四話 生き方
四話 生き方
ノイは照らされた洞窟の壁面に、木材などで補強されているのが見えた。携帯式の明かりを吊るして持ち歩く。鉄の線が最奥まで続くようで、所々、獣人や亜人がいる。喋っている言葉は、2つあった。
ノイは会話に入ろうとはせず、無言で鉄の線の中を歩き、分岐していく鉄の線をなぞるようの歩き、行き止まりにたどり着く。ノイはつるはしで思いきり岩肌を突き刺し、えぐるように破壊しては、それらしき鉱石をひとしきり袋に詰め込んでいく。後ろに人だかりができていた。
「あいつ、何者だ?」
「新人だよ、さっ汽車から降りてきた」
「ギムレーにこんな逸材がいるなんてな……みろ、もうあんなに鉄鉱石を」
ノイは、振り下ろすつるはしの反動など気にも止めず、たった1人で炭鉱を拡充していく。
(どのくらい時間、経ったんだろ。もう夜だったりするのかな?)
手の爪の間に汚れが少したまっている。片方の爪でそれをえぐり出すと、深爪したように少し出血する。
(……髪の毛とか、もうぐちゃぐちゃだろうな)
つるはしを振り下ろし、軋む音が目立ち始める。
(ヴァルト、何してるんだろ)
手が止まった。
(……なんでこんなに落ち込んでるんだろ。私、何かした訳じゃない。私は、何もしてない。何もしてないのに、なに考えてるんだろ……けっきょく私は、さっきのキツネの人みたいな人にはなれない……諦める、そう諦める。それでもいいんじゃないかな。マルティナには応援してもらった。でも応援されて、私は気を取り戻した、だけだった。そうじゃん、私なにもしてないじゃん。ハンナにだって、言われたじゃん……なのに私は……変わるべきだったのに、逃げた……逃げ続けて、助けられなくて、ここまで)
1人の獣人が近寄り、ノイを止める。
「おい新人、もう十分だろ。お前……ここ一帯を取りつくす気か?」
「……」
「もう夜になる。汽車に乗れ。運ぶのは明日にしろ」
ノイは、夜という言葉に反応し、ナタリアの言葉を思い出した。
(夜は、勝手に……ヴァルト、いま何してるんだろ。フアンとナナミは大丈夫かな……)
ノイは細々とした歩き方で炭鉱を歩く。
少し内股のそれは周囲の視線を集め、ノイは気にも止めずに、炭鉱を出る。月は少し欠けていて、海が一望できるそこには、海面に月が朧気に映り、冷たい風が海を波立たせる
。ボロボロのつるはしを担ぎ、それを支えに寝ながら、汽車が止まるのを待った。汽車の煙を上げる音は甲高く、ノイは目を覚ます。
ノイは汽車を降りて、月光み照らされるつるはしを見る。握りしめた部分が、手の形に凹んでいて、つるはしを取っ手と繋ぐ部分はガタツキが見れた。
(……どこが女の子よ、私)
ナタリアの声が脳内を埋めつくし、溜め息を増やしながら、落ちた肩をそのままに、寝室のある建物に向かった。扉を開け、風を呼び込み、誰の迎えもないなか、上着を脱ぐこともなく、寝室へ向かう。つるはしを廊下の絨毯に引きずるようにして、汚れで跡を残しながらいると、ヴァルヴァラが向かい側から来た。
「ノイ、あんたの部屋は2階に上がって4つ目の部屋だ。2つ目がフアン、3つ目がナナミ、5つ目がヴァルトだ」
「別々?」
「これは客人としての扱い。まぁアンタの場合、部屋は一緒の方が良かったか?」
「……」
「どうした?」
「……ありがと、ございます。助けてくれて」
「……良い子だなぁアンタは。頑張れよ。あぁアンタ……道具ボロボロじゃないか。研究所の場所は分かるか?そこに届けておく。明日には直ってるだろうから、受け取りにいくんだ。じゃ、お休み」
「えぇ?」
つるはしをヴァルヴァラが回収していき、ノイは何も持たずに2階へ上がっていった。視線は下を向いており、しかし扉の数を数えていた。
(2、3……ん?)
