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三話 牙城攻略

三話 牙城攻略


1番奥の部屋ルノーとフアンが入ると、薄暗い中、ルノーは袋を取り出した。


「それは?」

「僕の身分を保証するものです……あなたにはこれから、この酒場と、ボドリヤールさんの名誉を守っていただきたい」


部屋に置いてある寝台に中身をばらまく、フアンはそれを見て思わず構えてしまうが、すぐにそれを解き、ばらまかれたものの中で光る1つのものを持つ。


「……薄暗がりでも光る、聖典の表紙にある十字光、それを模した首飾り」

「……御光を投じ、律するものこそなんとやら」


フアンはばらまかれたものを見る。


「……白を基調とした高めの布地。そして羊毛のかつら」

「先に言いますがボドリヤールさんは知っています。僕は……オルテンシアから来ました」

「なんでそれを僕に……名誉とは?僕に何をしてほしいのですか?」

「兄の殺害です」

「兄?」

「1ヶ月前オルテンシアで、僕の家は集団に襲われました。完全に家は焼け落ち、家族はおそらく皆殺しでしょう。誰がなどは分かりませんが、理由は予想が付きます」

「その理由が兄だと?」

「予想ですがね……兄は随分と口が上手く、よく女性をたぶらかしていました……そして関わる女性が、高い割合で失踪するんです」

「兄を犯人と決めつけたものの逆恨み……待ってください、まさかこの街にその兄も……!?」

「僕は兄と一緒にここへ逃げ、そしてボドリヤールさんと遭遇しました。僕だけが保護されました、兄が兄弟愛をかなり大袈裟に唄ったからだと思いますがどうにも……しかし先ほどの発言から、ボドリヤールさんは幼い存在に対する慈愛のようなものが顕著……これは偶然でしょうか?」

「ボドリヤールさんという抜け穴を知っていた……内通者の可能性?」

「僕はそれを、ポワティエ家のラウルの妻、タチアナだと推測しております」

「なぜ?」

「兄が得意とする年代の方だからです」

「兄がタチアナを通じてここへ潜入している……?」

「タチアナを利用して、隠れて過ごしていると思います。入り方は別口で用意しているのでしょう……全て推測ですが、兄は何らかの支援でここを既に知っており、そして何かをするためここに来た。焼け落ちた家の原因と一緒か、あるいは別か……謎ではありますが」

「妄想のし過ぎでは?それにそこまで敬白な人間が、どうしてあなたを守ろうと?」

「僕は文才がありますから、どうとでも利用できましょう。過ぎるで済めばそれで良い、誰かが傷付き、涙するより」

「君の歌ですか?」

「あまり人気ではありませんでした。僕は唄ったときの気持ち良さより、自分の感性や言いたいことを優先するので……でもあなたには刺さるかと」

「動くだけ動いてみます……誰かに共有しても?」

「それなんですが……できればやめていただきたい」


細かいことも含めた様々な事を話し、夕方。


「……っていうことがあったんですよね、ヴァルト、ノイ」

「すぐに裏切るのも大概だぞ?」


フアンは集落の外れで、洗いざらいヴァルトとノイに話していた。夕日によりできた陰で、ヴァルトとノイがフアンと思案する。


「とりあえず、本人見つけられたら私がなんとかできるかもな。タチアナってことは、中央にある城にいかなきゃならねぇのか……?まぁ小さいし、大丈夫だとは思うが」

「タチアナと組んでいるということは、賄賂か何かで警備を強化しているかもしれませんね……迂回を意識して慎重に」

「いや逆に厳重な所を探そうぜ、変に強固な部屋とかがあればまずそこに件の兄がいるはずだ。ちなみにソイツの名前はなんだ?」

「ジャン=ポール」

「了解。なぁ、オルテンシアから来たってことは、アイツ名前も嘘ついてるだろ?ルノーってのはイェレミアスの名前だ」

「でしょうね、本名は何でしょう?」

「ルノー……似てる感じだとレノーとかか。潜入ってなると、フアンか?音で周囲を把握できるから立ち回りが簡単だろうし。ノイ、俺らはその補佐をしよう」

「ヴァルト、言いにくいですが……あの力を使えばあるいは簡単なのでは?」

「使い方があんまし具体的じゃねぇんだよな……思うでも言葉でも、たぶん命令をするってのがカギかもしれねぇってのが、今のところなんとも。それに色々削られる。今できるようになったとて、何ができるか、どれくらい削られるか、試行錯誤する時間も体力もねぇよ」


