U?n?j?o話u断r片2+一話 銀世界
U?n?j?o話u断r片2
「……私が思うに、ヒトは善悪という括りに執着し過ぎていると考えます。もっともそれは当然といえますが」
「君はヒトをどう考えている?」
「ヒトは、利益を求める生き物です。そこから逸脱する者はもはやヒトではないほどに。利益を求める理由は至極真っ当、そう行える時間と体力を文明が育み、他者や異性が求める水準が全体で上がることにより競争が常に激化するからです。生き物の根幹は食べ、増えること。であれば必然でしょう」
「……だが」
「ここで大切なのは、ヒトは利益を求める生き物であるのであり、なにも利益を作り出す必要がない点です。家族に食事を与えるためには畑に種を撒き作物を育て、収穫し調理する必要がありますが、ここで完成品の料理を強奪してしまえば、強奪した本人の家族は労働無しで利益にありつけることが可能性なのです。あるいは料理を自分で作り上げたと声高らかに発すれば、子孫を残す機会を十分に得られる」
「それでは悪事を働くもののみになり、結局誰もゼロから価値を生み出さず、人類は全滅してしまう」
「そこは心配ありません。すでに人類はそれを克服する手段を携えています……それが、善悪の概念です。善悪の概念により区分された利益の求め方は、詩的に人々を善へと誘惑し、善と認識される利益の求め方に焦点を当てさせる。正義を纏うことで暴力という悪も一見は正義になり、国王の処刑などという凄惨な光景すら子供にも希望に見せてしまう、そうするようにして、悪と区分される利益の出し方は抑制されていく。つまり、善悪とは利益の出し方の区分に過ぎないのです。そして利益に固執するのがヒトの本質である以上、悪は滅ぶことはありません。もし仮にヒトから、戦争や差別・迫害含め、悪というものを取っ払うのだとしたら、すべからくとして、全ての生存的・生物的な欲求を棄てる必要があるでしょう。そして、それは生体であるが故に不可能、悪は正義と共に、既にヒトに刻まれている」
一話 銀世界
銀の粉のようにして、青々と夜に、少し欠けた月で照らされる大地。道はあるのか、あるいは無いのか分からないなか、一行は深々として、まっさらにも見えるのを前進していた。頭には雪を積もらせ、ナナミはそれを振り落とす。一行の全身は毛皮で覆われており、ノイは鼻をつまんでいる。
「かれこれ、何日歩いたか……もう分からんな」
「なんらかちょっと臭ってきた」
最後尾から2番目、青年が頭をかくようにする。
「急ごしらえ、なめしもしてねぇ……たぶん、削ぎ落としそびれた肉が腐り始めたんだろ」
「こんら寒いのに……」
「それくらい時間が経ったって話だろ……くっそ」
「これからどうすんらっけ……」
流れる月は雲にかき消え、静かに息を殺させる白の毒は吹き荒れ始める。縦一列で行進し、深い雪を見つけて、掘り起こし、手持ちの道具類を敷き詰めて地面と直接触れないようにし、焚き火はなく、全員で固まって互いに暖を取る。
「散々言ったが、とにかく北東に歩いて人でも建物でも見つけるしかねぇ。イェレミアスの北は極寒、未開の土地だ……だが、東へ行けば東陸の大国、球凰にたどり着く。北へに向かって追手を回避しながら、東に向かっていき、道中の、球凰人の野党の根城でもぶっ飛ばして活動拠点を確保する」
「……結局なんだったんだろうね、あの白い人たち」
「アドリエンヌ、オルテンシアで何度か会ったことがある。ゼナイドが教皇の前で事件を起こしたときも、俺たちが第三次デボンダーデを止めるために、倉庫を爆破したときも、奴らに近い奴らがいた」
黒装束に茶色い毛皮をまとったフアンが、仮面ごしに白い息を吐く
「爆弾で飛んできたあれですね。大聖堂の地下でも、警備のようの立っていました」
「確定だ」
「イェレミアスにおけるナハトイェーガーのような存在が、アドリエンヌにもいる……」
「聖典教の暗部を占めるやつら……バックハウス家の無事もわかんねぇな。しかしいきなりだったな、まさかバックハウス家に乗り込んでくるなんてよ。あれ、たぶん戦争の火だねになってもおかしくない。あとが不安すぎるな」
ナナミの歩幅が少し短く。列に間隔があく。
「……ナナミ、大丈夫?」
「潜入のときに狼に噛まれてから以来、ちょいと体調がな」
ヴァルトは、空っぽの水袋を虚ろな目蓋で見上げる。
「まともな水もなし……本気でヤバイな。だが、外まで追ってくるとなると、南下してナーセナルに行くわけにもいかなかったし……どうすれば、良かったんだ……?」
寝ることの許されない、先の見えない大地。低温という毒はすでに一行を蝕んでいた。雪を纏った突風の行軍は止む気配をせず、縮こまった一行はさらに、その雪が弾丸のように早くなるのを見る。
「……くっそ、風が強くなりやがった。冬に北上ってのは……これ、マジでやばいな
」
ノイは、顔色の白いヴァルトとナナミを見る。唇の青々、閉じかける瞳に恐怖する。目のあったヴァルトは、しかし視線を下に落とした。
「お前ら、まだ動ける、な……」
「なに、どうしたの?」
「……」
ノイは、全員の動きが止まり、目を開けているようで開けていない様相に、唖然として見ている。いまにも凍り付きそうな様子。
「……あれ、皆!?」
ノイは、頭を抱え込み、思案する。揺すっても返事がなく、自分の手が冷たさを感じる。
(どうしよう!とりあえず、暖かい何か、いや私、火なんて付けらんないし……何かヴァルト、最後に言おうとしたし、なんだったの!?どうしよ、どうしよ!!)