5つ目の扉から、ナタリアが出てきた。ノイは青ざめ、手は震えて、脚がすくんだ。
ナタリアの自信に溢れた視線はノイを突き刺し、ノイはさらに視線を落とし、その息を止めるようにして、部屋に駆け込んだ。扉を閉じて、そのまま脚を崩して倒れ込むようにする。
扉を背に縮こまり、暖炉のついていない部屋で、明かりも無しに目を閉じた。炭鉱でついた身体中の汚れから、土と鉄の臭いが出て部屋を充満し、溜め息が混じり、紛いの眠りに、涙を流しながらついた。銃声と砲撃はなりやむことはなく、外ではいまだに襲撃があることを伺える。
鉄の臭さで起きるノイは、窓の揺れがないことに気付いた。窓を開けると、風は緩やかで、銃声や砲撃の音がない。窓を開けると、雪が静かに振り積もるのを見る。
(綺麗だな)
振ってくる雪を手に取る。
(ふわっとしてて、すぐ溶けて……弱くて綺麗、私は弱くて、私は強くない。雪のほうが、可愛いのかな)
溜め息をいくつも溢しながら、仕事の為につるはしを取りに行く。昨日のことを思い出しながら、建物を移動していく。
(研究所、ここだっけ)
両開きの扉を開けて、中に入ろうとする。
(なんか、ヴァルトに会うの気まずいな。なんでだろ……いや、そもそもいるかどうか分かんないけど……恥ずかしい?違う、なんだろ……分かんない)
ノイは背中をつつかれて振り返る。赤毛の、狼の獣人の少女がいた。
「おはよう!!えっと……ノイさん!!」
「えぇ?」
「ヴァルトさんなら中にいるよ!!昨日からずっとここにいてさぁ、こう眼がバッキバキになって、すっごい楽しそうなんだ!!」
ノイは、小走りで中に入っていく。
「あぁ気をつけて、色々転がってるから!!」
ノイは部屋を次々と開けていき、奥の部屋へたどり着く。部屋に入って早々機材に脚を引っ掻け転ぶ。ノイが顔を上げると、目の下に黒いのを目立たせるヴァルトがいた。
「……ノイお前、大丈夫か?」
「えぇ?」
「お前、目の下。くま……」
「あれ、寝たんだけど……」
開けられた扉を赤毛の獣人が通る。
「ヴァルトさん、できた?」
「ノンナか?あぁ……まぁ理論上はな。無作為性でどれくらい性能が良くなるかは分からねぇ」
ノイは立ち上がって、ヴァルトの向かい側にある長机に、刀剣と鞘があるのが伺える。
「……これは?」
「俺の武器をここで作りなおした。いままでの鋼輪式の発火装置から、手動操作で炸薬を装填、排莢して何度でも抜刀で火力を出せる。鎖閂式抜刀剣……俺の二本目の武器だ」
ノイはヴァルトを見ていた。
「……ねぇヴァルト」
「どうした?」
「昨日って……その、帰った?」
「帰ったって、どこにだ。俺はずっとここでコイツを作ってたぞ」
「……じゃあ、部屋には帰ってないの?」
「部屋……そういやなんか途中で、ヴァルヴァラが入ってきてそんなこと言ってたな」
ノンナがノイの後ろから現れる。
「ヴァルトさんの集中力すごいね!!私もよく夜更かしして物作るけど、ヴァルトさん凄いや!」
「あの、ノンナ……ちゃん?ずっとヴァルトって」
「ここにいたと思うよ?私けっこう早起きなんだけど、私がここに来たときもヴァルトさんここいたし」
「……そう、なんだ」
ノイは、ナタリアのことを思い出した。
(……じゃあ、なんでナタリアはあの部屋にいたんだろ?)