ノイがうつむいた。


「あまり使ってほしくない……」

「んぁ?」

「いや、なんでも……!?」

「潜入……気を引き締めなければ……よしやってみましょう。何かあっても声を出さなきゃさいあく酔った母さんだよっていえば、なんとかなります」

「なんだっけか……ほら日輪の、じじいん所の本で読んだ」

「忍者!」

「お前の格好ほぼあれだなよな」

「これは球凰の……あっ」

「どしたのフアン?」

「あの……僕の格好を皆さん突っ込まないのって、ボドリヤールさんが言っていたように、疲れているから……なんでしょうか?」

「あぁ~そうなのかな?」

「ナーセナルじゃ……まぁ慣れで言わなかったし、ここは疲れ……あれ、バックハウス家でも言われなかったよな?とくに」

「じいさんがあらかじめ伝えてあったからとか?」

「町の奴らからは一応見えないように行ったし、まぁそういうことだろうな」


ノイが催促した。


「ねぇ、やるならはやめに、今夜にでもやろ?」

「まぁ待て、まずは案を出すぞ。個別でテキトーにふらつきながら城と周辺を探索そて地形を覚える。あと、パメラかボドリヤールに警備状況を聞く必要がある、これはフアンに頼んだ」

「私も1人で歩けばよいの?」

「あぁ~……まぁお前が1人は無理か」


フアンが提案した。


「ヴァルトとノイで偵察、僕が情報収集。作戦は各々作りながら、母さんの家で合流しまとめる……そして決行。これでいいですね?」


全員の意見を合わせヴァルトらは動きだし、夜になる。月明かりの比較的少ない微妙な天候が、潜入の難易度を上げていることをヴァルトとフアンは感じた。

作戦の共有を全て終わらせ、ヴァルトは城の正門前、ノイとフアンはヴァルトが見える城壁の側面付近の茂みに隠れた。小声で話している。


「ねぇ、私の案なんて採用して本当に良かったの……!?」

「いやぁさすがにアレは採用します。パッと言われたときは唖然でしたが……」

「何よ」

「いや、それできます?って思ったんですけど、ノイならできますよねって。でも普通やろうとは思いませんよね」

「んで、その塔の上?に行けたとしてその後は?」

「塔を担当しているリカルドという方が、内部構造を教えてくれるようです。一旦ヴァルトの動きを待……ヴァルトが動きました」

ヴァルトは正門前にいる。ポワティエ家の首飾りを掲げ、2人の門番の片方と会話をする。

「すまん、今ラウルじ……ポワティエ様っているか?いやいなくてもいいけどよ」

「発言に気を付けなさい、一応アレでもここを管理している方だ」

「アレって……まぁいいや、聞いてると思うが、ここでちょいと武器の練習をしていいって言われてる。入るぜ」

「いや、聞いてないな……」

「おいおい、伝わってないのか?」


もう一人の門番が話し出す。


「あぁでも、なんか団長さん言ってような……ヴァルトさんだったよね?体が本調子じゃないとかなんとか言ってし、まぁそういう流れもありそうではあるが……ラウル様抜けてるしなぁ、備蓄の管理とかも、やるって言っておきながら結局ラウル様以外でやってるし……いいんじゃないか?」


ヴァルトは門の中へ普通に入ることができたのを、フアンらは見ていた。


「いきますよ」


側面の、正門から見た後方へ向かうと、巡回する自警団が見え、フアンらは隠れた。


「門番の片方はメロディさん経由で懐柔しましたが、情報が漏洩する恐れから、自警団全員を味方にはできません。ノイ、今からあの方をなんとかします」

「どうやって?」

「母さんで、です」


酒の匂いと共に茂みから飛んであらわれるそれは、しかし静かに巡回と対峙した。


「え、あの……パメラさん?あぁ、酔っぱらっちゃってもう……」


片手に酒を持って、ふらつきながら近寄り巡回を押し倒す。口を押さえられ羽交い締めにされ身動きが止まるも、静かに行われたそれに、城を囲う防壁上の警備は気付いていない。パメラが片手を上げた。


