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ブルートアウス ~意思と表象としての神話の世界~  作者: 雅号丸
第五章 冷土戦々

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六話 山海乱【シャンハイルアン】

六話 山海乱【シャンハイルアン】


「……ではイェン・グイ。君のいう、山海乱【シャンハイルアン】について、君のことについても、まとめて説明してくれ」


イェン・グイは議席に座り、話し始める。


「およそ40年ほど前、球凰に突如として訪れた、伝説上の怪物たちによる災害。それらは集団を為し、どのようにか統率を取り、球凰の各地を襲撃しました。怪物たちを雑凶【ザション】、集団的な強襲は山海乱【シャンハイルアン】という現象として、呼ばれていました。私は、外交部の部長として、政治局の遅すぎる対応に球凰の終焉を予見し、妻である雪梅【シュエメイ】と共に国を脱し、ここへたどり着いた次第です」


ナタリアが、一言一句違えずに、その流暢なアドリエンヌの言葉を記載していく。


「では、先ほど発した山のような怪物というのは……そちらのいう山海獣の、長のような個体でしょうか?」

「……どう捉えれば良いかは不明です。皆さんも御存じでしょうが、一体一体がかけ離れた容貌をしているにも関わらず、まるで1つの群れであるかのように行動し、一斉にこちらにかかってきます。そして、その群れの中心にいつもおり、さながら長であるかのように鎮座し、攻撃をしかける巨大な雑凶【ザション】がいます」


ヴァルトが議席に身体を乗せる。


「ほとんどベストロじゃねぇか」

「ベストロというのは、聖典教の?」

「西陸でも同様、ベストロによる集団での強襲、デボンダーデが引き起こった……まさか、東陸でも同様だとはな……まて、ナナミのいた日輪は?」


ナナミが、椅子に座り、もたれ掛かるようにしている。


「……同じじゃ」

「は?」

「日輪でも、まったく同じような状況じゃった……古書に記されているような怪しの類いが、肉体をもって村落や街を破壊……百鬼夜行。日輪もここや西陸と同様、化け物に襲われておった……」


会議にいる全員が黙る。窓を叩く風が強まったなか、ヴァルトが議席に腰掛ける。


「少なくとも、東陸はかなりヤバいだってことだな……で、デカブツの特徴は?」

「……シュエンウー【玄武】。球凰の伝説に現れる亀の神とされる存在です。その甲に蛇が巻きついたような怪物も確認されていましが、便宜上1体として、そう呼んでいます。その歩みは山を削り、道を作り、そこからザション【雑凶】が現れます」

「神話の怪物か……シレーヌと同様でもそれ以上でも、クソデカイ大砲でも用意できりゃ、この国の技術なら、討伐は可能かもな。やりにいく必要性がねぇなら、ガッツリ腰を据えて構えりゃいい」


炎輝【イェングイ】は、ヴァルヴァラに視線を合わせる。


「シュエンウーは亀と同様、甲羅部分は鋼より硬いです。しかし、正面から頭部を狙うようにすれば内部にも攻撃することができます。問題は取り巻く蛇が砲弾の類いを、首をしならせて、ハエを叩くように防いでしまう点です」


フアンは、袖から聖典を取り出す。


「例えば西陸のベストロの場合、弱点や相手の特徴が聖典に書かれていることがよくあります。そういった書籍などはなかったのですか?」


「はい、存在します。山海経。一般に広まる、怪異の類いをまとめたような書籍によく描かれる怪異が、ザションとして出現しています。しかし、シュエンウーは球凰において、神の一体。弱点などは記載はされておりませんでした……ですが、ザションにはある共通の弱点があります」


ポルトラーニンは、瓶を取り出した。


「貴様の持ち物にあった、これか?」


瓶の中身を、摘まむように取り出してみせる。


「……はい」

「これはただの塩だ」

「ザションに対する特効を有しております。球凰では、主に徐霊に効果があるとして信じられてきました。それをただ相手に振りかけるだけでも、命中部位が溶けるようにして、損傷を与えられます」


ヴァルトは鞄から、アドリエンヌの頃から手持ちに入れていた、袋に入った銀の粉を取り出す。


「ベストロに効果があるのは……銀だった」

「それはまた高価な……胡椒をかけているようなものですね」


フアンは、ヴァルトの座る議席に寄った。


「球凰ではどのように対処を?」

「例えば、最大火力・最大初速の火砲で蛇ごと貫く。地面に火薬を設置しての、脚部を吹き飛ばしての失血死狙い。石油の火力で甲羅内部までの加熱による焼死などが、球凰【キュウファン】では試されました。それらの攻撃のどれもに塩を加えてはいましたが、どれも技術的・財政的に困難で、討伐は失敗していましたが……ですがここギムレーは、ミルワードに匹敵するほどの技術を持ち合わせています。討伐は十分に可能かと」


ポルトラーニンが、議席を立って去ろうとする。


「貫徹力を高めた、大口径の火砲・大規模な爆発装置、あるいは地雷。焼却力のある発火装置……全て手配は可能だ、塩の確保も含めて私は、それらの配備と、厳戒態勢の施行に移る。哨戒を手配して移動経路を把握し、射程を生かして火砲を叩き込み相手を弱体化、到着までに少しでも時間を稼ぎながら。爆薬を配置する……そのシュエンウーを討伐する算段は、おそらくあればあるほど良い。配備した数がモノをいうはずだ。残りの作戦は貴様らで手配しろ。よいな、ヴァルヴァラ」

「必要そうなものはできるだけ配備してくれ」


フアンは、ポルトラーニンを見る。


「話だけで、配備をするのですか?」

「いま、嘘をいう必要はないからの。自国の滅亡を予見し、国を捨てて家族を守る選択ができ、山や谷を越えながら、何年もかけて、おまけに妊娠までさせた女をここまで運んできた男じゃ。ここで嘘を付ける必要性の無さくらい、分かっておるじゃろうて」


ポルトラーニンは外へ出ていった。


「局所的、だが極めて柔軟な男……人類への敵対心さえなければ、良い上官なんだがな……斥候が、たまにあたりで人間の死体を見つける。アイツの息のかかった斥候部隊は、人を殺している」


ノイは、自分が遭遇した斥候を思い出した。


「ねぇ、その人たち、アドリエンヌの言葉じゃないのを話してなかった?」


ヴァルヴァラはノイを見る。


「西陸から稀に脱走に成功したやつと、元々ここに住んでいたやつで言語が混じったんだ。その結果、西陸……聖典教を嫌うやつは土着の言語を利用し、そうでもないやつはアドリエンヌ語を利用している。名前まで染めるのは癪にさわるというのが国民の総意で、アドリエンヌの名前は使わないようにしている。めんどくさいが、それが心っていうものだろう。君らがあの斥候部隊と出会って生きている理由は、君が光り初めて、身体が変化したということからだ。ノイちゃんから、ヴァルト君には変身の能力らしきものがあるのは知っている。今はシュエンウーへの対策に時間を当てる、後でしっかり、研究材料として、身体を調べさせて欲しい。いいな?」


ヴァルトは頷くと、会議は続けられた。

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