八話 卑兵【ベイビン】
八話 卑兵【ベイビン】
フアンは、二刀剣を片付け、イェングイの話を聞いていた。
「そもそも、球凰人が西陸へ訪れる理由はありません。世界はここ100年以上、東西に分か、西はミルワード、東は球凰で、その経済的理念・思想などによって激しく対立し、互いを政治的に敵対し、競いあっていました。東西競争と呼ばれたそれにより、互いが互いの特徴を嫌い、果てに人種的な対立者さえ生みました。一方はあなた方のような、鼻が高めだったり、肌が白かったりといった特徴を。もう一方は、つり目や丸い顔つきを嫌いました」
「初耳、です」
「西陸は、その宗教の歪さ故に、古来より他人種に毛嫌いされておりました。いわいるベストリアン、亜人種・獣人種への差別が、排他的な印象を国際的に広く認知させ、孤立を生んでいました。そこから球凰の場合、ザションの登場により、他国との外交など到底叶うはずもなく結果、その初耳というものに繋がります。ベストロの出現をあなた方から聞いたときは、驚きました……そんなものはないだろうという認識が、私にもあったからです」
「私にも、ですか」
「世界的に、日輪を除いて、霊的なものは信じられておりませんでした」
「……その、それで剣闘奴隷というのは」
「直接、あなたの母方に確認した方が良いです。ですが話せる限りでしたら……そのままお聞きになられますか?」
「……はい」
ノイは立ち上がって、フアンに近寄る。
「フアン……」
「大丈夫です。あとで母さんと、マリーお婆さんに聞くだけですから」
イェングイは、歩きながら話した。兵士たちはつまらなさそうな顔をしている。
「……国内でとある問題が発生しました。後に卑兵【ベイビン】と呼ばれるそれら事件と被害者は、東陸各地に存在していました。いわゆる貴族の娯楽として、秘密裏に開かれる闘技場で彼らは働き、殺し、殺され、勝てば生存、負ければ死、そのような日々を送っておりました。問題が発覚したのは、頻発する強盗事件などで、妙なほどに卓越した、しかしフアンさんのように、実戦的ながらどこか見応えのある剣技を、共通して持っていた点です。系統など一つもない、だが見応えが共通した剣技を不信に思い、政治局のある新人が調査し突き止め、政治の腐敗と共にそれらを告発し、国際的に弾劾……結果、関係のある部署や貴族もろとも、国家はそれらを切り捨てる形で終幕しました」
「しかし、それが母さんたちの生まれだとは……」
「被害者の中の証言には、卑兵【ベイビン】は、勝利を重ねて金銭を元に自由へと漕ぎ着け、それは我々の希望であったという……それら証言は、港にほど近かったことから出ることがよくあり、あるいは国外へ逃げた卑兵【ベイビン】もいた可能性が浮上し、外交官の仕事の1つに、被害者当本人やその遺族の調査と被害に対する補填というのが、人道上の理由で課せられていました。形骸化してはいましたが……」
「可能性としては十分、と?」
「はい」
「……ありがとうございます。しかし、よくそこまで細かく覚えていますね」
「突き止めたのは私の父ですから」
「ひょっとして、雪梅【シュエメイ】さんも高官なのですか?」
「いいえ、彼女は帝の趣味で集められた町娘です。私は彼女と親しくなり、奪ってきたというところですね。私の話したことは、信じなくとも良いです。私たちには、時間こそありませんが、それでも、繋がれるほどの知性がありのですから」
「……そうですね、ありがとうございます」