ノイは自身の持つ毛皮の上着を握りしめる。
(フアンの耳で、冬眠中の熊を狩れた。ナナミが捌き方、知ってた。ヴァルトが道具で裁断して、裁縫もしてくれた……私だけ何も……何も!!)
ノイは目蓋の下を凍らせて、狭い中で立ち上がり、ヴァルトの鞄に手を突っ込んだ。擦れる音と共に、鉄材を皮膚に張り付かせながら、縄を取り出す。各々の上着がずれないように巻き付け、フアンを背中に固定するように縛る。ヴァルトとナナミを抱えるように持ち上げる。
(一番装備の重いヴァルトを背中に固定して……ごめんナナミ、痛いだろうけどおなか抱えるね!
)
ノイは全員を武器ごと担ぎ上げる、フアンやナナミの刀剣は包帯のようなもので巻き上げられている。
荷物も全て引っ提げられる限り持つと、ノイは強く息を吸った。凍らせるほどの風を身体に回し、真っ白な吐息を、タバコの煙よりも多く強く吐き出した。
「私が、なんとかするから!」
ノイは壕を飛び出すと、雪を顔にかすめ、血が出るほどの勢いで走り出した。乾いた風が血を拭き取り、また1つ傷が生まれる。
(どこ、どこ!?どこか……どこか暖かい場所、人のいる場所!!)
白の世界は先の黒さを指し示す。足跡の深い一本道を残し、轟々たる喘ぎが、それでもこだますることはなかった。広々とただそうあるだけの空間は自身が動いたのか、動いていないのかすら判別させず、自分がかつて来たような場所、来たことがないような場所を連続させる。振り向いて足跡を見てもすでに雪が積もり、道はあるかぎり無数に存在していた。ノイは心を震えさせる。
(いま、どこなんだろ……ねぇ、誰かいないの……!?)
走り続け、続け、壕のある地点にたどり着く。
(そんな……えっ、戻ってきちゃった……あれ、あれ?)
ノイはヴァルトたちを下ろすことなく木々に上り、辺りを見渡す。白くて暗い、ほとんどない輪郭に、しかし山を発見した。ノイは走り、崖のような山を登っていく。腰で踏ん張り、つまずきそうになるたびに、引っ掛かった岩を蹴りで破壊し、ならしながら前進していく。振動により雪で覆われた岩の割れ目が黙視でき、それらを回避しながら山を登りきる。高さに比例したように、視線の先には何も見えなかった。
(でも、戻ってきた訳じゃない……なら、進んだ方がいいはず!)
ノイは腰を据えながら、斜面を歩いて降りていく。
(一歩一歩、確実に……大丈夫、転ばなければ大丈夫……でも、どのくらい歩いたんだろ、半分は降りられたかな……?)
ノイは真正面から強く雪風に当てられる。斜面に続々と募る新雪。ノイは考えに気を取られつまずきそうになり、足で少し地面を揺らすほどに踏ん張りをきかせる。
「危なかった~っ!」
振動は爆音を発した。ノイの後ろから、雷撃ほどの勢いで雪面にヒビが入っていき、崩れ始める。
巨大な白い怪物にも見えるそれは自然の理であり、意思を持たず、理由のみをもって牙を剥いた。ノイは危険に気付いて、坂を走って下り始める。まっすぐに、滑り降りるよりもなお早く走り込んでいき、雪塊石塊、全て飛び越えて雪崩を後にした。雪崩は斜面の終わりに激突し白銀と爆砕し、ノイは背に破砕を背負って雪に、自分を止めるように跳躍して突っ込んだ。
顔を出し、姿勢を整えるも、息切れがひどく、吹きこぼれる蒸気のように口から吹く。いまだ吹きすさぶ中、ふらついて歩くノイは、枯れたような木々の間を歩く。
遠くの枝から雪が落ちると同時に、違和感と共にノイは転倒、強く頭を当てる。意識をしっかりと保ち、頭から血を流しながら、足の絡まりを脚力で破り、立ち上がって足元を見る。石ころの繋がった紐を束にしたようなものが破れており、アザができていた。ノイの周囲は吹雪の奥の全てに、陰に隠れる者たちで取り囲まれていた。
「Есть люди, есть люди!」
「Убей это!!!!」
ノイは、理解できない音の数々に、確かな殺意を感じた。拳を握りしめ、音のあった方向に首を傾け睨み付ける。影は動き、鉄材の擦れる音がやけに激しい。手の陰に見えるそれは銃があるように見える。
「Почему ты здесь? Что-то случилось с Эдриен?」
「Вы хотите помочь людям!?」
ノイの持つヴァルトが光り始め、姿を変容させていき、ゼブルスに変化した。ゼブルスは目を覚ますと、周囲の陰に目をやる。
「Это не наша работа как скаутов.Вам следует поговорить с шефом. Ведь наш город – это нация.」
ノイはフラフラとした後に倒れ、消え行く意識の中で怒りを露にしながら、それでも倒れる他はなかった。力は抜け、寒さは遠ざかり、そうして目は閉じた。