ノイは机にもう1つ武装が置いてあるのに気付く。
「……こっちは何?」
「破城釘の改良したやつだ。中折れ式で炸薬を注ぐのから、本体を手動で開閉して発射筒を……つまり、くそ簡単に装填できるようにした」
「……じゃあ、いっぱい打てる?」
「まぁそれでいい」
「……ちょっと小さくなった?」
「軽くもなった。フアンくらいなら片手でもしっかり使えるくらいにはな……炸薬がここのは品質がいいから、威力も上がってる」
ノンナが自分の胸を軽く拳で叩いた。
「無煙火薬!!ヴァルトさんの使ってた黒色火薬、すっごい使い勝手悪いんだよね」
ノイは机に置かれた武器のなかに、フアンやナナミのものがあることに気づいた。
「……フアンとナナミ、起きないかな」
「起きてからでも、この国の情報集めるぞ……特に、デボンダーデが発生してる件のだ」
ノンナが近寄る。
「デボンダーデって、アドリエンヌじゃそう呼んでるの?」
「ノンナ、お前はあの化け物についてどこまで知ってる?」
「えぇっと、話していいのかな……」
扉が開けられて、ヴァルヴァラが部屋に入ってくる。硬い板状のものに書類を乗せて、書きながら入ってくる。
「ノイ、おまえ今日仕事の無しなぁ~。そんだけ」
「……えぇ?」
「おまえ昨日どんだけ掘ったか覚えてないのかぁ?いま回収作業で手一杯なんだ。それに、あれは全身運動による戦力強化の基礎でもあるんだ、いっきにやられちゃ誰も若いのが育たなくなるんだよ。資材も足りてるから、しばらく仕事は、なし」
ヴァルヴァラが小さな袋を投げる。ノイはそれを受け取る。少し重たい。
「それ、賃金な。好きに使ってねぇ。んじゃ忙しいから帰……」
ヴァルヴァラはノンナを見つけると、一目散に向かう。
「ノンナ~」
「お母さん!」
ヴァルヴァラはひっかくほどにノンナを撫で回していく。ボサボサになりながら二人は笑っていた。ヴァルトがそれを見ている。
「忙しいんじゃないのか……?」
ノイは、手持ちの袋の中身を見る。銀色の硬貨が詰まっており、価値など分からずとも、かなり多いのがノイには分かった。ヴァルトがヴァルヴァラに声をかける。
「デボンダーデについて、教えてくれないか?」
「そうだねぇ……ノンナ、案内してやろう」
ヴァルヴァラとノンナに連れられて、ヴァルトとノイは真っ暗な部屋に通される。明かりが灯されていき、うっすらと、巨大な全身の骨が吊るされて飾られているのが見える。
「コイツは……」
「そっちがデボンダーデって呼んでるのとは、本質が違うというのが、我々ギムレーの見解だ。確か昨日話したと思うが、ここギムレーは現在、2日~4日の感覚を取って、デボンダーデが押し寄せてきている」
「おい、それって」
「明らかに度を越えた量だ。いったいどこから出てきているのか、皆目検討もつかん。方角からして球凰からなのは分かるんだが、そもそも奴らがベストロだとして、奈落がない……この骨格、見覚えは?」
ヴァルトは今まで戦ってきたベストロと、目の前の吊るされた骨を見比べる。
「……いや、初めて見る個体だ。つか、聖典にこんなの載ってたか?」
「いわゆる名付き、にしては巨大で……絵付きにしては弱い印象を受ける。まぁこちらの火力が高いからというのもあるだろうが、コイツ以外でも、およそデボンダーデに出現するベストロは、ここで発生してるデボンダーデには現れていないってのが状況さ。デボンダーデ自体が亜種、といえる」
「ったく、異常事態に異常事態が重なるんじゃねぇよ。俺の知ってる情報、いるか?」
「そこまで信じてもらっているのかい?」
「ギムレーが潰れたら俺らも終わるからな」
ヴァルトは奈落の存在が、ベストロの出現とは関係性が薄いことと、天使の存在を伝えた。
「……それは確かか」
「今ここで嘘を言う必要はないだろ」
「冗談ではないほど貴重な情報だが……いかしようもないな」
ノイが、ハーデンベルギアで遭遇した巨大過ぎる、海に潜る蛇のベストロを思い出した。
「……あっ、なんだっけ、あの大きな蛇の」
「リヴァイアサンか?」
ヴァルヴァラがヴァルトとノイを見る。
「リヴァイアサン?」
「西陸で発見された、完全とまではいかないが新種のベストロだ。俺たちでは強すぎる個体はベストロ・アベランっつう呼び方をしてたんだが、その範疇を越えたベストロだ。船を一飲みにする巨大な口に、空まで届いちまいそうなデカイ図体。聖典教のもう1つの派閥、プレイステッド派の聖典に、それっぽいのがあった。だがその成りは、あんまり似てはなかったな」
「そっちでも異常事態って訳か……」
ヴァルヴァラは玄関に向かい、ノンナを抱き締めた。
「娘とこうしてるときは、やはり至福だな……ヴァルト、アンタ少し休んだらどうだ?この子と一緒で、寝るのを忘れる方だろ」
「……いや、まぁそうなんだが」
「せめて気をしっかり持つんだ。デボンダーデは1日経ってまた来るなんてこともある。斥候は時間に問わず働いているがそれでも、来ることを止められる訳じゃない」
「アンタは人に優しいんだな」
「旦那の大人しさに充てられているだけさ……まぁでも、血を流させて笑おうとするのは、おかしいと思っているのも事実だよ。ポルトラーニン……君が見たことある猪の獣人には、被害者が折れてどうすると説教をよくされるが、ではそのまま恨みを募らせることは幸せに繋がるかといえば、私には首を縦には振れないのだよ。何より、娘たち子供らを巻き込みたくない……母親として、国の長として、それが間違いというのなら、間違っているのは世界さ。私はそう考えるから、君らに優しいんだ」
「……ノンナ、お前の母ちゃんすげぇな」
ノンナは笑顔を強める。
「でしょ~!!」
ヴァルヴァラは太い腕でノンナを担ぎ、外に出る。
「ノンナを寝かせてくる。どうせこの子はまた夜更かししただろうからね」
「寝たってぇ!」
「何時間?」
「三時間!」
「不健康だ。ヴァルト、今日は仕事はなしさ。この子に付き合ってくれてありがとう。街を歩くなら。上着はしっかり、深く被るんだよ?」
ヴァルヴァラは手を振りながら、ノンナを担いで外へ出ていった。ヴァルトとノイは取り残される。
(……ナタリアさんと何もなさそうだって分かって、少し安心した。でも、安心してる場合じゃないんだ。私は何もしてない……何もできないままは、嫌だ。あの人が……あの人がヴァルトに手を出す前に、何かしなきゃ!!)
