二話 鉄
二話 鉄
乾いた風が窓を叩る、鉄枠で囲われた蝋燭の明かりに照らされた、木材と石材の、暖かみのある部屋で目を覚ました。壁にかけられた盾や剣がぼんやりと、ヴァルトの視界に入る。
「……ここ、は?」
隣の寝台がガタつき、かけた布が宙を舞ってた。ノイが上から覗くようにして、ヴァルトと目があった。
「大……丈夫!?」
「……あ、あぁ。ここは、俺たちはどうなっ」
窓を叩く突風のなかに、それらを黒く切り裂くような音が、長く轟く。金を切る訳ではない、無機で芳醇な音。
「……な、なんだ!?」
ヴァルトが起き上がろうとするのを、ノイが止める。
「お、起きちゃダメ!ヴァルト、まだ寝てて!」
建物が少し揺れ、大地の揺れが始まり、その無機で芳醇な音が迫る。鉄のひしめき騒ぎたてる、錆びつくよう金切り声が響く。
「あぁ!ヴァルト、こ、こうやって!」
ノイは両手で耳を塞いでいた。
ヴァルトも同じように塞ぐと、建物を揺らしきるほどの轟音が広がり、窓が震え上がった。ヴァルトが慌てて寝台を降りて窓を開ける。
青みのある石材で構成された城壁に囲われた街はどれも煙突から煙が上がる。城壁の上には黒い煙というような痕跡がある。高鳴りが街の反対側に響き渡る。外壁から、粒揃いの銃声が等間隔に、矢継ぎ早に鳴り響る。硝煙が壁の外から上がる。
「こいつぁ……何がどうなってやがる?ばっちり防壁のある街じゃねぇか。ここ、イェレミアス北部だぞ?街なんか一個も……」
部屋の扉が叩かれ、開けられる。
「んぉ、アンタ起きたか。」
ヴァルトが振り返ると、体格の良い、毛並みの真っ赤な獣人が現れる。
狼や犬に近い、首飾りや腕輪の荘厳さやきらびやかさ、腕なども太いその女人は、袖のある外套をなびかせて大股で近寄ってくる。
「アンタらは、本当は捕虜にでもしちまおうって話をだったんだが、この嬢ちゃんが国中で暴れてやるだのなんだのって……衛兵のほとんどをぶっ飛ばして、挙句重装歩兵の鎧が銃ごとひしゃげてぶっ飛ばされて、アタシ初めて見たよあんなの」
ヴァルトは目線を会わせると、その女人が笑う。笑いながらヴァルトの肩を叩く。
「行動隊の精鋭さんがなんでお国に追われてるか……まぁ事情は全部嬢ちゃんから聞いたよ。これ以上やられても困るのもある……その代わり、君らは客人としてウチで保護する。すでに交渉は完了してっから、何も気にすんな」
「……君ら?そうだ、仲間が」
ヴァルトが周囲を見ると、ナナミとフアンが寝台で寝ていた。
「フアン、ナナミ……」
「この二人は消耗が激しい。あんま触んなよ」
「……じゃあ、教えてもらっていいか。ここはどこで、あんたは」
建物を揺らしきるほどの轟音が広がり、窓が震え上がった。耳を塞いでいなかったヴァルトとノイは頭が痛くなる。女人は塞ぐ様子もなく、笑顔になった。
「はっはっはっ、人間ってモロいよなぁ。まぁアタシらも人間だけどな。この国を紹介してやりたいのもなんだが……嬢ちゃん、ソイツに肩貸してやりな。案内してやる」
女人に連れられるまま、ヴァルトとノイは歩いていく。女人が大きな両開きの扉を押し飛ばすように開く。寒風が室内に雪崩れ込む。女人が羽織っている飾りや袖のある外套が躍り狂う。
「ヴァルト・ライプニッツだったな。ようこそヴァルト……」
外壁の外側では、ベストロの黒い絨毯が動ている。突如爆発する絨毯は、盛り上がり、吹き飛ばされ、引きちぎられていく。防壁の上のは、鉄の蛇のようなものが、黒煙を撒き散らしながら走る。鉄の蛇の背中にある巨大を極めた大砲が、黒々とそびえる。防壁の上や中から、アドリエンヌやイェレミアスではまったく見えない様相を醸し出す。砲撃の反動を、砲身の後退で受け流すような、車輪で動かせる砲身が並び立つ。兵士の全ては亜人や獣人で、各々の使っている銃は後装式で、細工を動かし装填と排莢を繰り返し、五発連射しては再度装填を繰り返している。ベストロたちは風穴を凍らせて、山のように積まれている。
「西陸最北……ここは人類に知られざる亜人・獣人の楽園。都市国家ギムレーだよ」
2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。




