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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第五章 冷土戦々

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七話 炎、輝きて

七話 炎、輝きて


町中から上がる煙はさらに増え、そこらじゅうから鉄を叩く音が聞こえる。力コブの目立つ職人たちは、細かい銃の部品を鍛造し、銃や大砲を組み上げる。銃の先端には刺突を可能のする槍のようなものが取り付けられる。


とりわけ大きな工場では、ヴァルトが顎を閉じることなく、車両に見える火砲を眺めていた。ノンナは鼻から大きく息を吐いた。


「なん、じゃこりゃ……」

「私、お手製!!最新式の大砲を、列車に詰め込んでみちゃった大砲!!射角を上にとって、落下と慣性で射程も伸ばしてみたよ!!」

「弾をぶん投げる感じで射程上げたのか……それ、精度どんくらいだ?」

「玄武【シュエンウー】は大きいんでしょ?大丈夫!!」

「あぁ、そういう感じか……」


黒々としたネジの皿が乱立し、2両以上の賃車を占領するほどの、巨大な火砲。水平に射線を保つそれは、大きな回転式の取っ手が回されることで少しずつ上向きになっていく。別の取っ手を回され、また幾人かの獣人が車体に乗った土台を押して回し、ほんのし少しだけ射線が変わっていく。


「これ以上は無理か?」

「うん……どうしよ?」

「壁上から射撃すんなら、もっと曲げる必要あんだろ。車列は壁と水平だ。敵は垂直にいる」

「そこなんだよねぇ……ヴァルトさん、どうしよ?」

「線路自体を回したらどうだ?」

「いいねぇ!でも、壁に配備するのは難しいかな。まぁ今はごり押しでなんとか大砲が展開できるし、大丈夫イだよ」

「ノイと獣人だけで銃身支えるってか……?下手したら回転させたとき、砲身の重さで壁から落ちるぞ……そういや機関車もどうやって動いてるかわかんねぇな」

「あれはミルワードの蒸気機関車っていうものだよ。水をグツグツして出てきた蒸気を油圧式の部品に当てて推進力に変えるの。油圧装置は力を何倍にも膨れ上げられる。そうして車輪を回して走らせるんだ!!だいぶ前から設計図だけはアドリエンヌ経由であったらしいんだけど、おじいちゃ……えっと、ポルトラーニンさん主導で、実戦配備されたんだ」

「この大砲もか?」

「大砲は、うちでちょうど完成した最新式だよ。反動を砲身が吸収する仕組みでね、地面に設置しても、本体は吹っ飛ばない。私、作です!!車列に積んで移動できたら強いなって思って、勝手に完成品1号をパパッと列車に組んでみました!!」

「勝手ってお前……」

「大丈夫、お母さんがなんとかしてくれる。えっへん!!」

「この国の一大事に……」

「まぁ、使うのはここだけじゃないけどね」

「はぁ?」

「リヴァイアサン」


ノンナが、設計図を眺める。


「お母さんはね、ヴァルトさんの言ったリヴァイアサンにも備えるんだって」

「それは……」

「ノイさんにあったんだ、その……ヴァルトさんの故郷が、なくなったこと。あの街と、ここは地形的には一緒。一回でも現れたら、そこで終わりなの」

「……先を見てるんだな」

「シュエンウーを倒したら、即座にリヴァイアサン対策の会議があるみたい。ここを抜けても、まだギムレーは安全じゃない。私、頑張らなきゃ……」


工場の煙は雲に届いていた。


―壁上―


フアンはノイは、手錠を外されたイェングイと幾人かの兵士と共に、壁上に配備された線路の脇を歩いていた。防壁は厚く、建物を上に建設できそうなほどであり、高めでもあった。前方には山々がそびえ立ち、全てが雪で覆われている。


「あの山の中腹あたりまでの大きさでしょう。シュエンウーは、それほどに大きいです」

「了解しました、至急報告します」


兵士の一人が、離れていった。


「……しかし、馬と嫁を連れ、走っては休ませを続け、道中のザションを回避し、草木を食べ……冬は足を止める。馬が寿命になる前にここへ来れた。私自身よくやったと思いますかね」


フアンが訪ねる。


「……球凰は、どのような国でしたか?」

「市場は賑わい、どこでも子供の声が溢れていました。しかし、私が政治局に就任してから分かったのは、政治は腐敗していたという始末。税金を横領しては酒池肉林……まったく、あの難関な試験を突破したと思えば、内部の派閥争いに巻き込まれ……あぁいや失敬」

「もしかして、球凰のこと……」

「私はあの国に珍しく、自国が嫌いでした。政治どころか、国民性も実はあまり……市場は活気に溢れているとは言いましたが、騙し騙されの温床、すぐにケチを付けては殴りあって値切る。自分だけ、家族だけ、今だけ、金だけ……たくましいというより、厚かましい限りでした」