「今です」


フアンが先頭で壁に張り付く。フアンは袖から何かを取り出そうとするも、ノイが止める。


「何か?」

「壁、見て」


壁に入ったヒビをフアンが発見した、ちょうどよく段差ができており、登れそうに見える。


「使わなくても良いんじゃない?登るための道具、後に取っといたら?」

「ノイ、頭良くなりました?」

「はい?」

2人が壁を登りきると、壁上の全てが壁内に向けられていた。鉄が擦れる音が響き渡る。


「ありぁすげぇな……」


ヴァルトは柄と鉄糸で繋がれた刀剣を、鞭のように扱って振り回している。戦いの訓練ができそうな施設が小規模に備わり、その間を通すように波打つそれを制御しきっていた。壁上などからヴァルトに話しかけるものが現れ始める。


「おぉいあんた!それ何見越した訓練だぁ!?そんな動き、意味なんてねぇだろうが!」

「うっせぇハゲじじい!」

「なぁんだとぉ!?そもそもこんな遅くにやるなぁ!」

「ここにいる全員ハゲじじいだろどうせ、黙って若い奴の動き見てろってんだ!」

「ふつーに女いるよー!」


フアンはパメラの家で開いた作戦を思い出していた。


「つまり、門番くらいなら突破は容易と?」


話し相手はメロディとパメラ。


「それからが大変ですよ。単純に、鍵がかかっていたりもですが……以外と動員が少なくないんです」

パメラは

「備蓄を保管してあるからねぇ。犯罪防止というより、ベストロと害獣対策。外壁二枚隔てあっても、設備としては古いし不安でね。ていうか、面倒なことになっちゃったねぇ」

「すまない……」

「悪いのはその兄さんってのとラウルさんのお嫁さんでしょ?あなたは悪くないわ、まぁ独断はよくないけどね」

「突破できるとしたら……?」

「塔の下層から扉を開けると、宿舎とか色々と建物に繋がってる……内側同士は駆け付けるために基本は鍵がかかってない。大きさでいえば普通の屋敷くらいはあるけど、まぁフアンなら大丈夫だと思うな」

「僕が塔の上にいければ問題ない……いや、でもそれ……」

「今日の塔、担当がリカルドっていう狼の獣人さんなの。最近来たんだけど、真面目なクセして意外と緩いっていうか……話通さなくても、いけると思うわ。ひょっとそたら私と勘違いするかも?」

「時間的にはまだ間に合う、私が話を通しておこう」

「不特定多数に知らせても、相手の影響力は図り知れません。話を通すとしても、そのリカルドという方だけにしてください……というか、警備が緩すぎでは?正面から堂々と行っても、聞いてる感じ問題なさそうですが……」

「秘密を探るなら黙って入った方が、なんか良さそうじゃない?」

「相手の位置が不明のなかだ、刺激して動かしてしまうよりは慎重にいくのをおすすめする。森と一緒で、獲物も敵もどこにいるかが分からないし、今回は獲物であり敵だ。それに気を抜いている時こそ、何かを露呈しがちだ。耳が良い君なら、その好機を生かせる」

「でも、どうすれば塔に」


ヴァルトが家に入ってきた。木の皮を持っている。


「お帰……え、ヴァルトそれは?」

「いやなんかネズミ取る罠作れねぇかって言われて……材料渡されてよ?てか待て、話したのか?まぁいっか、どうせ一悶着あったら知れ渡るだろうし……」

「塔上からならいけるらしいです」

「あれ結構高いぞぉ?登るにしたって時間かかるし……囲った防壁にまず登って、そこからどうにか上に……」

「正門からみて左側の側面後方からなら塔は近いはずだ。そこからどうするかだが……」


ヴァルトに続いて、ノイが入ってくる。


「上にいければ良いんだよね?だったら……」


砦の壁内にて、ヴァルトは火薬を用いた抜刀を行い、ひたすらに注意を引き付けた。


「うわぁなんじゃありゃ、あれがナーセナルの武器か!」


壁上の警備の視線がヴァルトに集まるのを確認し、フアンはノイに指示を出す。


「今です、お願いします」

「うん、でも……距離足りなかったらごめん」

「やり過ぎで、たぶん丁度良いです。終わったらすぐに引き返して、パメラさんを回収して、酒場で待機していて下さい」

「分かった」


ノイはフアンを両手で、丸太を持つように抱え、振り子のようにして反動を付けて、全力で上空に投げ飛ばした。目立ってはいたが、ヴァルトに視線が集まるおかげで壁上の者の視点が下を向いている。誰の視界にも入ることなく放物線を描くも飛び過ぎたようで、おそらくリカルドであろう狼の獣人と目が合いながら、目標地点である塔の頂点を過ぎようとしている。


