがどういうことだ?」

「羽の枚数で、回転数が決まるんだよ。風を受ける面積が多い分、回転数が上がるんじゃないかな」

「羽の枚数が少ない方がいいのか?」

「うぅんどうだろ?」

「ある程度は回転してたほうがいい。運動量があれば、風圧だったり、製造時の軸のブレがあってもそれを抑制できる」

「じゃあ、羽6枚のを基準にもう何発か作って威力を上げていけば大丈」


兵士の1人が、標的となった鉄板と鉄塊を運んできた。矢のような弾丸はどこにも見当たらず、熱された弾痕が目目立っている。


「性能についてですが、想定の……倍以上の貫徹力があります。ですが、理由はまったく……」


ヴァルトが、貫かれた鉄塊の中を覗く。


「……あぁ、そういうことか」


中身が熱されたようになっている。


(アドリエンヌで作った成形炸薬弾と、現象が同じだな……たぶん衝突の摩擦で、液状化したんだ。成形炸薬弾頭もコイツも、流体化した金属が貫徹力を持ってた。液体化した状態で、たぶん奥を抉るように流れて、それでこうなってる……か?)


ノンナがヴァルトをつつく。


「何か分かった?お兄さん」

「あぁ、液状化した金属が、貫徹力に直結しているってことはな。元々、矢の形状にしたのは、矢が持つ軽量ながら高速で真っ直ぐ飛ぶ性能を、重たい砲弾で再現したらクソ威力あるんじゃねぇかっつうワケだったが、コイツは……嬉しい誤算だな。もう何発か試作して、それで終いにしよう」


職人が書類を持って歩いてくる。


「生産するにあたって、名称を決める必要があります」

「装弾筒付翼安定徹甲弾……長いな」

「翼付徹甲弾とはどうですか?」

「じゃそれで」


ノンナはしかし、ヴァルトを袖を引っ張った。


「ねぇ、時間はかかったけど、これじゃ物量には……」

「それはもう指示が出してある。砲弾を生産してる工場にいってみろ」


ノンナは小走りで工場へ向かった。工場へはいるちお、労働者たちはいままでとは違う形の砲弾を生産していた。蓋のような弾頭があり、中に塩の結晶を詰め込んでいた。ポルトラーニンが来た。

「ノンナ……?」

「おじいちゃん、これ」

「あの小僧が持ってきた設計図をもとに、至急量産しているんじゃ。ヴァルヴァラ様の判子があったとはいえ、ここまで人類に好きにされるのもどうじゃろうか」

「これ、散弾だよね?」

ポルトラーニンは設計図をノンナにわたした。

「空中で炸裂する散弾……!?」

「空中を飛んでいく間は砲弾。手榴弾の芯管のような構造を持ち、時間経過で炸裂、扇状に塩の弾丸を散らばらせる。榴弾より効果範囲が、ザションに限り大幅に向上していおる。あの男何者なんじゃ」


ノンナは走ってヴァルトのとこをに戻る。開発するための部屋にはおらず、衛兵から場所を聞き出し、防壁のうえへ向かった。榴散弾を実験中のヴァルトに話しかける。


「兄さんすごいね!あれならいけるかも!でも……あの矢の砲弾はなんで?」

「やれることは全部やってなんぼだろ。頭のなかにあるだけじゃ、モノはモノじゃない。俺は……どっかで死ぬかもしれねぇだろ」

2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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