ノイは、やけに呼吸を荒げ始める。
「ヴ、う、ヴぁ、ヴァルト!!」
「お、おぉ、どうした急にデカい声を出して」
「そ、その……お、おお金、つ使い道なあいいし?……そ、の」
ノイは、顔をの前に硬貨の入った袋を近付け、顔を隠す。
「……どこか、出掛けな、い?」
しばらく、ヴァルヴァラの盛り上がる声以外、何も聞こえなかった。ヴァルトは頭をかく。視線は髪で見えない。
「……ぉおぅ、ぅ分かった」
ヴァルトと、目を輝かせたノイは、揃って外へ出ていった。ノイは身体が震えている。
「お前、風邪か?」
「い、い、いや?」
「それいくら入ってんだ?」
「わ、わかん、ない」
「まぁいいか……上着を着て、人間だってバレないようにして……うし、テキトーにブラついてみるか。ついでに色々と情報集めるぞ」
「……う、うん!!」
ヴァルトとノイは、玄関を出て、予定も無しに歩いていった。ノイは懐に硬貨の入った袋を入れると、ヴァルトの隣へ駆けていく。
「お前、ここに来てから暴れたんだってな」
「来てからっていうか……連れられてきたんだよね。皆が弱っちゃったあとね、私も倒れちゃったんだ……それで起きたら、全員牢屋だったの。暖炉があったからまだ大丈夫かなって思ったけど、看守がいきなり銃向けてきてさ」
「……はぁ?」
「それで……その……」
「牢屋ごとそいつらぶっ飛ばして、鎮圧に来た、ヴァルヴァラが言ってた重装歩兵っていうのも、やっちまったってことか」
「だって……」
「人間を嫌うやつが、勝手に動いたんだろうな……まぁ当然だがな。助かった」
「私、こういうのはできるから……でも」
「……お前、以外と謙虚だよな。これしかできねぇっとかって、よく言ってる」
「そうかな?」
「なんでもそうだ、できるっつうのはすげぇなことだろうが」
「……」
「どした」
「私、女の子、だから……」
「……はぁ?意味わかんねぇ」
「……ヴァルトって、やっぱそういうの気にしないの?」
「あぁ?話が噛み合わねぇぞ、大丈夫か」
「……ううん、いいや。このまま行けば街なの?」
「あぁ、まぁな。ノンナから地図貰ってる」
「あの子、優しいね。人とか嫌いじゃないのかな……」
「……なんつうか、一人だったんじゃないか?あいつ、工具とかを友達みたいに呼んでるんだ。たぶん、趣味とか他人と合わなかったんじゃねぇかな」
「……じゃあ」
「1人じゃない……それが嬉しいんだろ。とくに、俺みたいに機械とかいじるやつが、あんまりいないんじゃないか?」
「……ヴァルト、じゃあ、あの子と仲良くする?」
「そりゃまぁ」
「じゃあ、お菓子とか買っていく?」
「そりゃいい考えだが、おまえ頭良くなったか?」
「なっ!!」
ヴァルトとノイは、頭巾ごしに街中を眺める。亜人・獣人は各々が家宅を持ち、街道は整備され、大型の獣人は鉄骨を運び、子供は雪を投げて遊び、所々でおそらく公共用の暖炉と呼べるものが稼働している。何より、ところせましと吊るされた魚が目立った。
「こりゃ、今まで見たどの街よりもいい街だな」
「お魚いっぱいだね」
ヴァルトは、突風に苛まれた。同時に潮の香りが鼻に入る。ヴァルトは地図と照らし合わせ、ギムレーの地形を把握した。西側を海辺に船が並べられ、東側に家宅や露天、集合住宅、様々な設備が密集している。
「漁獲量だけでこの数を食わせられるのか?」
ノイをおいて、ヴァルトは露店に顔を出す。
「おっさん、この肉なんだ?」
「はぁ?知らねぇよ。でも旨かったぜ」
「……財布取って来るわ、すまん」