袖を振り取り出したのは、先に粘性の液体が着いた縄の束であった。粘性の液体が着いたのを塔に向かって投げると、狼の獣人がそれを掴む。


「なんだこれ、糊か……!?」


フアンは投げられた方の反対側に、リカルドを作用点として塔の側面に着した。着地で削られ落ちた石材が下の巡回に当たる。


「いった、何よ?」


すぐさま獣人がそれを引き上げ、フアンは砦内部の塔の天辺に到着した。獣人は下を覗くと、巡回が上を見ていた。手を振り挨拶を交わし、獣人はフアンと目を合わせる。


「いや……まさかこう来るとは……話には聞いてたから、下から登ってくるものと……いやでもそれはそれで非効率か」

「どうも。あと縄、ありがとうございます」

「おかげでねっちょりだ……」

「掴まなくてもよかったんですがね」

「いや、さすがにあれは掴むよ。こいつは何だ?」

「優性を引いたトリモチです。特定の品種の樹皮を砕いて色々やるみたいです。作るのに半年はかかるそうですが、今回は仲間の手持ちのものですね」

「道理で、全然取れねぇ……まぁいっか。俺はリカルド、握手欲しいか?」

「明日にでも」

「内部構造だが、そこの鞄にそれっぽく書いた地図を入れてある。あと警備の人数、順路諸々……」

「協力的ですね、やけに」

「何か最近……変な感じがしててな、ラウル様はまぁアレだが……タチアナ様がやけに機嫌が良い、もうお年なのに……あと、よく廊下とかその辺りを彷徨いてるときがあるんだが、まぁそれがえらく不気味で……俺はここに来て日は浅いが、備蓄の管理を担当できる程度に責任を買われている。俺が背負えるものは、できるだけ背負いたい」

「防壁沿いの方々はそうではなさそうですが」

「だからこそさ。団長さんから話を持ちかけられたときは……正直嬉しかった。認められた気がして」

「……事前に、緩い方だと聞いていました」

「まぁ、固いよりは良いかと思っていてな……誰かと関わるのが苦手というか、色々と使い分けてるんだ……」

「ありがとうございます。あなたとこの情報は、中々信用できそうです」

「そうか、ありがとう。でも俺がいうのも何だがあまり信用するんじゃない。俺達は関わりが薄いからな」


フアンが地図を読んでいると、下層の扉が開き誰かが螺旋階段を登る音がする。


「実は交代の時間なんだよなぁ丁度、来るぞ、どうする?」


フアンは液体の入った皮袋を取り出し、トリモチにかける。柑橘の香りのそれが少し広がり、トリモチが柔らかくなっていく。


「柑橘類の種から作った油だそうで、とりもちにはこれが効果があるそうです。歩哨に関してはご心配なく、外周から窓を経由して入って、交代と入れ違いで中に侵入します」

「計算済みかよ、色々すげぇなおい……ナーセナルってそんなこと教えるのか」

「仲間の案です。では、お願いします」

「これ、油けっこう怪しくないか?」

「水と油を間違えたとでも言っておいて下さい。何かしらでバレたら、パメラさんがやったとでも言って下さい」

「雑だなぁ扱い」


フアンは綱を掴みながら降下し窓から侵入。階段を下って扉を通る。巡回を足音から察知しながら、しゃがみと抜き足で進んでいく。


(上も下も、結構音が……聞き分けるしかありませんね。とりあえず安全そうな場所は……糧食の置き場は、サボりの方でもいるのでしょうか?音がしますね。塔の階段の方向……これはリカルドさんでしょう。件の兄とタチアナ……話し声でも聞こえてくればよいのですが)


フアンが注意深く宿舎を歩いていると、下から話し声。地図を思い出しながらそこへ続く階段付近で音を聞く。


(2人分なのは間違いない……地下とは、安直過ぎますが音は聞こえにくい……結構大きく感じますが、亜人や獣人の方々でも聞こえていないのでしょう。僕、やはり聴覚で優性引いてるんでしょうかね?)