「そこまで言うんですね……」

「個人的意見です。それより……」


イェングイは、フアンの服装を眺める。


「貴方は、球凰の服装に近しいですね。ひょっとして……」

「あぁえっと、母の祖先が球凰の出身だとか。何でも、かなり極地の伝統衣装だと」

「見覚えのない、風変わりな様相ですが……確かに球凰の服装です」


イェングイは、服装を見ると、何やら哀愁を漂わせる。


「伝統……ですか」

「何か?」

「……一つ、手合わせ願いますか?寒さで、身体が凍えてしまいそうです」

ノイがイェングイを見る。


「いえ、貴方は……相当お強いそうなので」

「ぅえぇ?」


ノイは驚いた様子で、フアンが思案する。


「ノイ、何か考え事ですか?聞きましたよ、ヴァルトとお出かけしたとか」

「なっ!?」


イェングイは笑顔になり、口元を、大きな袖で隠した。

「私もシュエメイを落とすのにたいへん苦労しました。頑張りなさい」


イェングイは、袖を振り払うようにして、折り畳まれた三本の棒が現れた。鎖で繋がれたようなそれは黒と黄金で塗装されており、部分的に塗装は剥がれたいた。フアンは、その武器の出しかたに注目していた。


「三節棍、まさかこれを返して下さるとは思いませんでした……これさえあれば、ザションは討伐可能です」

「鈍器の類いですか?とても殺傷力があるとは……ひょっとして、塩ですか?」

「そうですね。私もこの武器で奴らに勝てるなんて思いもしませんでした。それと、銀が有効だというのは……」

「はい、塩と同様。溶けるようにして効果がありました」

「あるいはそこに、怪物どもの起源があるかもしれません」

「……起源?」

「それは身体を暖めてからでも?」

「僕のは真剣ですが……ノイ、周囲の安全を。それと、寒くはないんですか?」

「……んあ、あぁえぇ?」

「お出かけしたからって、ほおけすぎです……お付き合いにだって、漕ぎ着けたわけではないのでしょう?」

「あぁぁもぉ、分かったってぇぇ!!!」


振り回すようにして真っ直ぐに伸ばし、そして前と後ろの棒を刀剣のようし、宙に浮いた真ん中の棒を胸に当て、しまいこむように構え、フアンを見つめる。警備の兵士たちは、木箱などの座って、それらを見ていた。


「なんか、やり合う感じ?」

「止めた方がいいか?」

「……俺は見たいかな」

「了解、じゃ黒頭巾に昼飯賭ける」


フアンは、袖から二刀を取り出して腰を低くして突撃し突きを放つ。イェングイは一歩前進し、持ち上げながら、両端の棒を引っ張りしまいこんだ棒を振り落としてフアンの手首を殴打する。そのまま首に三節棍をフアンの首に引っかけ引っ張り転倒させ、棒術のように回転させ遠心力を作り、跳躍して縦に振り、回転しながら頭部に向かって攻撃する。


フアンは横転しながら刀剣でそれを受け流し後退する。イェングイは三節棍を叩きつけたあと、一気に袖に引き戻してそれをしまいこみ、接近する。フアンは二刀を槍へ変形し、足を払って牽制、イェングイとの距離を保ち、相手の踏み込みに合わせて突きを放つ。


イェングイは袖から三節棍を一気に引き伸ばすようにして、槍の竿を弾き飛ばし、前進しながら身体を回転させ、腹部を打撃した。フアンはしかし崩れることなく、槍の竿を相手の首に回して逃げられないよいにし、腹部に蹴りを入れた。


イェングイの首後ろで槍を二刀に変形し、柄で頭部を双方向から打撃し、再び蹴りを入れて距離を取る。


(反転するような動きが多いですね……相手の得意に合わせる必要性はない、ならこちらも攻めないようにする!)


フアンは、下段と上段で、広く腕を開いて構えた。イェングイは手を上げる。


「待って下さい。ここまでにしましょう」

「おや?もう大丈夫なのですか?」

「はい、そして一つ疑問が……」


イェングイは三節棍を袖のなかに片付けると、フアンと同じ構えをした。ノイがそれを見つめる。


「……なんか、カッコいいねそれ」

「やはり、そう思いますか」

「何?」

「これは……なるほど、貴方の祖先がどのような人生だったかが伺えます。さぞ苦痛の連続だったことでしょう。先ほど、貴方の母方は球凰人だったと仰いましたね?その母方からこれを教わったのですか?」


フアンは首を傾げる。


「そう、ですが……苦痛の連続、とは?」

「貴方のその構え、それは、舞踊などの見せ物の類いで使用されるものです。あの日輪の侍には言われなかったのですか?」

「開きすぎ……などはよく言われていましたが……」

「それはクセなどではなく、元から型に仕込まれたものです。しかし、実際問題、これまで貴方は戦えてきた……対人での戦闘も、十二分にできている」

「それは、西陸の型や日輪の型を学んだからではないでしょうか?」

「では、それらを学ぶ以前では、対人戦闘力が不得手だったはずです」

「母からは、他にも色々と学びました。例えば、肘を曲げることなく、最短で威力んの高い殴打の方法など。確か、発勁【ファージン】」

「そのような単語は、球凰には実在しません」

「……?」

「先ほどの、苦痛という部分にそれは結び付きます。どこかでその口伝がなくなったのか、あるいは貴方に伝えられていないのか……貴方の母方は、おそらく剣闘奴隷でした」

「剣……闘……奴隷?」

2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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