ヴァルトは露店から離れ、ノイと合流する。
「たぶん、ベストロだ。そういや言ってたなヴァルヴァラ」
「……!?」
「お前、ここで飯食ったか?」
「そういえば食べたっけ……でも昨日は」
「……俺ら、たぶん寝てる間に食わされたぞ」
ノイは手を震えさせるも、自分の頬を叩いた。
「……大、丈夫」
「無理すんな」
「……そんなこと、言ってられないから、みんな食べてるんだよ。私だけ贅沢は言わない……もう気にしちゃダメだって、分かってる」
「ナーセナルって、凄かったんだなって思うぜ」
「お爺ちゃんって、オルテンシアの食べ物、買ってなかったのかな」
「ジジイ、ひょっとして不味いからって……いや、ジジイはミルワードじゃ偉い家系だかなんだかだ。ありえる」
「……とりあえず、お菓子買おう?」
ノイは、子供らの投げる雪が当たる。
「ん?」
亜人や獣人の子供たちが4人も並ぶ。
「ごめんなさい!」
ノイはしゃがんで視線を合わせて、謝ってきた少女の頭を撫でる。
「いいよいいよ。ねぇ、お菓子売ってる場所分かる?」
「お菓子?お魚の干し肉のこと?どこでも売ってるよ?」
「あぁえっと……うん、それでもいいよ。ここの、美味しかったなぁっていう場所ないかな?」
ノイは子供らの後ろを、ヴァルトと一緒に歩いた。
「そっか、畑とかないから、小麦とかもないんだ。お砂糖もきっとないんだよね……」
「野菜とかはあるんじゃねぇか?根菜がどうのって言ってただろ」
「あったら、まぁ嬉しいかな」
子供たちの1人である少年は、ヴァルトの腰にぶら下がる刀剣をさわる。ノイがそれを止める。
「ダメだよ、勝手に触っちゃ」
「えぇ~、いいじゃん」
「危険なんだから……」
少年はノイを見る。
「お姉さんってお兄さんのお嫁さん?」
ヴァルトが、言葉を放った少年を見る。ノイが赤面しながら、少年の口を塞ぐ。
「んぁ?」
集団にいる、鼻から水を垂らす少年が、ノイを見て嗤う。
(……あぁ、そういう感じね。がんばれお姉さん)
ヴァルトとノイは案内された露店で魚の干し肉を買う。
ノイは会計のときに硬貨の入った袋をそのまま渡し店主を困らせ、ヴァルトがその袋から硬貨を出す。買い物を終えて子供たちと分かれると、ノイは周囲を観察し初める。
「どした」
「えっ、いい、や?」
ノイは、懐の袋の中身を確認した。
(全然いっぱいあるし……何か、何かヴァルトに買おう!私、誘っただけで何もしてないじゃん!!ダメだって!!何か……食べ物、うぅん、ヴァルトだし何かこう、凄いいい感じの鉄とかのほうがいいのかなぁ、いやそれって贈り物なのかなぁ?)
ノイが歩きながら考えていると、隣にいたはずのヴァルトが消えていた。
「あれ、ヴァルト!?」
「後ろだ」
ヴァルトが露店によっていた。すでに買い物を終えいるようで、懐に袋を入れるのが見えた。木箱に詰まった野菜を抱えている。
「……ぇ?」
「亜人・獣人のなかに、そりぁ草食のやつもいるしな。海岸沿いだからって期待してなかったが、あるにはあるみてぇだな」
「えっと……えぇ?」
「さっき言ってただろ、あったら嬉しいって」
静かに降りしきる雪は頭と肩に少し積もっていた。日の光は頭上にあるようで、頬を撫で、溶ける。積まれた根菜類の中に、青野菜が多かった。
「えっ……」
「足りねぇか」
「いや、あれ、お金」
「俺は昨日の時点でもらってんだよ」
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