付近で足音が2つ。


(地下へ続く階段付近で2つ……話し声には気付いてはいないようですね)


階段前で2人の会話が聞こえてきた。


「なぁ、最近タチアナ様よく地下に来られるよな?」

「確かに。本を持ってたし、静かな所で読みたいんじゃないか?ほら、ラウル様イビキ凄いだろ?」

「なるほど。というかあの本って童話の、だよな?ほらアレ、めちゃくちゃ純愛の」

「純……あぁ~あれアレだったのか。ぁ~俺も嫁さんとあれくらいなりてぇよ……木陰で膝枕されてぇ~」

「俺も~、結局憧れるよなぁなんだかんだそういうのさぁ」

「あのお年で憧れるって、以外と乙女なのかなぁタチアナ様。でも最近凄いキレイになったよな」

「それなぁ、びっくりしたよな。いやぁマジで若返った感じある。若い頃はもっと凄かったんだろうなぁ。ポワティエ家に嫁ぐってアホだと思うぜぇ?」

「いやでも、見方をすげぇかえればラウル様は魅力的だろ。土地持ってるし」

「はい~、純愛じゃない」

「あっ、てめぇ」


フアンは袖から粘性の着いた綱を取り出す。


(本来は外壁と塔に使う予定でしたが、1本余ってますし、折角なんで使ってみましぃうか……ノイはたぶん話聞いてないから、持ってるのが1本って思ってるんだろうなぁ……)


フアンは付近で明かりを灯している松明を運び出し、点火してあるまま、粘性のそれを燃えている方の反対に取り付け、曲がり角からそっと倒した。


「おお、やべぇやべぇ!」

「どうした?」


片割れが駆けつける音で、フアンは紐を引っ張り奥へ松明と片割れを誘導し、顎を思いっきり殴って脳を揺らして倒した。


「おい大丈夫か?足元ちゃんと見」


音に気付いたもう一方の片割れが、手早く曲がり角を曲がる瞬間、相手の速度を利用した一撃で相手の脳をまた揺らして倒した。


(これ全部母さんの仕業になるんですよね……ごめんなさい、自警団の皆さん。母さんは悪い方なのです……)


フアンは後片付けをした後、地下への階段を下っていく。湿った音は止まり、徐々に話し声が聞こえてきた。


「……あなたのおかげで最近キレイになったわ」

「いえいえ、とんでもない。これは兎の亜人・獣人の特性です。これはあなたの夫がいけないのです」

「うふふ、そうよねぇ……ねぇ所で、最近寝ているのか寝ていないのか分からないのよ、何か知らない?」

「夢遊病……でしょうか?」

「そんな病が?」

「えぇ、症状が進行すれば最悪の場合死に至ることも……」

「そんな……私どうすれば……」

「深く眠る必要がございます……ここは静かですが、眠るには少し風が欲しい。この薬を、眠る直前にお飲み下さい」

「あの人、うるさいのだけれど……」

「ですがあそこ以上に上質な寝床もないでしょう……」

「……これ、本当に大丈夫かしら?前のみたいなのじゃなくて、ただの水しか入ってないようだけど」

「ご心配なく……僕が貴女を仮に裏切るとして、何の理由がございましょうか?このように毎晩お世話をさせていただき、誠に僕は幸せものですと日々実感しているというのに……私はもう貴女無しでは生きられない、貴女もそうでしょう?」

「えぇ、若い頃夢見てたみたいな……ちょっと、場所は暗いけど」

「蜜月とは暗い中行うものです、マドモアゼル?」

「あらやだ!もう、いいわぁなんだかこの甘い感じに……そこに更に大人の苦い感じが合わさって。じゃあ私はこの辺で」

「夢の中でまたお会いしましょう……」


フアンはただそれを聞いていた。


(隠れよう。道は1つしかない、タチアナが出てきた所で一気に詰める……いや、もう少し待ってみましょう)


フアンかが物陰からタチアナの姿を見た。およそ壮年とは思えない若々しい風貌に、異様に目立つ胸囲が印象を与える。


(あれがタチアナ……?でも、さすがに若すぎないでしょうか?)

2025年6月3日時点で、997,634字、完結まで書きあげてあります。添削・推考含めてまだまだ完成には程遠いですが、出来上がり次第順次投稿していきます。何卒お付き合い下さい。

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